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Voicyそなえるらじお #130『人類が滅亡寸前に陥った災厄「火山の冬」は現実の脅威』

最終更新日:

執筆者:高荷智也

Voicyそなえるらじお #130『人類が滅亡寸前に陥った災厄「火山の冬」は現実の脅威』

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、6月8日(火)、本日も備えて参りましょう!

火山の冬、核の冬、隕石の冬

本日のテーマは「火山の冬」です。

平成の米騒動

  • 昨日 #129 の放送では、1991年に発生した、フィリピン・ピナトゥボ山の巨大噴火についてお話をしました。
  • この放送の最後に、「火山の冬」という言葉をご紹介しましたが、本日はこのお話です。
  • ところで、現在30歳から40歳以上の方であれば、「平成の米騒動」という言葉を覚えていらっしゃる方が、多くいると思います。
  • 平成の米騒動は、1993年(平成5年)の記録的な冷夏によるお米の不作からが原因で生じた、日本国内の米不足と、これを伴う海外からのお米の輸入にまつわる事件です。
  • 1993年当時の国内の年間米需要は1,000万トン近くありましたが、その年の秋までに収穫されたお米は800万トン弱となり、200万トンの米需要が不足する事態となり、全国の米売り場から、お米が無くなる事態が生じました。
  • これを受けて、タイ王国などから輸入されたタイ米を食べられた方、またはお店でブレンド米などを購入された方、などもいらっしゃるのではないでしょうか。
  • ちなみに余談ですが、昨年2020年の国内米需要は、713万トンと、この平成の米騒動で大凶作となった際の収穫よりも、需要が少なくなっています。若い世代の大幅な人口減少とライフスタイルの変化が要因ですが、なんとも寂しい現状を表している数字だなと思いました。

巨大噴火は米騒動を招く

  • さて、なぜ平成の米騒動のお話をしたのかと言えば、1993年の米不足・冷夏による米の不作の原因のひとつが、昨日の放送、1991年のフィリピン・ピナトゥボ山噴火であると考えられているためです。
  • なぜフィリピンで噴火が起こると、日本で米不足になるのか、これは都市伝説や風が吹けば桶屋が儲かる的な考え方では無く、地球という惑星の構造によるものです。具体的には、「火山の冬」と呼ばれる現象が原因となっています。
  • 大規模な火山の噴火が発生すると、しばしば大量の火山灰や火山ガスが大気圏内に放出されます。
  • とりわけ巨大噴火となった場合は、この火山灰や火山ガスは極めて高い高度まで噴き上げられますが、例えば1991年のフィリピン・ピナトゥボ山噴火では、最大で40kmの高さまで噴煙が上昇したと想定されています。
  • 40kmといえば成層圏であり、またオゾン層などが広がっているのがこの高さです。
  • 噴煙が成層圏に到達しますと、成層圏の風の流れにのって火山灰や火山ガスは水平方向に広がります。
  • とくに問題となるのは火山ガスに含まれる硫黄です。硫黄は成層圏で酸素と結びついて二酸化硫黄、SO2となります。この酸化硫黄は太陽光にじっくり照らされることで、最終的には水分と結合して、硫酸、 H2SO4となります。
  • この硫酸は極めて小さな固まり、硫酸エアロゾルという状態を形成して、成層圏を漂うことになるのですが、成層圏は雨が降る高さではありませんので、なかなか地上には降りてきません。
  • 成層圏に巻き上げられた火山灰や軽石は、次第に重力で落下して成層圏から無くなって行きますが、硫酸エアロゾルは軽いため長期間成層圏に留まります。
  • そして問題なのは、この硫酸エアロゾルが、太陽光を反射することなのです。

火山の冬

  • 成層圏に漂う硫酸エアロゾルは、太陽光を反射する性質を持っています。
  • すると、本来地上に到達するはずだった太陽光の一部が成層圏で反射されて、宇宙空間に逃げてしまいます。
  • すると、地上に到達する光、熱の量が減少するため、気温が低下するということが生じるのです。
  • また悪いコトに、硫酸は大気中のオゾン層の破壊も促進しますので、紫外線の量は増大します。
  • 気温を維持する太陽光は減少する一方、人体などに悪影響をもたらす紫外線の量は増加する、これが「火山の冬」現象の大きな問題です。
  • 1991年のピナトゥボ山噴火でも、成層圏に達した噴煙から、大量の火山ガスに含まれる硫黄がまき散らされました。
  • その後約20日程度の時間で、赤道地域の成層圏をグルリと一周し、北半球の赤道寄りの地域全体に硫酸エアロゾルが広がりました。
  • その結果、約1年半後の測定で、周囲の平均気温が次第0.6度低下し、これが1993年の日本の記録的な冷夏を招いた原因のひとつと考えられています。
  • つまり、フィリピン・ピナトゥボ山噴火が、日本の平成の米騒動の原因のひとつになるのです。

過去にも生じた火山の冬

  • この火山の冬という現象は、過去にも繰り返し発生しています。
  • 例えば本日6月8日は、今から238年前、1783年6月8日に、アイスランド南部にあるラキ火山で大規模な噴火が発生した日です。この噴火でも大量の火山ガスが噴出し、ラキ火山のあるアイスランドを中心に甚大な被害が発生した他、火山の冬現象で、世界規模の低温を招きました。
  • 実はこの年、1783年(天明3年)は、日本でも浅間山で大きな噴火が発生した年で、関東全域に降り積もった火山灰が農作物に大きな被害を出し、さらにラキ火山の噴火で気温は低下、これらの要素が積み重なった結果、そのとき進行していた天明の大飢饉にとどめを指し、甚大な被害を生じさせたという記録が残っています。
  • この火山の冬現象の中でも最悪だったものが、今から7万4千年前に噴火を起こした、インドネシア・スマトラ島にあるトバ火山の噴火です。
  • この時代、人類は中期の石器時代で、主要なグループとしてはネアンデルタール人と、私達現生人類・ホモサピエンスがありましたが、7万4千年前のトバ火山の噴火で、大規模な火山の冬現象が発生しました。
  • その結果、地球上の平均気温が最大で10度ほど低下し、しかもその状態が10年あまりも継続するという、急激な氷河期が到来したような状態となりました。
  • この結果、植物が激減、これをエサとする動物も激減、当然人類も滅亡寸前に追い詰められ、この10年間程度の期間で、全世界のホモサピエンスの人口が、数千人から1万人程度まで現象したと想定されています。
  • 人類のDNAの多様性は、その数に比較するとあまり大きくなく、よく似ているということなのですが、この要因の一つが、7万4千年前のトバ火山の噴火による火山の冬、人類の数が絶滅寸前まで減ってしまったことによると考えられています。
  • なお、火山の冬とよく似た現象は、例えば恐竜を絶滅させたとされる巨大隕石の衝突、天体ハザードでももたらされますし、
  • また人類が持つ最悪の兵器、核兵器を用いた全面核戦争などが発生した場合も、同じような現象が生じると考えられています。この場合の現象は、「核の冬」と呼ばれています。
  • 某・世紀末的な状況を描いた、人類がバギーに乗りヒャッハーする漫画作品がありますが、恐らくあの時代、太陽光が減少して植物の生育などにも大きな影響を与えているなどが想定されます。

本日も、ご安全に!

ということで、本日は「火山の冬」のお話でした。

大規模な火山の冬現象をもたらす、超巨大噴火は、定期的に発生しており、次の噴火が明日生じてもおかしくありません。また日本にも、地球レベルで火山の冬現象をもたらすことができる超巨大噴火を起こす火山がたくさんあり、周期的にはやはり明日噴火が起きてもおかしくないという、極めて怖い時代を迎えているのです。

一方、この火山の冬に対しての防災対策は、かなり限定的となります。明日は続きのお話として、火山の冬への備えについてお話をしたいと思います。

それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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