カセットガスボンベの種類とガスの成分
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執筆者:高荷智也
カセットガスボンベの種類は中身のガスで決まります。「ノーマル」はブタンが、「ハイパワー(寒冷地仕様)」はイソブタンが主成分で、イソブタンは寒冷地でも使用できます。
カセットガスボンベの種類
店頭で販売されているカセットガスボンベには、いくつか種類があります。メーカーによって商品名は異なりますが、大きく分けると「ノーマル」と「ハイパワー(寒冷地仕様)」の2種類分けられます。ガスボンベの構造は同じですが、中身であるLPガスの種類が異なります。
ガスボンベに詰められているLPガスの主成分は、「ブタン」「イソブタン」「プロパン」の3種類です。ガスが燃焼した際の温度・エネルギーはどのガスもほぼ同じですが、後者のガスほど「低温に強い」「寒くても性能が落ちない」性質を持っています。
「ノーマル」のカセットガスボンベは「ブタン(ノルマルブタン)」が主成分です。このガスボンベは気温マイナス0.5度まで使用することができますが、実際には気温が10度以下になると火力が落ち始めます。
「ハイパワー(寒冷地仕様)」のカセットガスボンベは、「イソブタン」が主成分で、高級な物には「プロパン」が混合されて充填されます。このガスボンベは気温マイナス11度まで使用できますが、やはり氷点下を下回ると火力が落ちていきます。
ブタン・イソブタン・プロパンの蒸気圧の違いと火力
「ノーマル」と「ハイパワー(寒冷地仕様)」のカセットガスボンベに詰め込まれているガスは、何が違うのでしょうか?ガスを燃焼させた際の「熱量(燃焼エネルギー)」にはほとんど差が無く、ガスの「沸点」と「蒸気圧」が大きく異なっています。
名称 | 化学式 | 沸点[℃] | 蒸気圧([hPa][20℃]) | 燃焼エネルギー[kJ/g] |
---|---|---|---|---|
ブタン(ノルマルブタン) | C4H10 | -0.5 | 2,213 | 42.8 |
イソブタン | C4H10 | -11.7 | 3,113 | 42.8 |
プロパン | C3H8 | -42.09 | 8,513 | 44.0 |
表の一番右列、同じ量のガスが燃焼した際に得られる「燃焼エネルギー」には、ほとんど差がありません。差があるのは「蒸気圧」です。「ハイパワー(寒冷地仕様)」のガスボンベの主成分であるイソブタンとプロパンは、「ノーマル」のガスボンベの主成分であるブタンと比較して、「蒸気圧」が高いのです。
蒸気圧が高くなると、ガスボンベの内側から外側に向かって、より強い力が働きます。この状態でガスボンベの出口の管を開けば、単位時間あたりにガスボンベから吹き出してくるガスの量が多くなり、同じ時間で得られる見かけ上の火力が強力になります。「ハイパワー(寒冷地仕様)」のカセットガスボンベは、ガスの火力そのものが強いのではなく、ボンベから吹き出すガスの量が「ノーマル」のガスボンベよりも多いのです。
ですから、同じ環境(気温)でそれぞれのガスボンベを用いた場合、最終的に得られる火力・エネルギーの量はほとんど同じですが、「ハイパワー(寒冷地仕様)」のガスボンベの方が吹き出してくるガスの勢いが強いため、ガスボンベに詰められているガスの容量が同じ場合、「ノーマル」のガスボンベと比べて早く空になります。
ブタン・イソブタン・プロパンの沸点の違いと気温
前述の[表1]を再度見ると、蒸気圧だけでなく「沸点」にも大きな差があることが分かります。沸点は、その物質が激しく気化を始める温度で、水の場合は100℃です。逆に言えば温度が沸点以下になると、その物質は気体にならず液体のままとなります。ブタンの沸点はマイナス0.5℃ですから、氷点下の場所ではブタンは液体のまま気体にはならず(厳密には気化の速度が遅くなる)、卓上カセットコンロなどのガス器具で使用できなくなります。
厳密には、沸点以下の温度でも液体は蒸発して気体になります。で、なくては洗濯物が乾かないことになりますし、水に入れたコップは室温でも蒸発してなくなります。しかし沸点以下の温度では、気体の蒸気圧が大気圧(1,013[hPa])以下になってしまうため、ガスボンベの中で僅かな気体が生じたとしても、ガスは外に出てくることができなくなります。
「ノーマル」のカセットガスボンベの主成分であるブタンは、沸点がマイナス0.5度ですから、氷点下の環境ではガスをボンベを外に取り出すことができず、使用することができません。そのため、「ハイパワー(寒冷地仕様)」のガスボンベには、沸点がより低いイソブタンやプロパンを充填するのです。
イソブタンは沸点がマイナス11.7度ですから、氷点下でもある程度は使えます。しかしより寒い場所ではやはり蒸気圧が大気圧以下になり、ガスを外に取り出すことができなくなります。そのため沸点がマイナス42.09と低いプロパンを混合し、低温下でも使用できるように工夫しています。
ヒートパネルによる気化熱対策
また、液体が気体に変わる際には気化熱というエネルギーを消費します。卓上カセットコンロなどのガス器具を使用していると、この気化熱でガスボンベはどんどん冷たくなり、室温よりもボンベの温度は低下します。温度が下がるほど蒸気圧もグングン低下しますので、気温が一定であっても、ガスボンベを使うほどに火力の低下が始まります。
そのため、たとえばカセットコンロには「ヒートパネル」と呼ばれる部品が取り付けられ、ガスボンベの温度低下を防いでいます。ヒートパネルは、ガスが燃焼するコンロの吹き出し口の近くからガスボンベへ熱を伝えるための鉄板です。カセットコンロの内部を見ると、ガスの吹き出し口からガスボンベへ伸びる1枚の鉄の板を見つけることができるはずです。
この状態で火をつければ、熱がガスボンベへ伝わり、気化熱により低下する温度を補い、最後まで液体のガスを気化させ、使い切ることができるのです。ヒートパネルがないガス器具では、特に寒い場所で用いた場合にガスを使い切ることができず、ガスボンベの廃棄の際に爆発事故などの原因となるため、2007年に、カセットガスコンロに対して、ヒートパネルの設置が義務づけられました。