Voicyそなえるらじお #745 十勝岳噴火から35年...積雪期に恐ろしい融雪型火山泥流の恐怖
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、12月19日(火)、本日も備えて参りましょう!
繰り返し噴火をする山
本日のテーマは「北海道・十勝岳の噴火」に関するお話です。
- 昨日は富士山噴火に関するお話をいたしましたが、今日は北海道十勝岳の噴火のお話です。
- 本日12月19日は35年前に十勝岳が大規模な噴火を開始した日です。
十勝岳における噴火の歴史
- 1988年(昭和63年)12月19日、北海道の中央部にある十勝岳連峰・十勝岳で大規模な噴火が発生しました。十勝岳は繰り返し噴火が発生し続けている火山で、近い将来にも噴火が生じる恐れがあり、常に警戒が必要な活火山のひとつです。
- 十勝岳火山群は、200万年間ほどの噴火活動で山を作ってきたエリアですが、直近数千年でも活発に噴火を繰り返している、現役バリバリの活火山です。しかし、北海道は他の地域と比較して本格的な定住が始まったのが最近ですので、災害の記録が残っているのはここ最近に限られます。
- 十勝岳の噴火に関する、文字で残っているもっとも古い記録は、1857年(安政4年)の噴火、その30年後に発生した1887年(明治20年)の噴火、さらにその39年後に発生した1926年(大正15年)の噴火、その36年後に発生した1962年(昭和37年)の噴火、そして一番最近の噴火が、その26年後に発生した1988年(昭和63年)の噴火です。
- 直近200年弱の期間において、最短26年、最長39年の間隔で、定期的に噴火をしているのが十勝岳ですが、2023年現在、前回の噴火から35年が経過していますので、周期的にはいつ次の大規模な噴火が生じてもおかしくない、という時期を迎えています。
直近の状況
- 実際、前回1988年の噴火以降も、火山性の地震や地殻変動、水蒸気や泥水、小規模な噴煙の観測は毎年のように観測されています。
- 最も最近では、2023年7月にも、火山性地震の急激な増加や、わずかな傾斜の変動などが観測されて、ニュース報道されていました。噴火警戒レベルは平時の「1」のままで、レベルの引き上げは行われませんでしたが、火口付近には立ち入らないように注意などが行われていました。
- 大きな噴石や火砕流などの影響は、基本的に火口周辺に限られますが、十勝岳は毎年11月頃から4月~5月頃まで積雪期で雪が積もっており、この時期に噴火が発生すると、雪が瞬間的に溶けて大規模な土石流が発生する、融雪型火山泥流が発生します。
- これが十勝岳では最悪の被害をもたらす現象のひとつで、麓にある美瑛町(びえいちょう)の白金温泉(しろがね)などは過去にも被害をこうむったことがあります。さらに被害の規模が大きくなると土石流が川を下って、北海道上富良野町(かみふらのちょう)の市街地にも大きな被害が生じる恐れがあり、ハザードマップなどが作られて普段から警戒が呼びかけられています。
- 十勝岳から、上富良野町は直線距離で18キロほど離れていますが、融雪型火山泥流が発生した場合は、最短30分から1時間ほどで街の中心部まで土砂が流れ込む想定になっており、噴火の前兆などが観測されている状況においては、いつでも避難ができるような準備が必要なる地域になっています。
- 融雪型火山泥流は、到達距離が長く、しかもすぐに襲いかかる現象ですので、冬場の噴火では特に警戒が必要な災害と言えます。
十勝岳の大正噴火
- 1926年(大正15年)の十勝岳の噴火では、死者・行方不明者144名、建物の全壊372名、68頭の家畜と、602羽の鳥が被害を受けたという記録が残っています。そしてこの被害の多くは、噴火により生じた融雪型火山泥流による物でした。
- この大正の噴火では、噴火が始まる3年ほど前から前兆現象となる活動が多く観測されはじめ、1926年の5月24日に2回の大きな爆発が発生しました。特に2回目の爆発は規模が大きく、大規模な火砕流が山体に残っていた雪を溶かし、泥流となり、川を下って上富良野町の市街地に突入し、この地域だけでも100名以上の死者を生じさせる大きな被害をもたらしています。
- 現在ハザードマップで想定されている、融雪型火山泥流による大規模な土石流のモデルになっているのが、この大正噴火によるものだということです。
十勝岳の昭和の噴火・1回目
- 大正の噴火は、噴火開始から2年後となる1928年の年末に収まりましたが、大正噴火から36年後となる1962年(昭和37年)に再度噴火が始まりました。
- この噴火の際にも、噴火の10年ほど前から前兆現象が観測され始め、噴気や火山ガスなどがのぼるようになり、火山性の地震も増加していきました。
- 噴火が始まったのは1962年の6月29日のことです。この噴火も2回の大きな爆発が発生し、2回目の爆発では噴煙が高さ12,000mに達し、近隣だけで無く周辺の広い範囲に火山灰による被害をもたらしています。
- この噴火は、前回の大正噴火よりも物理的に大きな規模の噴火で、火口付近で硫黄の採掘に従事されていた作業員、5名の方が死亡する被害が生じています。一方、大正時代の噴火とことなり時期が夏で、雪がなく、融雪型火山泥流の発生がなかったこともあり、市街地などへの大規模な被害は発生していません。
- 火山の噴火による被害は、規模だけで無く噴火の形式や、時期によって大きく変わるのだということが分かる噴火でした。
十勝岳の昭和の噴火・2回目
- 昭和37年の噴火は、1週間ほどで沈静化しましたが、昭和の終わりになり次の噴火が始まります。それが1988年(昭和63年)、いまから35年前の噴火です。
- この噴火も、噴火開始から5年ほど前から噴気活動、火山性の地震増加が見られ、特に噴火の3ヵ月前ごろから火山性地震がどんどん増加していきました。そして冬場、12月16日に小規模な水蒸気爆発が発生し、3日後、12月19日、ちょうど35年前の本日、火砕流を伴う大規模な噴火が発生しました。
- 冬場の噴火ですので、大正時代の噴火のような、大規模な融雪型火山泥流の発生が心配され、麓の街ではすぐに避難準備が指示され、役場では対策本部が設置されました。
- その後泥流の監視装置が設置され、融雪型火山泥流が発生したらすぐに警報が出される仕組みなどが準備されました。12月24日には大規模な噴火が発生し、融雪型火山泥流も発生しました。
- 十勝岳から最も近い、北海道美瑛町(びえいちょう)の白金温泉周辺には即座に避難命令が出され、住民や観光客などがバスなどで緊急避難を行う事態に到っています。
- 幸い、この時の火山泥流は大規模な被害は免れましたが、噴火活動はなかなか沈静化せず、合計20回以上の噴火が発生しました。噴火から4ヵ月が経過した頃にようやく噴火が沈静化しはじめ、約5ヶ月後に避難命令がようやく解除されています。
次の噴火もある
- この、昭和63年の噴火から35年が経過し、次の噴火はいつ生じてもおかしくない時期となっています。
- ただ、過去の噴火全てにおいて、明確な前兆現象が観測されていますので、過剰に怖がる必要はありません。普段は十勝岳周辺の自然を楽しみ、危ないと言われた際には立ち寄りをしない、そのようなスタンスで参りましょう。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「北海道・十勝岳の噴火」でございました。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!