Voicyそなえるらじお #785 福島第一原発…2月7日の水漏れ事故はヤバイのかどうなのか解説
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、2月13日(火)、本日も備えて参りましょう
ベクレルとシーベルト
本日のテーマは「福島第一原発の汚染水水漏れ事故」のお話です。
- 先日、2024年2月7日、福島第一原子力発電所で、汚染水浄化装置から放射性物質を含む水が外部に漏れ出たトラブルが生じたと、報道がありました。事故の原因は調査中ですが、単純な作業ミスの可能性もあるということで原因を調べているということです。
- 漏れ出た水の量はおおよそ5.5トン、セシウム137などが含まれており、漏れ出た放射性物質の量は220億ベクレルに相当するということです。さて、この報道を聞いて、これがヤバイ事故なのかそうでなのか、よく分からないと思います。
- 先日のそなえるらじお、コメント欄に、この事故がよく分からないので、解説が欲しいというリクエストも頂きましたので、今回はこの事故についての解説をします。
220億ベクレルという量
- まず、今回の事故で漏れ出した220億ベクレルという数字、これがどのくらいの量なのかという点ですが、2011年の福島第一原子力発電所事故で漏れでた放射性物質のベクレル量は、総量として52京ベクレルという調査結果があります。
- 今回漏れ出た220億ベクレルと、総量としての52京ベクレルを比較しますと、今回の事故で漏れた量は、累計と比較して2千3百万分の1という量になります。今回の事故が2千3百万回発生すると、2011年の事故と同じレベルということになりますので、まぁこのような言い方をすれば、たいしたことの無い量だったということが分かります。
- ただ、2011年の事故そのものが、最悪クラスの大事故ですので、それと比較してたいしたことがないというのは、あまり意味が無いですよね。もう少し細かく調べてみましょう。
ベクレルとシーベルト
- そもそも「ベクレル」とは何でしょうか。ベクレル[Bq]というのは放射能の単位です。1秒間に原子核が崩壊する数を表す単位となります。よく分からないと思いますし、よく分からなくて大丈夫です。
- 私達の人体への影響を考える際には、シーベルト[Sv]という単位を考えることが重要です。シーベルトというのは、放射線が人に対して、どのくらいの影響を与えるのかを評価するための単位です。
- 例えば日本に住んでいる人が1年間に自然から受ける放射線の影響は、平均すると2.4ミリシーベルト程度です。
- また、飛行機でアメリカまで往復すると0.1ミリシーベルト程度の影響を受けて、病院で胸のX線写真を撮ると1回0.06ミリシーベルト程度の影響を受けます。また、普通の人の場合は、自然からあびる量を除いて年間1ミリシーベルト以下の被ばく量、放射線を扱う施設などの場合も年間20ミリシーベルト以下にしましょう、という基準があります。
- ちなみに病院でCT検査を受けると、1回で2~12ミリシーベルト程度の影響を受けますので、普通の人の年間の上限を超えます。イメージとして、年間1ミリシーベルト以下なら平常通りで、年間20ミリシーベルト以下なら許容範囲で、年間100ミリシーベルト以下にできれば、非常時においてもまぁ許せる範囲、だと思ってください。
- 放射線をあびた際に、人体に深刻な影響が生じ始める目安は、おおむね1,000ミリシーベルトです。一度に1,000ミリシーベルトの放射線をあびると、吐き気を覚えたり、なにか良くないことが起こり始めます。
- 4,000ミリシーベルトになると、中長期的に半数の人が死亡し、
- 10,000ミリシーベルトになると、ほぼ全ての人が1~2週間で死亡し、
- 100,000ミリシーベルトになると、基本的に即死します
- 自然界にも放射線はたくさん存在しますので、被ばく量をゼロにすることは不可能なのですが、できるだけ減らした方がいいよねというのが、基本的な考え方になっています。
220億ベクレルは何シーベルトか
- では、今回の事故で漏れた220億ベクレルというのは、人間への影響であるシーベルトに変換するとどの程度の量になるのでしょうか。
- 放射性物質側の単位ベクレルを、人体への影響に対する単位シーベルトに変換するには、放射性物質の種類、放射性物質と人間の距離、人の性別や年齢によって変わります。
- その辺にも存在するトリチウムはそれほどヤバイ物質ではありませんが、核兵器にも使われるプルトニウムはおなじ1ベクレルでも大きな影響を受けます。
- また放射性物質が容器に入っていれば問題ありませんが、うっかり飲み込んでしまうと同じ1ベクレルでも大きな影響を受けます。
- さらに、放射線は人間の細胞に影響を与えますので、しわしわの高齢者よりも、成長中の赤ちゃんや子どもの方が、同じ1ベクレルでも大きな影響を受けます。
- これらをまるっと解決するために用意されているのが、「実効線量係数」という数字です。これは覚える必要はないので省略しますが、
- 今回の水漏れ事故では、セシウム137という放射性物質を含む水が漏れました。セシウムはトリチウムよりはヤバイが、プルトニウムよりはマイルドな放射性物質ですが、これが5.5トン漏れて、それに220億ベクレルの放射能が含まれていたと言うことです。これを人体の影響シーベルトに変換すると、418,000ミリシーベルトになります。
- だいたい10万ミリシーベルトで、人が即死するレベルですから、今回漏れ出た水を4人で飲み干すと、4人とも即死するレベルです。こう聞くと結構ヤバイ量の放射能が漏れ出たことが分かります。
1リットル辺りのベクレル量は
- ただ、問題なのは濃度です。今回漏れ出た水を1トン飲めば即死しますが、水を1トン飲めば、それが放射性物質でなくても即死することは分かりますよね。
- 現実的に飲み干せる量、今回漏れ出た水1リットルに含まれるベクレル量は、約400万ベクレル、シーベルトに変換すると76ミリシーベルトです。
- この漏れ出た水1リットルを飲み干すと、76ミリシーベルトの被曝をするという言い方になります。放射線を扱う施設などで働く人の年間許容量20ミリシーベルトの4倍ですから、そこそこ問題です。しかし、直ちに健康に害は生じない量という言い方にもなります。
- もちろんこの1リットルで76ミリシーベルトという値は、飲み干して内部被曝をするという最悪の条件での変換ですから、水に触れる程度であれば影響は小さくなりますし、適切な防護服を着て作業をすれば、問題の無い量ということにもなります。
- ただ、放置するにはいささか問題のある量と内容ですので、東京電力では水が漏れ出た範囲の除染・回収などを行うということです。
結論
- 今回の事故の結論としては、「直ちに大きな問題となるレベルの事故ではないが、無視して良い程度の影響ではないので、漏れ出た汚染水は適切に処理した上で、再発防止に厳重に努める」というのが行う対応になるかと思われます。
本日も、ご安全に!
本日は「福島第一原発の汚染水水漏れ事故」のお話でした。
それでは皆さま、引き続き、ご安全に!