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企業の防災対策は従業員が死なない環境作りから

最終更新日:

執筆者:高荷智也

事業継続計画(BCP)の発動は、災害で従業員が死傷していないことが前提となります。企業の防災対策の最優先事項は従業員の生命を守ること、その考え方をご案内します。

企業の防災対策は従業員が死なない環境作りから

企業のリスク管理は、従業員を死傷させない準備から

近年頻発する自然災害や大事故、特に2011年の東日本大震災を受けて、大企業や中堅企業を中心に、事業継続計画(BCP)を策定、また策定の準備をしている企業が増加しています。首都直下型地震や南海トラフ巨大地震をはじめ、近い将来さらなる大地震の発生が想定される昨今において、BCPを策定する企業の数はさらに増加していく傾向にあります。

従来、企業の地震対策といえば防災対策がその中心でしたが、近年ではBCPの策定がその地位を占めるようになっています。しかし、BCPは防災対策の上位互換ではなく異なる概念の準備です。BCPを策定すれば防災対策を行わなくてよいのではなく、きちんとした防災対策を行うことで、はじめて本番でBCPを生かすことができるのです。

東日本大震災においては、事業の再開においてBCPが役だったという事例、役に立たなかったという事例の両方を耳にします。しかし防災対策についてはどうでしょうか?防災対策を怠っていたため従業員が死傷した、逆に防災対策が万全だったため従業員はみな無事だった。オフィスにおける状況として、これらいずれの声も多くは聞きません。

防災対策というのは、什器メーカーや内装業者の営業文句なのでしょうか。一昔前と異なり最近のオフィスは安全であるから…、民家と異なりオフィスは地震に強い作りであるから…、防災対策を重視する必要はないのか?このような疑問を抱きたくなりますが、むろん誤りです。近年発生する地震災害に共通するある要素が、このような疑問を生むのです。

大都市圏のオフィスは、巨大地震に襲われたことがない

オフィスにいる際に、大地震で生命が危険にさらされる状況に陥った方はそれほど多くないはずです。だがこれは、オフィスが地震に強いからという理由ではなく、就業時間帯のオフィスが大地震に襲われたことがないという理由によります。

1996年の阪神・淡路大震災では、民家はもちろん多数のオフィスビルや商業施設に大きな被害が出ました。しかし、地震発生の時間帯が早朝の出社時間前であったため、オフィスにおける死傷者は少なくなりました。この地震が日中の就業時間帯に生じていたら、状況は大きく異なり、従業員の多くが死傷したことが想像されます。

一方、東日本大震災は平日の日中に発生し、仙台市などの大都市も震度6強のきわめて強い揺れに襲われました。しかし、地震の揺れ方が阪神・淡路大震災と異なり、建築物を破壊しづらいものであったこと、またオフィス密集地である首都圏を直撃しなかったことから、オフィスにおける人的な被害は相対的に小さくなりました。

また2004年の新潟県中越地震、2005年の福岡県西方沖地震、2007年の能登半島地震と新潟県中越沖地震、2008年の岩手・宮城内陸地震、これらの大地震では、福岡市のような大都市が地震に襲われたり、阪神・淡路大震災と同じく建築物を破壊しやすい揺れが生じた地震もありましたが、偶然にも全ての地震が休日に発生したため、オフィスにおける被害はほとんど注目されませんでした。

しかし、東京を首都直下地震が、名古屋を東海地震が、大阪を上町断層地震が、また太平洋沿岸の主要都市を南海トラフ巨大地震が、平日の就業時間帯に直撃をした場合どうなるでしょうか。BCPが策定されていても、防災対策がなおざりであった場合、何が起こるか。恐らくは現代日本が経験したことのない被害、企業のオフィスにおいて従業員が多数死傷するという被害が生じる可能性があります。

平日の昼間に、大地震があなたのオフィスを襲った際、いったい何人の従業員が死傷するでしょうか。倒壊したビルの生き埋めになり、倒れた書類棚に潰され、飛んできたコピー機に衝突し、落下する吊り天井の直撃を受け、徒歩での帰宅中に火災に巻き込まれと、要因をあげれば枚挙にいとまがありません。では、どうすればよいのでしょうか?

防災対策の最優先事項は、従業員を死なさないこと。

東日本大震災では、仙台市や首都圏各地で多くの帰宅困難者が生じ、問題となりました。このような現状も考慮され、2013年4月1日より、東京都では帰宅困難者対策条例が、神奈川県では地震災害対策推進条例が施行され、大地震発生から数日間、事業者は従業員を職場に滞留させることと、そのための物資の備蓄を行うことを努力義務として課されました。

さらに2013年5月に、内閣府の中央防災会議より発表された南海トラフ地震の被害想定見直しでは、従来よりも被害が大きくなり救援までの時間がかかることが発表されました。家庭における水や食料をはじめとする防災備蓄の目安も、これまでの3日分から1週間分へと引き上げられるなど、家庭・事業者共に防災備蓄に関する重要性が高まっています。

企業の防災備蓄にはいくつかの目的がありますが、従業員を死なせないための防災備蓄は重要な項目の1つです。しかし、物不足の期間を乗り切るための備蓄、従業員以外を対象とした備蓄については、優先順位でいえば後回しとなります。なぜか、水や食料を必要とするのは、災害で死ななかった人間だけだからです。

地震対策の優先順位として最も重要なのは、従業員が地震の揺れ、そして直後の2次災害で死なないオフィス環境を整備することです。端的に言えば、オフィスの書類棚を固定するより前に防災備蓄品の調達を行ったり、防災対策を施す前にBCPの策定をしてはならないのです。

企業の防災対策は、マニュアルではなく環境と仕組みを用意する

企業における防災対策の最大の目的は、従業員を死なせず、負傷させず、そして資産を災害から保護することです。BCPを策定する際には、アウトプットとして紙の計画書がはき出されてきますが、防災計画のアウトプットとして紙媒体は最小限で構いません。それよりも、ハード・ソフト両面において形のある対策を立てることが重要になります。

紙のマニュアルに「地震発生直後はまず自分の身の安全を守ること」と書いておけば、従業員は死なずに済むのでしょうか?必要なのは、地震発生直後に崩れない建物、倒れない棚、そして身の安全を図るための反復訓練です。

紙のマニュアルに「揺れが収まったら、防災担当者の指示にしたがって避難すること」と書いておけば、負傷者が突然立ち上がって階段を降りはじめられるのでしょうか?第一、防災担当者が外出していた時に地震が生じたり、まず防災担当者がキャビネットに潰されて死亡してしまったらどうせよというのでしょうか。

必要なのは、各フロアに救助や応急手当のための道具を用意しておき、日頃からその存在を周知し、使い方を学ばせておくことです。紙のマニュアルに書いておくべきなのは、骨折をした際の添え木のあて方や、携帯トイレの設置の仕方など、1分1秒を争わないものの、知らないと困る知識だけです。

BCPの策定も同様です。立派なBCPの計画書を書き上げても、それでビルが丈夫になるわけではありません。同業他社と非常時における協定を結んでも、それで書類棚の転倒を防げるわけでもありません。まず従業員が死なない環境を整え、事業に必要な資産を守る準備をし、そして初めてBCPの策定が可能になります。

BCPと共に防災対策がきちんとなされていれば問題はありませんが、BCPのみが策定されている状況で大地震に襲われた場合、必要な人員の多くが死傷してBCPの発動どころではない、という状況におちいる可能性もあります。BCPは、万全の防災対策があってこそ、非常時に役立てることができるのです。では、防災対策はどのような順番で進めれば良いのでしょうか

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也Tomoya Takani
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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