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「東京都帰宅困難者対策条例」の真の意味と企業の責務

最終更新日:

執筆者:高荷智也

東日本大震災で生じた515万人の帰宅困難者による問題を解決するため、2013年に東京都が条例を策定し、普及活動に努めています。非常時に従業員を3日間職場に滞留させるための対策が内容で、違反罰則はありませんが、考えるべき本質と対策を解説します。

条例の概要と事業者(企業)に求められる取り組み

条例において定められている事業者の責務

条例では、事業者の責務を次のように定めています。「事業者は、その社会的責任を認識して、従業者の安全並びに管理する施設及び設備の安全性の確保に努めるとともに、大規模災害の発生時において、都、区市町村、他の事業者その他関係機関と連携し、帰宅困難者対策に取り組むよう努めなければならない」

ここに表記されている事業者は大企業だけとは限らず、中小零細規模を含むあらゆる企業、業界団体などの法人、そして事業を行っている個人が含まれています。また安全を確保すべき従業者には、社員だけでなくアルバイトや委託業者の職員までが含まれます。

帰宅困難者対策を講じる目的

 条例の目的には、「多数の帰宅困難者が生じることによる混乱及び事故の発生等を防止するため」と記載されています。「混乱及び事故」とは大地震による大規模火災、建物の倒壊、道路の陥没、低地の水没などの二次災害のことで、これにより多数の被害者が生じると想定されています。

従業者を含む帰宅困難者がこの二次災害に直面をすると生命の危険が生じるため、災害が沈静化するまでは移動を控えることが望ましくあります。また災害直後の72時間(3日間)は救命・救助活動優先となるため、行政は帰宅困難者に対応することが難しくなると想定されています。そのため、各事業者単位で最大3日間の職場滞留の準備が必要です。

帰宅困難者対策の具体的な項目

事業者が行うべき具体的な項目として、条例では次の4点を重要事項としています。『①一斉帰宅抑制に係る施策の推進 ②安否確認及び情報提供 ③一時滞在施設の確保 ④帰宅支援』このうち、③④については公共施設や商業施設、公共交通機関との連携が強く意識されています。

一方、①②については事業者の協力が不可欠です。そのため、企業に対する帰宅困難者対策として、「一斉帰宅抑制のための防災対策及び備蓄」と「安否確認体制の構築」の優先順位が高く設定されています。

一斉帰宅抑制のための準備とポイント

防災対策の徹底・建物施設の安全性確保

 職場滞留の場所を確保し大地震直後の怪我を防止するためには、施設の安全確保が重要になります。まず建物が古く、昭和56年6月1日以前に建築認可を受けて建てられている場合、大地震の直撃で倒壊する可能性が高くなるため、耐震診断や耐震補強工事の実施が求められます。

室内に対しては、オフィス什器、重量物の固定、窓や照明器具のガラス飛散防止、消火設備の設置と点検などを行い、地震の揺れで従業員の生命が危険にさらされることがないようにすることが重要です。高層ビルの場合は長周期振動による大きな揺れの影響が予想されますから、重量物の固定は必須となります。

従業員、来訪者のための備蓄

一斉帰宅抑制の対策としては、事業所に滞留する期間の生活を維持するための防災備蓄を行います分。量としては、条例ガイドブックで災害発生時に職場にいるであろう従業員が3日間滞留できる量に、来社中の顧客や取引先、また帰宅困難者の支援のために、10%程度を加算した量を備蓄することを努力義務として推奨しています。

備蓄内容は「飲料水、食糧その他災害時における必要な物資」と条例に標記されていますが、具体的には非常用トイレを優先として、水(1人1日3リットル)、食料、ウェットティッシュなどの衛生用品、ライトやラジオ、救急医療薬品などの緊急用品、防寒と寝具を兼ねた簡易毛布などが必要になります。

災害発生時の対応フロー・BCPの策定

 条例本文に記述はありませんが条例のガイドラインでは、準備した防災対策や備蓄用品を災害発生時に生かすために、運用フローを定めておくことが重要であるとしています。備蓄用品の保管倉庫のカギは誰がどこで管理するのか、どのくらいの規模の災害が生じた際に、誰の権限でどの備蓄用品をどのくらい配布するのか、どの取引先へいつ誰が連絡して業務再開の優先順位はどうするのか。こうした事柄をまとめておくことで準備を生かすことができます。

これら、防災対策、帰宅困難者対策、安否確認の体制構築、災害発生時の行動などをまとめた事前の準備と運用計画を、総じてBCP(事業継続計画)と呼称します。帰宅困難者対策単体で行うのではなく、実際の運用面までを視野に入れたBCPとして計画すると効果的です。

安否確認のための準備とポイント

安否確認の考え方

条例では事業者に対して「安否情報の確認手段の周知」を求めています。安否確認はBCPの初期項目としては重要ですが、従業員を職場に滞留させるためにも必須となります。東日本大震災時の帰宅困難者が必要とした情報として最も多く上げられたのも、家族の安否情報でした。従業員が自分の家族の安否確認を行えない場合、会社からオフィスに留まる指示が出ていたり交通機関が停止したりしていても、無理をして帰宅する傾向が強まるため、従業員だけでなく家族の安否確認の仕組みが必要になります。

従業員の安否確認システムについて

安否確認システムを導入する際には、通信手段の1つとしてインターネット回線を用いていること、安否確認メッセージの送受信両方がスマートフォンなどのモバイル端末で行えること、日頃の訓練をかねて日々の連絡手段としても簡単にシステムを利用できることなどがポイントです。条例ガイドブックでは、システムの他にGmailやyahooメールなどWeb上で扱える電子メール、TwitteやFacebookなどのソーシャルメディア、skypeやLINEなど、インターネット回線を用いた連絡手段を用いることも推奨しています。

家族の安否確認システムについて

従業員向けの安否確認システムを導入する際には、従業員の家族も容易に使えて安否確認が行える仕組みがあるものを用いることが有効です。この場合、条例ガイドブックでも推奨するNTTの災害伝言ダイヤル171、携帯電話会社が提供している災害用伝言サービスを家族との安否確認ツールとして使うことが考えられますが、こうしたサービスは事前に使い方を知っていなければ非常時に活用することができません。定期的な防災訓練時などに、実際に災害伝言ダイヤルやソーシャルメディアを用いて、従業員が家族に連絡をする練習をさせるなどして、使い方を学ばせておくことが重要です。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也Tomoya Takani
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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