Voicyそなえるらじお #158『天体ハザードはあり得る災害で、その対策も実際に行われている』
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、7月16日(金)、本日も備えて参りましょう!
シューメーカー・レヴィ第9彗星とイーロン・マスク氏
昨日まで、新潟県糸魚川のお話を3回シリーズでして参りましたが、本日7月16日は、14年前の2007年(平成19年)7月16日に、新潟県中越沖地震が発生した日です。新潟ではこの3年前、2004年10月23日にも、新潟県中越地震に襲われており、大きな地震被害が連続する時期が続いておりました。
一方、本日7月16日は、別の災害も生じていた日です。いまから27年前に人類が滅亡していたかもしれない自然災害、ニアミスとなった天体ハザードが発生しておりますが、今回はこのお話をいたします。
シューメーカー・レヴィ第9彗星
- 今から27年前の本日、1994年(平成6年)の7月16日から7月22日かけて、木星の周りを周回する軌道を描いていた彗星、シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突しました。
- この彗星は、過去に木星に接近した際、その重力によりバラバラに砕かれ、20個以上の破片が連なる、まるで銀河鉄道のような並んで飛翔する彗星になっていました。
- ちなみに、シューメーカー・レビィ彗星は、アメリカ人天文学者のシューメーカー夫妻と、カナダ人サイエンスライターのレヴィ氏が発見したことで、この名前がつけられています。
- また、彗星が発見されたのは1993年と衝突の1年前のことでしたが、この彗星が木星に衝突すると予測したのは、日本人の天文家「中野 主一(なかの しゅいち)」さんと「村松 修(むらまつ おさむ)」さんというお二人だったりします。
木星への衝突
- さて、シューメーカー・レビィ第9彗星が木星に衝突する様子は、地球からもリアルタイムで観測することができるなど、天文学史上に残るビッグイベントとなりました。
- 彗星が太陽系のなかの天体に衝突する様子が観測できるだけでもすごいのに、それも20個ほどの彗星が連続して次々にぶつかるというとんでもないイベントだったということですね。
- この衝突により、木星の表面には巨大な衝突痕跡が残され、地球からも望遠鏡を通した肉眼で観測されました。
- 最大規模の衝突痕は、直径1万2千キロの大きさという、地球とほぼ同じサイズの丸い痕跡が残るとんでもない大きさになっていました。
- もし、この彗星が地球に衝突していたら、どうなっていたのでしょうか。木星に生じた直径1万2千キロという衝突痕は、あくまでも木星の大気に生じた模様であり、直径1万2千キロの地球が破壊されるということを意味する物ではありません。
- この最大の衝突痕を生成した、シューメーカー・レヴィ第9彗星の破片の大きさは直径2キロほどだったと推定されています。
- いまから6,500万年前に、小惑星の衝突で恐竜が滅びたと推定されていますが、この時に衝突した小惑星の大きさは約10キロほどと推定されています。
- これと比べれば、シューメーカー・レヴィ第9彗星は5分の1の大きさですので、もし木星ではなく、地球に衝突していたとしても、地球ががバラバラになって砕けるといった恐れは全くありません。
- ただ、キロ単位の小天体が地上に衝突した場合、はたしてどのような影響が生じるのか。直撃した地域には何も残りませんし、衝突によって噴き上げられるチリなどが地球大気を覆うことで急激な寒冷化が発生し、多くの土地が氷河に閉ざされ、農業や漁業が壊滅し、人類の大部分が餓死する、という可能性は十分にあり得ます。
- こうした災害を招き兼ねない、最大規模の自然災害が、わずか27年前に、地球のすぐ近くで発生していたのです。
天体ハザードはSFではない
- シューメーカー・レヴィ第9彗星の木星への衝突により、それまで「可能性はあるが、現実的には確率が低すぎて生じるはずがない」と考えられていた、惑星への天体衝突が、実際にあり得るかもしれない脅威として、みなされるようになりました。
- 例えば、このイベントを契機として、国際スペースガード財団が設立されました。日本からは、やはり同じタイミングで設立された、日本スペースガード協会が参加しています。
- スペースガードとは、地球に衝突する可能性のある天体を早期に発見し、その対策を検討、または実施する活動のことです。
- シューメーカー・レビィ第9彗星のような、人類が滅亡する恐れのある規模の天体衝突は、恐竜が絶滅した6,500万年前以降発生しておりませんが、そこそこの被害を出す隕石の落下などは、しばしば地球の各地で発生しています。
天体ハザードを防ぐことはできるのか
- では、この天体ハザードを防ぐことはできるのでしょうか。
- 映画などでは、衝突する天体に核ミサイルを撃ち込んだり、または天体に乗り込んで穴を掘って爆破するなどの描写が見られますが、これを実際に行った場合、天体の破壊に成功したとしても、細かくなった破片がそのまま地球に衝突してくるだけとなるため、結局人類滅亡は避けられない可能性が高いと想定されています。
- 現実的な天体衝突回避の方法として、現在の科学技術でもできそうなものは、早期対応につきます。
- 具体的には、大きさが100m程度の天体が、数十年後に衝突するということを計算で導くことができた場合は、現在の宇宙技術で打ち上げ可能な、できるだけ大きくて重たい探査機を、できるだけ早い時期にその天体に体当たりさせることで、軌道をずらして、地球への衝突を回避できる可能性があるということです。
- この試みの最大のポイントは、とにかく早い時期、天体が地球から離れている場所でアタックをしかけるということですので、スペースガードによる天体観測には大きな意義があるということになります。
- ただ、この方法で避けられる天体の規模はせいぜい100m程度、人類が滅亡しかねない、直径数キロ、シューメーカー・レビィ第9彗星の大きさになると、現在これを排除する手段はありません。
- 巨大な天体衝突から人類を守る究極の防災対策、これは地球外への宇宙移民しかないのです。
スペースX
- そして、この宇宙進出を本気で行おうとしている人がいます。アメリカの実業家イーロンマスク氏です。
- イーロンマスク氏は、電気自動車会社テスラの創設者にして、現在は宇宙開発企業スペースXの代表でもありますが、「種としての人類が将来も存続するためには、自給自足できるコロニーを火星に建設する必要がある」、という主張のもと、スペースX社は、近い将来、火星にコロニー建設を行うということを本気で考えて準備をしているのです。
- これは今日明日に実現する話ではありませんが、今生まれた子ども達が大人になる頃には、人類が火星に到達している可能性は多いにあり得ます。
- 究極の防災対策、宇宙進出には、莫大な費用と、採算性を度外視した投資が必要になります。
- 個人でどうにかできる問題ではありませんが、これを半分個人でどうにかしようとしているイーロンマスクという人物は、実は防災的にもとても重要な人物なのです。今後の動向に注目をしたいですね。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星と、これをきっかけに本格化した天体ハザードへの備え」というお話でした。
ちなみに本日7月16日は、人類初の月面着陸を果たした、アポロ11号が打ち上げされた日でもあります。足下の地震対策とあわせて、人類の宇宙進出についても思いを馳せたい日ですね。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!