Voicyそなえるらじお #559 地下鉄サリン28年目…無差別テロから身を守るすべはあるか
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災!そなえるらじお」、3月20日(月)、本日も備えて参りましょう!
日本の社会は性善説で周っている
本日のテーマは「地下鉄サリン事件」のお話です。
- 今から28年前の本日、地下鉄サリン事件が発生しました。
- 地下鉄サリン事件は、1995年(平成7年)の3月20日、東京都の地下鉄で発生した、14名の死者と約6,300名の被害者が生じた無差別テロ事件です。
- 戦争や紛争が生じている地域において、化学兵器などが用いられることはしばしばありますが、平時の大都市圏で化学兵器がテロに用いられるという事態は世界でも類がなく、日本だけでなく世界的にも大きな注目を集めた事件でした。
- この無差別テロ事件を引き起こした、オウム真理教の首謀者13名については、事件発生から23年後の2018年(平成30年)の7月に、全員が死刑を執行されています。
- この死刑執行から今年2023年で5年目となりますが、テロに巻きこまれた方の中には未だに体調不良や後遺症に悩まされている方もおり、首謀者全員に死刑が執行されたとしても事件が終わったということにはなりません。
- 今後も継続した被害者に対する支援と、再発防止の取り組みや、こうした事故の記録を残すことなどが求められますが、実際には様々な課題もあります。
地下鉄サリン事件の特徴①:サリンが用いられたこと
- 地下鉄サリン事件の詳細については、様々なメディア媒体などをご覧頂きたいと思いますが、事件の特徴を3つ紹介します。
- まず、テロに用いられる兵器として、戦争の化学兵器にも用いられる「サリン」という神経ガスが用いられたことが上げられます。サリンは人間に対する殺傷能力が極めて高く、呼吸で吸い込む他、皮膚からも吸収されるやっかいな特徴を持っています。
- また液体状態のサリンが衣服などに染みこんだ場合、それが気化することで周囲にサリンが拡散し、二次被害をもたらすという点も問題になります。地下鉄サリン事件では、ばらまかれたサリンを吸い込んだ一次被害者の他、この被害者を救助しに行った方々も、拡散するサリンにより多くの被害を受けるということが生じました。
地下鉄サリン事件の特徴②:殺意の強い周到な計画
- 二つ目の特徴は、このテロ事件が突発的なものではなく、入念な準備の元、大量殺人を目指して計画的に行われたということです。最悪の化学兵器「サリン」を、民間の宗教団体が合成することに成功したことも衝撃であり、それをばらまく計画も周到でした。
- このテロでは、特に公安警察、検察、裁判所に勤務する方々が主要なターゲットにされていたということで、こうした施設が集中する東京・霞ヶ関駅で通勤者が降りるところが狙い撃ちにされました。
- サリンがまかれたのは現在の東京メトロ・当時の営団地下鉄で、霞ヶ関駅に通じる3つの路線、地下鉄丸ノ内線で2編成、日比谷線で2編成、千代田線で1編成、合計5編性の地下鉄がターゲットになり、5名の実行犯がそれぞれサリンをばらまきました。
- サリンがまかれた時間帯も、霞ヶ関における通勤ラッシュのピークとなる朝8時頃を狙い撃ちにしており、混雑した車内において、異変に気づいてもすぐ避難ができない状況が狙われました。
- しかもこれは、自爆テロではなく、サリンをばらまいた5名の実行犯は、自分に被害が及ぶ前に電車を降りて逃走するなど、極めて高い悪意と強い殺意によってもたらされた、無差別テロであったという点も特徴と言えます。
地下鉄サリン事件の特徴③:未知の状況が生じたこと
- 1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生する9ヵ月前、1994年の6月27日、長野県松本市でオウム真理教による最初のサリンによる殺人が実施されていました。通称「松本サリン事件」と呼ばれる無差別テロです。
- このテロでも、8名の死者と約600名の被害者が生じる大惨事となりましたが、松本サリン事件の発生から地下鉄サリン事件の発生までの間に、オウム真理教への捜査は間に合わず、地下鉄サリン事件を防ぐことができなかったという課題も残されています。
- またこの当時、サリンという化学兵器の存在は広く知られておらず、また化学兵器による無差別テロ事件の発生ということ事態が「まさか」という想定外の対象であったことから、地下鉄サリン事件が発生した際にも、毒物の速やかな処理や、被害者への一次対応が適切に行えず、被害が大きく拡大したという背景がありました。
化学兵器のテロに巻きこまれた際の対処法
- では、サリンを始めとする化学兵器がテロに用いられ、それに巻きこまれた場合にはどのような行動を取るべきでしょうか。難しいことは、そもそもこうした化学兵器が生活領域に入り込むことは、人間の強い悪意がなければ通常ありえないため、決定的な対処法はないということなのです。
- これは昨今頻発する、ガソリンなどを用いた自爆型の無差別放火テロにも共通しておりまして、基本的に建物や乗り物の安全性は、想定可能な自然災害や不注意による事故などに対して担保されており、人間の悪意に基づくテロに対しての事前対策は、現実的に不可能ということが上げられます。
- そのため、こうしたテロ事件から身を守るための行動としては、まず危険から距離をとること。そして異変を感じた際にすばやく逃げること。この2点に集約されます。
- 街中で突然人が倒れた、これが1名であれば突発的な心肺停止や交通事故の可能性もありますので、人命救助に参加するということはあり得ると思います。こうした事態に備えて、AEDの使い方などを学んでおくことも有益です。
- しかし、複数の人が同時に倒れたような場合は、何かが生じている可能性があります。火災による一酸化炭素中毒、化学テロ、あるいは無差別殺人が生じているかもしれません。たまたま全身を覆う防護服と酸素ボンベを背負って外出していた場合は、救助に参加するのもよいですが、そうでなければすぐに現場に近づくのではなく、119番の救急要請と、110番の警察に自分が通報しつつ距離をとる、といった行動が必要になります。
- また、自分のすぐ近くで人が倒れた、建物の避難ベルが鳴った、複数の悲鳴が聞こえたような場合も、まずは率先避難、自分が第一避難者となってその場を離れ、取り急ぎ110番に通報する、そうした意識が必要です。
本日も、ご安全に!
ということで本日は「地下鉄サリン事件」に関するお話でした。
この事件が発生した日、私はちょうど小学校の卒業式に参加しており、お昼過ぎに帰宅したところ、同居していた祖父母がテレビの前で「東京で大変なことが起きているらしい」と教えてくれた…ことが印象に残っています。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!