Voicyそなえるらじお #592 玄関の高さと最寄りの「堤防」の高さを比較する!天神川決壊の話
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、5月9日(火)、本日も備えて参りましょう!
難しい水害の発生
本日のテーマは「水害対策」のお話です。
- GW最後の週末は全国的に大雨となる地域が多かったですが、水害被害も発生しております。
- 昨日5月8日(月)の深夜から早朝にかけての時間に、兵庫県伊丹市を流れる天神川(てんじんがわ)の堤防が、約30メートルの長さに渡って決壊、住宅地に水が流れ込み、床上浸水1棟、床下浸水11棟の被害が発生しました。
- 幸い人的な被害は発生しませんでしたが、この水害は、発生の原因および事前の認識という2つの方向において、注目すべきポイントがあります。今回はこの2つのお話です。
人災の恐れがある
- ひとつのポイントは、この水害は自然災害ではあるのですが、いわゆる「人災」と呼ばれる可能性があることです。
- 天神川はそれほど大きな河川ではなく、住宅地を流れる比較的小規模な河川です。また周辺の土地よりも川底の方が高い場所を流れている、いわゆる天井川と呼ばれる構造をしており、今回の決壊地点についても、河川の上ではなく下を道路がトンネルとして走るという作りになっていました。
- トンネルの上を川が走っているため、川底が弱いとトンネルが浸水してしまいます。そのため兵庫県は、川の底を強化する工事を以前から行っており、この工事のため、川の中に土のうを積んで、川の幅が普段よりも半分程度に狭められていたということです。
- ニュース映像を見ると、決壊が起きた数時間後に、大量の土のうが敷き詰められており、なんて素早い復旧活動なのだろうと感動したのですが、そうではなくて、最初から土のうが敷き詰められ、川幅が狭くなっていた所に大雨で大量の水が押し寄せ、水を捌ききれなくなって決壊したということだそうです。
- 川の幅を狭めての川底強化工事は、昨年2022年の11月頃、つまり水害シーズンが終わり、水が少ない時期に入ってから開始され、今年の7月末に完了する予定でした。ところが今回、直近における観測史上最大の大雨がこの地域にふってしまったことから、狭めた川幅が水をさばき切れず、堤防を決壊させることになってしまったということです。
- 水害シーズンの前までに、水害が生じづらくなる工事を終わらせる予定が、想定外の大雨で水害をもたらしてしまう。原因は自然現象による自然災害なのですが、河川の強化工事が行われていなければ堤防も無事だった可能性があるだけに、そういう意味では「人災」と呼ばれてもおかしくない今回の水害、なんとも難しい判断が求められる結果となりました。
- また、今回の水害は完全に想定外のものだったため、避難指示が発表されたのも河川の決壊の後であり、事前避難はできなかったという問題もあります。死者が生じなかったのは不幸中の幸いですが、河川の工事を行う際に参考にする雨の量などは、平年値ではなく、想定最悪で見ておかなければならないというのは、ひとつの教訓になるのではないでしょうか。
想定外の水害
- もうひとつのポイントは、今回水害が生じた地域では、水害が生じることを予測できていなかったという点にあります。
- 水害対策の基本はハザードマップを見ることです。そしてハザードマップの確認は、自治体が作成する市町村のハザードマップを見るか、国土交通省の重ねるハザードマップを見るかが基本的な行為となります。
- そして今回堤防が決壊した地点は、自治体の地図、国交省の重ねるハザードマップともに、水害が生じない場所、安全な場所としてシメされていたということが事態をややこしくします。
- 兵庫県伊丹市は、街の東側を猪名川、街の西側を武庫川、という2つの大きな河川が流れる地域で、猪名川・武庫川の流域については、自治体のハザードマップ・国交省の重ねるハザードマップともに、水害による浸水想定区域として色が付けられていました。
- ところで日本には、約35,000の河川があるのですが、このうち1級河川が約14,000、2級河川が約7,000、準用河川が約14,000存在します。
- しかし、この35,000の河川のうち、水害ハザードマップの作成が義務づけられている河川は規模の大きな川に限られ、数で言えばわずか2,184しかなく、残りの約33,000の河川では、これからの整備が待たれる状況となっています。
- 実際近年の水害では、ハザードマップのない河川で水害などが発生しており、これを何とかするために、2021年に水防法が改正され、全国15,000の河川がさらにハザードマップ作成の対象に追加されました。事実上、1級河川・2級河川は全てハザードマップの対象になったのですが、もちろん作成するためには時間がかかりますので、今後しばらくはハザードマップのない地域においても、自分自身で水害の危険を察知しなければなりません。
- そして今回の天神川は2級河川なのですが、ハザードマップがまだ作成されていない河川であり、ここで水害が生じたことはある意味では想定外だったと言えるのです。
自分で調べる
- 自宅周辺の水害リスクを把握するためには、ハザードマップを見ることが不可欠です。ハザードマップで浸水する想定になっており、かつ自宅が戸建てであったり、マンションやアパートの1階・2階にある場合は、浸水が生じると死ぬ恐れがあるため、避難指示などが発表されている場合は避難が必要です。
- しかし、ハザードマップがまだ整備されていない地域についても、周囲の地形を観察して、自力で危険を察知する必要があります。
- 過去の放送かyoutubライブでお話したことがありますが、私の場合は、自宅の玄関の高さが、最寄りを流れる河川の堤防よりも低い場合は、何かの理由で堤防が決壊または、水を乗り越える越水が生じると、ハザードマップの有無に関わりなく水没する可能性があるため、最寄りの川の堤防の高さと自宅の玄関の高さを比較することが、自分でできるリスク把握として重要だと思っています。
- 今回の天神川の場合は、川の堤防はもちろん、そもそも川底が周囲の土地よりも高い場所にありますので、何かの理由で堤防を水が乗り越えてきた場合は、周辺が水没する可能性があり、そして今回はこれが生じたと言うことになります。
- ハザードマップは参考資料、まずは自分自身の目で水害リスクを把握することも重要だと、そうしたことが今回の水害で再び明らかになりました。
- 原因は「人災」の可能性がありますが、結果としての「水害」に関しては、原因そのものは余り関係ありません。自分と家族の命を自分でまもる準備の一環として、川の堤防と自宅の玄関の高さの比較、してみてください。
- ちなみに標高を調べる際には、重ねるハザードマップを開くと、地図の中心の標高が表示されますので、これで細かい数字を見ることもできます、お試し下さい。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「コロナウイルス感染症」のお話でございました。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!