次亜塩素酸水と「農林水産省の認可・特定農薬」の注意点
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執筆者:高荷智也
次亜塩素酸水は特定農薬に指定されており、有機農法に用いることが公的に認められています。が、これはよいことなのでしょうか。特定農薬とは何か、次亜塩素酸水との関係はどうなっているのか、農林水産省のお墨付きということなのか、事実と背景を解説します。
特定農薬としての次亜塩素酸について
次亜塩素酸水は、2013年より「農薬取締法」という日本の法律において「特定農薬」に指定されています。農薬と書くとなんだか物騒というか、体に害があるようも見えますが事実は逆で、特定農薬というのは「有機栽培で使用する農薬の代替品」の法律上の名称なのです。つまり、オーガニック農法でもちいることが認められているほど安全な物質であるということです。
次亜塩素酸水を製造しているメーカーやネットショップの中には、「次亜塩素酸水は特定農薬としても指定されているので安全です」という様な表記で、次亜塩素酸水の安全性を表現しているケースがあります。これは確かに事実なのですが、特定農薬として認められるためには指定された原材料と製造方法で作られている必要がありますので、そのメーカーや店舗の次亜塩素酸水がどのような原材料・製造方法なのかを確認する必要があります。
また言うまでもありませんが、特定メーカーの「次亜塩素酸水」を、農水省や環境省が認可するということはあり得ませんので、「当店の次亜塩素酸水は農水省及び環境省の認可を受けており安心安全です」というような表記がなされることはありません。このような表現・ショップにだまされないように注意してください。
農薬取締法では、具体的に次のような定義づけがされています。
その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する農薬
ちなみに他の特定農薬としては、重曹・食酢・地場の天敵(例えばアブラムシを食べるテントウ虫とかですね)、エチレン(リンゴなどの植物が自然に放出する植物ホルモンです)があげられ、記事執筆時においてはこの5つのみが指定されています。
特定農薬としての次亜塩素酸水の製法について
また次亜塩素酸水にはいくつか製造方法がありますが、特定農薬として認められているのは、「塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解して得られた物」に限られており、同じ電気分解方式でも「塩(塩化ナトリウム)」を原材料にしたものは認められず、また次亜塩素酸ナトリウムを希塩酸で希釈してつくる混合方式も禁止となっています。
なぜ「塩酸または塩化カリウム」に限定されているのか
家庭用に販売されている次亜塩素酸水の多くは、塩(塩化ナトリウム)の電気分解か次亜塩素酸ナトリウムと希塩酸の混合で製造されていますが、なぜ特定農薬に用いる次亜塩素酸水は「塩酸または塩化カリウム水溶液の電気分解」に限定されているのでしょうか?
それは、特定農薬の定義が「その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らか」となっているためです。言うまでもなく次亜塩素酸ナトリウムは有害なのですが、食塩については特に毒性はなさそうです。ところが電気分解という製造方法に問題があります。
一般的に販売されている塩には不純物が含まれており、この不純物の中には発がん性物質である「臭素酸」も含まれます。食塩として摂取する程度であればなんら問題は生じないのですが、この塩を水に溶かして電気分解をすると(つまり次亜塩素酸水を製造すると)、この臭素酸の濃度が高まる可能性があるのです。
一方塩酸や塩化カリウムには臭素酸が含まれません。そのため特定農薬としての次亜塩素酸水は、原材料が塩酸または塩化カリウムに限定されているのです。なおこの見解については環境省が実施した特定農薬に関するパブリックコメント資料で、下記の様に記載されています。
電解次亜塩素酸水を生成する際、臭素酸※の多いものを電気分解の対象とすると、生成された電解次亜塩素酸水中の臭素酸の濃度が高くなる可能性があるが、塩化カリウムを飲用適の水に溶かしたもののような臭素酸濃度の極めて低いものであれば、生成される臭素酸量は問題とならないと結論づけられました。
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを間違えないこと
なお間違いやすいのですが、特定農薬として有機農法への使用が認められているのは「次亜塩素酸水」であり「次亜塩素酸ナトリウム」ではありません。「え?ハイターやブリーチを農薬の代わりに使ってもいいの?」というのはダメ絶対、完全に誤りです。特定農薬に指定されているのは「次亜塩素酸”水”(塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解して得られた物)」です。