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企業の防災備蓄は、従業員を死傷させないために

最終更新日:

執筆者:高荷智也

企業が行う防災備蓄の目的は2つ。1つは災害直後の被災地に従業員を放り出す危険を冒さないため、もう1つは従業員を帰宅させることで災害救助の妨害をしないためです。

企業の防災備蓄は、従業員を死傷させないために

従業員を2次災害から守るための防災備蓄

水や食料などの防災備蓄は何のために行うのでしょうか。大地震直後の物資不足を不安なく乗り切るという目的もありますが、最も重要な目的はやはり従業員の生命を守ることです。といってもこの場合、想定する死因は餓死や栄養失調ではなく、帰宅困難状態における徒歩帰宅の際に、地震の2次災害に巻き込まれることを防ぐことになります。

2011年の東日本大震災においても、多数の帰宅困難者が問題となりましたが、首都圏が直接被災地になってはいなかったため、"徒歩で帰宅するのが大変だった"という程度の状況で済んでいます。しかし、東京における首都直下地震や、大阪における上町断層地震など、都市部を直撃する大地震が生じた場合、帰宅困難者に本当の意味での危険が襲いかかるのです。

例えば首都圏直下地震が生じた場合、環状7号線沿いに密集する木造家屋を中心に、1996年の阪神・淡路大震災時とは比較にならない規模の大火災が生じることが想定されています。この火災は都心部から郊外へ向かう主要道路を炎の壁でふさぐことになります。もし、この状況を知らない多くの帰宅困難者が一斉に移動を始めたらどうなるのでしょうか。

目の前には燃えさかる住宅街と炎の壁、後続からはそれを知らずに前へ進み続ける数十万~数百万人の行進。押すな押すなの大混乱に陥ることは、文字通り火を見るよりも明らかです。さらに大きな余震でも発生しようものなら、せっかく助かった多くの命が再び危機にさらされかねません。

東日本大震災では、道路が陥没したりビルが倒壊したり火災が行く手を阻むことはありませんでした。阪神・淡路大震災は早朝に生じたため、帰宅困難者は発生しませんでした。しかし次に発生する大地震はどうでしょうか。従業員の命を2次災害から守るためには、状況が落ち着くまでの数日間、帰宅させずにオフィスへ滞留させる準備が必要なのです。

従業員を即帰宅させることは、人命救助の妨害となる

防災備蓄に必要なものは、水と食料、日用品、衛生用品、防寒・就寝用品が中心となります。備蓄の日数としては地震発生から72時間、3日間を目安とします。なぜ72時間なのでしょうか?1つには地震による2次災害が落ち着きを見せるのに、最低このくらいの時間がかかることがあげられますが、もう1つ重要な理由があります。

都市部で大地震が発生し、その揺れが阪神・淡路大震災や2004年の新潟県中越地震のように、建築物を破壊しやすいものであった場合、新耐震基準を満たさない建築物が多く倒壊し、多くの被害者が生じると考えられます。

地震発生直後には、まずこの人々を救助することが最重要事項ですが、救助のタイムリミットは72時間、3日間です。72時間以内に救助が成功すれば命が助かる可能性が高く、4日目以降になると生存の可能性は急激に低くなり、遺体捜索にその意図が変わります。

倒壊した家屋やビルからの救助活動には、重機や多くの機材、そして多数の人員が必要で、これを被災地の外から急いで運び込む必要があります。しかし、救助する対象者が増えるほど、つまりはガレキなどで道路の通行が制限される状況になるはずで、救助隊の移動に支障を来すことになります。この状況下における徒歩帰宅者は、ただ道を歩くという行為そのものが救助活動を妨害することになるのです。

地震発生から72時間は道路を空ける、これが人命救助に対して間接的ですが絶大な効果を上げます。従業員を2次災害から守るため、そして自社の従業員を徒歩で帰宅させることで、人命救助を妨害しないため。このために3日間のオフィス滞留が求められるのです。

最重要な備蓄はトイレの準備

防災備蓄で最も重要なのは、水でも食料でもなくトイレの準備です。数時間や1日程度飲まず食わずとなっても死亡することはありませんが、丸1日トイレを使わないということはあり得ません。水や食料を3日分用意するならばトイレも最低3日分、1週間分用意するならばトイレも最低1週間分の用意が必要です。

正常な成人は1日辺り1.5リットル前後の尿を生成し、1回の排尿で約0.3リットルを体外に排出するため、1日5回分のトイレが最低限の必要数となります。ただ、トイレの備蓄がなくなるとオフィス滞留が難しくなるため、余裕数が欲しいところです。日中の活動時間を18時間として、3時間毎にトイレを使えるようにすると7回、この辺りが備蓄の目安になります。

なお、尿はそのままトイレに流してもよさそうですが、衛生管理の面における問題はもちろん、地震でビルや建物の配管が破損し、階下や自フロアに汚水が漏れるという状況もあり得るため、大便だけでなく尿についても、全量を非常用トイレで処理できるようにしておく必要があります。

人間は1日2~2.5リットルの水を排出する

水の備蓄量は、1日辺り3リットルが目安とされます。なぜ3リットルなのでしょうか?人間は、排泄・呼吸・発汗などの作用で、1日辺り2~2.5リットルの水を体外に排出し、この量を食事や飲料用で摂取する必要があります。さらに生活用水にも最低限の水が必要になるため、最低限の量として3リットルが目安とされます。

備蓄用の飲料水には賞味期限が5年以上と長い商品もあります。しかし賞味期限が長い商品は総じてコスト高で、さらに入れ替え期間が長くなると管理が難しくなるということもありますので、いわゆる普通のペットボトル水を大量に購入して、1~2年程度で期限切れのものから入れ替えていくことも有効といえます。

非常時における食事は、精神衛生の改善にも重要

非常時における食事は、単純にエネルギーと栄養を補給する目的に留まらず、メンタルヘルスの維持改善においても重要な要素です。常に緊張を強いられる非常時において、普段の食事に近いもの、温かく美味な食事が得られるだけで、緊張やストレスを緩和する効果が得られます。

災害直後こそ、乾パンやビスケットのような「非常食」で食事をまかなうとしても、数日間の滞留を前提にするのであれば、もう少し普段の食事に近い、おいしい備蓄食料を用意しておくことが望ましくあります。予算が限られるのであれば、全ての食事を豪華にするのではなく、1日のうち1食に集中してよいものを割り当てると効果的です。

防寒睡眠には毛布やエマージェンシーシートが必要

数日間のオフィス滞留では、睡眠の手段を確保する必要があります。理想的には全員が体を横にして休めることですが、難しい場合は机に突っ伏して休息をとらなければならない状況もあり得ます。この際は会議室や休憩スペースなど、落下物や転倒物の危険がない安全な空間を、交代で使って休息や睡眠がとれるように計画をしてください。

また冬場は防寒対策が必須となるため、1名あたり1枚以上の毛布やエマージェンシーシート(アルミブランケット)を配布し、さらに備蓄用品を梱包していた段ボールを床に敷くなど、寒さを防ぐための工夫が必要になります。

なお余裕があれば、耳栓やアイマスクなどを配布することができると、ざわついた室内でも落ち着いて睡眠を取ることができるため、備蓄に加えることも検討してください。

地震直後はロウソク厳禁

感染症や食中毒の蔓延を防止するために、衛生状況を保つことも重要です。アルコールスプレーやウェットティッシュを用意しておき、トイレの利用後や食事の前に使えるようにしておきます。このような用意ができると手洗い用の水の節約にもつながり一石二鳥です。

明かりの確保にはLEDライトを用います。防災のマニュアル書によっては、照明用にロウソクの備蓄をすすめる場合もありますが、これは絶対にNGです。大地震直後は余震が発生しやすく、さらに大量のがれきや粉塵の発生により、普段と比較して大変火災が起こりやすくなっています。

この状態でロウソクが倒れて火が出た場合、そこから大規模な火災につながる可能性があります。そのため、大地震直後には火気厳禁、照明としては球切れの心配が小さいLEDライトやLEDランタンを用意することが必須です。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也Tomoya Takani
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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