Voicyそなえるらじお #235 国家を分割した史上最悪の台風被害、防災は平和の上に成り立つ
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、11月12日(金)、本日も備えて参りましょう!
バングラディシュの独立契機になったサイクロン
本日のテーマは「史上最悪の台風」です。
- 本日11月12日は、史上最悪の自然災害のひとつと見られている、サイクロン・ボーラが上陸した日です。
- 今日から51年前の本日、1970年11月12日、現在のバングラディシュ、当時の東パキスタンにサイクロンが上陸し、死者20万人から50万人という甚大な被害が発生しました。ボーラ・サイクロンの被害です。
- このサイクロン・ボーラは、上陸の5日前、11月7日にインド洋のベンガル湾、インドの東の海上で発生した後、勢力を強めながら北上、11月12日に当時の東パキスタン沿岸に上陸しました。
- 最低気圧は966hPaと、強力ではありますが、そこまですさまじい勢力というわけではありませんでしたが、上陸時に現地の満潮時刻と重なったことで、大規模な高潮による浸水害が発生し、大きな被害となりました。
- この時の高潮の波の高さは10mと巨大な物となり、もともと標高が低く、毎年洪水を繰り返していた水田地帯は完全に水没し、現地の住宅はもちろん、農業、漁業をはじめとする産業はほぼ壊滅し、サイクロン通過後にも多くの方が命を落とすことに繋がりました。
過去の大規模自然災害
- 過去に発生した、人的被害の大きな自然災害、そなえるらじおでもいくつかご紹介してきております。例えば直近50年間ほどでは、
- 例えば1976年に中国で発生し、死者24万人から65万人という甚大な被害を生じさせた唐山地震。
- 2004年にインドネシア西部で発生し、死者22万人以上を数える甚大な津波被害を生じさせた、スマトラ島地震。
- 2010年にカリブ海の島国ハイチで発生し、死者31万人以上を招いた大地震、ハイチ地震。
- など、地震による被害が多く挙げられますが、バングラディシュのボーラ・サイクロンはこれらの災害に匹敵するか上回る、大災害であったといえます。
- 特に人的被害が大きくなる災害には共通することがあり、大地震の場合は建物の耐震性が低く生き埋め被害者が多発することで、津波や台風による水害の場合は避難が遅れることで、被害が拡大することが多くあります。
- ボーラ・サイクロンにおける死者20万から50万人という被害は、どのようにして生じてしまったのでしょうか。
バングラディシュとパキスタン
- 現在のバングラディシュという国、第2次世界大戦以前は、イギリス領インド帝国の一部でした。戦後、1947年にインド連邦がイギリスから独立をしますが、同じ日に現在のバングラディシュを含むパキスタンもイギリスから独立をしました。
- 思い切り簡単に言えば、ヒンドゥー教徒の多い地域がインド連邦となり、イスラム教徒の多い国がパキスタンとなりました。
- ただ、この独立の際に、地域の指導者がヒンドゥー教徒、住民の多くがイスラム教とという難しい地域であった、カシミール地方については様々な問題が生じ、現在も紛争地帯としてインド・パキスタンの間で紛争が繰り返されています。
- さて、話をバングラディシュに戻しますと、
- インドとパキスタンが独立をしたさい、パキスタンはインドを挟んで西と東の分割領土して誕生しました。アメリカにおける本土とアラスカのようなイメージです。
- 人口や産業の中心は、現在のバングラディシュに当たる東パキスタンだったのですが、政治の中心と首都は西側のパキスタンに設けられ、各種の政策は西側中心に行われるなどの偏りがあったのです。
- また東西パキスタンでは宗教こそ同じでしたが、言語がことなるため独立後はしばしば衝突を繰り返すような関係となっていきました。
- こうした衝突が徐々に激しくなる中で発生した自然災害が、1970年のボーラ・サイクロンだったのです。
そして人災へ
- ボーラ・サイクロンが接近してきた際、当時の東パキスタンの気象警報は、積極的に住民には出されませんでした。
- これは国内および国外との政治問題や、災害情報を伝達する仕組みなど各所に問題があったためですが、そのため東パキスタン沿岸の住民達は、ほぼ不意打ちの形でサイクロンの直撃を受け、特に高潮により甚大な被害をこうむることになりました。
- さらに、サイクロンが通過した翌日以降の支援・復旧活動についても、政治の中心となるパキスタンの西側からは、積極的な支援が行われず、被害をさらに拡大させる結果となってしまったのです。
- そのため、高潮そのものによる死亡者、被災地における支援の遅れによる死亡者などが積み重なり、史上最大級の被害をもたらす水害に発展してしまいました。
- その後、このボーラ・サイクロンに対する政府の対応について、東パキスタン側では大きな反感を招き、反政府運動が活発化し、翌年1971年3月にはバングラデシュ独立戦争となり、1971年12月に東パキスタンはバングラデシュとして独立を果たすことになりました。
- 自然災害による大きな被害が、しいては国家の独立にまで繋がるという事例ですが、大自然への驚異へ立ち向かうためには、国内の平和、充実した気象観測網や、住民への高度な連絡手段が不可欠であるということを、再認識する災害でもあったと言うことです。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「バングラディシュ・ボーラサイクロン」のお話でした。
ちなみに台風やサイクロンの名称ですが、太平洋の西側と南シナ海で発生するものが「台風」、アメリカ周辺で発生するものが「ハリケーン」、インド洋と南太平洋で発生するものが「サイクロン」と呼ばれております。日本周辺での台風シーズンはほぼ終わりとなりますが、冬場に向けては大地震や大雪被害などへの警戒が改めて必要になって参ります。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!