Voicyそなえるらじお #277 トンガ諸島の巨大噴火で発表された「津波警報」は何がどうなっていたのか?
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、1月17日(月)、本日も備えて参りましょう!
フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山
本日のテーマは「巨大噴火による津波」です。
- 先週末、2022年1月15日土曜日の13時頃、ニュージーランドの北西に位置するトンガ諸島付近にある、フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山で大規模な噴火が発生致しました。
- この噴火は海底火山によるもので、噴煙がまっすぐに上昇するプリニー式噴火というタイプの爆発が起こり、噴煙の高さは最大で16,000メートルを超えたと推定されています。
- 火山の噴火の爆発規模は、世界共通の指標でVEI・火山爆発指数と呼ばれる、VEI0からVEI8までの9段階の数値で示されますが、今回の噴火は暫定で上から3番目に当たる、VEI6に相当するとみられています。
- VEI6相当の噴火は、おおよそ地球全体で100年に1回程度の頻度で発生する噴火ですが、もっとも最近発生した同程度の規模の噴火としては、1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火が該当します。
- ただ、トンガフンガ山の噴火は、まだ終息したわけではなく、これらの情報も暫定情報ですので、今後の情報収集を継続する必要がある、という段階でのお話です。
地球はひとつ
- トンガフンガ山の噴火は、火山や防災関係者以外の方にとっては、発生直後にはあまり興味関心を引く噴火ではなかったと思われます。
- この噴火が急速に注目される原因となったのは、日本全国に津波注意報および津波警報が発令されたためです。
- まず、津波は大地震以外でも発生します。今回のような海底火山の噴火、あるいは大規模な地すべりなどによる土砂の海面への突入、また頻度は低いですが隕石などの天体が衝突することでも最悪クラスの津波が発生します。
- そして津波は、地球の反対側からもやってきます。例えば2015年に南米チリ中部沖でマグニチュード8.3の巨大地震が発生した際には、およそ20時間後に日本でも津波を観測し、津波注意報なども発令されました。
- また1960年やはりチリで発生したマグニチュード9.5の超巨大地震の際にも、日本の太平洋側で大きな津波被害が発生し、日本国内だけで死者142名という津波被害が発生しています。
- つまり、いま自分がいる場所が地震で揺れていなくても、さらには日本国内で地震が発生していなくても、もう少し言えばどこにも地震が起きていなくても巨大津波はやってきますし、
- 何の前触れもなく、突然津波注意報や津波警報が発表されることもあり得ますので、特に突発的な津波警報が出た際には、誤報だろうと気にしないのではなく、危険な場所にいる場合は、高台への避難を行うことが必要になります。
今回何が起きたのか
- では、1月16日・日曜日、いったい何が起きたのでしょうか。
- まずは、13時に発生したトンガフンガ山の噴火がスタートです。
- この噴火は人工衛星などでもリアルタイムに観測されていましたので、即座に世界中に噴火発生の報道がなされました。
- そして海底火山の噴火が生じれば、津波が発生する可能性も当然あるため、気象庁なども即座に日本への津波影響などについて検討が行われました。
- 津波の速度は、海底の深さによって決まりますので、地震や噴火が発生した場所が分かれば、即座に世界中の海岸への津波到達時間を求めることができます。これはちょっとすごい技術ですね。
- その結果、トンガフンガ山からおよそ8,000キロ離れた日本本土に津波が到達するのは、およそ10から11時間後という時間が求められました。
- つまり、津波が発生していたとしたら、深夜23時から24時頃に到達するということが、噴火直後に求められたのです。
海外では津波が観測されなかった
- また、津波は発生地点から同心円状に広がって行きますので、スバ、ナウル、サイパンといたトンガフンガ山から日本の間にある地域を通過しながら進みます。
- そして、おおよそ理論値通りの時間帯に、各国で潮位の変化が観測されたのですが、その高さはいずれも30センチ程度と小さかったため、日本に津波が到達したとしても、被害が発生する可能性はないとして、
- 19時頃に気象庁から、津波による影響は小さく被害の恐れはない、との発表が出されました。
- 一方、トンガフンガ山に最も近い伊豆諸島の父島などでは20時ごろから、全国の海岸でも21時過ぎから海面の潮位変動が観測され始めましたが、
- 想定されていた津波の到達時刻は23時過ぎごろで、物理的に津波が到達しているとは想定できないということで、この潮位の変化は津波による物ではなく、津波に先立って到達した、空振と呼ばれる火山の噴火による衝撃波によるものではないかと想定されました。
- 実際、日本全国のアメダスが、一斉に気圧の一時的な上昇を観測しており、これによる潮位の変動が生じたのではないかと想定されたのです。
理由は分からないが何か起きた
- ところが事態は急変します。
- 津波が生じていた場合の予想到達時刻の直前ごろから、一部の潮位観測所の潮位変動が激しくなりはじめました。
- とりわけ、鹿児島県の奄美大島にある小湊漁港の潮位変動が1mを超え、津波の定義とは異なるが、このまま潮位変動が大きくなった場合、被害が発生する可能性がある、しかもこの先、全国どの地点がひどくなっていくか分からないという状況になったため、
- 「理由は分からないが大規模な潮位変動が起きており、被害が生じる可能性がある」という状況になったため、
- 津波が発生しているわけではないが、「全国の海岸付近で同時に生じている危険を知らせるための手段」として、「既存の仕組みの中では津波警報を用いることが最善と判断」されたため、
- 日が変わった1月16日の0時15分、北海道から沖縄までの太平洋沿岸に津波注意報が、とりわけ潮位変動の大きなトカラ列島・奄美大島周辺に津波警報が発令され、
- 日本中のスマートフォンなどに、エリアメールや緊急通報が出され、私達が深夜に驚いて飛び起きた、というのがコトの顛末です。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「巨大噴火による津波」のお話でございました。
改めてお話の内容をまとめますと、
- トンガ諸島での巨大噴火による津波の可能性は、噴火直後から検討されて観測などが行われた。
- その結果、従来の理論の上では、特に危険性はないと判断されて、一度は津波の危険無しと発表した。
- しかしその後、理由は分からないが、事実として潮位の大規模な変動が起こり、危険が生じる可能性が高まったため、「津波」が発生している訳ではないが、「津波警報」の仕組みを使って国民に危険を知らせることが最善である、と判断され、全国に津波注意報と警報が発表された。
- という流れになります。前例のない状況において、今使える道具を全て活用した気象庁のファインプレーであったといえるのではないでしょうか。もちろん今後、海底火山の噴火による潮位変動をどう捉えて、危険を判断するのか、気象庁の経験値と技術が向上することを願います。
それでは皆さま、本日も引き続き、どうぞご安全に!