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黒い春

山田 宗樹

恐怖のウイルスに立ち向かう男達の奮闘と、リアルな描写で展開される熱い人間ドラマ!

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概要・あらすじ

本書は、未知のウイルスによってもたらされる「黒手病」という病に対して立ち向かった研究者チームの奮闘を軸に、彼らの家族や恋人との人間関係、未知の病による社会不安などを詳細に描写した小説です。本書は災害パニック小説ではなく、感染症をテーマに人間ドラマにフォーカスした小説です。

登場人物達の会話、心理描写などが細かく、会話のシーンなどは小説という寄り戯曲に近い細かさで記述されており、また場面の転換と時系列の進行がスピーディーなため、映画やドラマを見ている様に、一気に読み進むことができます。

敵となる病「黒手病」の設定も、感染症パニック小説にありがちな、「きわめて毒性が強く、空気感染し、人はバタバタと死に、社会がパニックに陥る」といったものでは無く、なかなか見ない興味深い設定がなされており、読み手にスリル感を与える展開がなされております。

当初は、2007年にWOWOWにてテレビドラマ化されてもいます。また単行本はすでに重版が終わり、現在は文庫となり安価に入手可能です。内容自体かなりおもしろく、手にする機会があればぜひ一読をおすすめしたい1冊です。パニック小説や社会派小説が嫌いでなければ、必ず楽しめると思います。

感想・思ったこと

ウイルスやそれにより引き起こされる「黒手病」の設定はかなりショッキングであり、いわく「死ぬとき、口から真っ黒な粉を吹き出して死に、押さえた手が真っ黒になる」から「黒手病」と名付けられています。致死率100%の時限爆弾とも言うべきこの病の描写は、かなりリアルで恐ろしい物を感じます。

また前述のとおり人間描写がかなりリアルであり、例えば主人公である監察医(解剖医)の飯守医師と、その妻である雪子とのやり取りなどは、理系男子と文系女子というありがちな夫婦においては、あまりにも共通点が多い部分が多く、例えば…

今日の出来事を語る雪子に、即整然とした回答をする飯守医師。「理論的すぎてイヤ、ただ聞いて欲しいだけなのに」と返す妻に、「じゃあなんて聞けばいいんだ?」と素っ気ない返事をし、「私が○○って言ったら、うん、それは○○だねって言ってくれればいいの」「なんだよそれ」などのシーンなどは共感する点が多く吹き出してしまいました。

またチームのリーダーとなる岩倉は、優れた研究者としての一面、反抗期を迎える子供に手を焼く父親としての一面、中年親父として年相応のスケベ精神を見せる、単なるオッサンとしての一面などが見事に書き分けられており、その人間臭さにより強くストーリーに引きつけられました。

実際にあり得ないとは言い切れない未知の感染症。そうしたリアルなテーマを、完成度高く書き上げた本書は、質の高いエンターテイメント作品としておすすめできます。文庫版などかなり安く入手できますので、一読をおすすめしたい一冊です。

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書籍の情報

著書名…黒い春

著者…山田 宗樹

出版社…角川書店

初版発行日…2000/3/10

紹介文…「BOOK」データベース

監察医務院に運び込まれた遺体の肺に未知の黒色胞子が発見された。それから一年後の五月、口から黒い粉を撤き散らし、苦悶の表情を残し絶命するという黒手病の犠牲者が全国各地で続出する。厚生省で急遽研究チームが召集され監察医・飯守俊樹もその一員に加わるが、彼らでさえすぐに打つ手はなかった。ただ、飯守たちは黒手病で亡くなった人々が滋賀県に多いことに着目し、一人の歴史研究家にたどりつく―。黒手病感染者がでる来年五月までの究明に向け、飯守たちは再び動きはじめた。いま、愛する者のために男たちの不屈の闘いがはじまる。歴史から消された一人の異邦人と、黒手病の謎に迫る傑作書き下ろし長編。

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