Voicyそなえるらじお #879 土砂災害ハザードマップを生み・育てた、二度の広島土砂災害
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、6月28日(金)、本日も備えて参りましょう!
痛みを覚えないと対策が進まない
本日のテーマは「土砂災害ハザードマップ」のお話です。
日本は山の多い国です。数字を見ても、国土面積の75%が山地です。諸行無常、形ある物はいつか壊れる。土砂災害、山ある所はいつか崩れる。日本において土砂災害は日常的なものであり、大雨や大地震が生じれば特に発生しやすくなります。
土砂災害は三種類に分類されています。土石流、急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)、地すべりの三種類です。これらの現象が発生した際に、建物や人の命に危険をもたらす場所は、土砂災害ハザードマップに掲載されています。避難の必要な土砂災害警戒区域と、それに加えて建物や土地の使用に制限のかかる、土砂災害特別警戒区域です。
2024年3月末現在、土砂災害警戒区域は全国に69万箇所、特別警戒区域は59万箇所指定されています。今回は、この土砂災害ハザードマップと、土砂災害警戒区域のお話をします。
1999年の広島土砂災害
土砂災害ハザードマップおよび、そこに掲載されている土砂災害警戒区域・特別警戒区域は、土砂災害防止法という法律が根拠法になっています。この法律では、建物や人命に影響を及ぼす恐れのある、土砂災害が生じそうな場所を、全て明らかにすることを目的にしている、まさに土砂災害ハザードマップを整備するために作られた法律です。
この、土砂災害防止法は、明日6月29日で25年目となる、広島の大規模な土砂災害がきっかけに作成されました。
1999年(平成11年)6月29日、活発化した梅雨前線の影響で広い範囲に大雨が降りました。その中でも、広島県広島市周辺で集中豪雨となり、これが大規模な土砂災害を発生させました。広島市および呉市を中心に、広島県内で139箇所の土石流と、186箇所のがけ崩れが発生し、死者32名、家屋の全壊154棟という大惨事となりました。この被害は、特に市街地周辺に広がっていた、山を削って作られた新しい住宅地に集中し、都市型の土砂災害という特徴を持っています。
土砂災害防止法が制定される前は、土砂災害危険箇所という名称で、「土石流危険渓流・地すべり危険箇所・急傾斜地崩壊危険箇所」の3つについて、被害の恐れがある場所が指定されていました。しかし土砂災害危険箇所には、建物や土地の利用に関する制限や義務はなかったため、単にここが危ないですよというお知らせの役割にとどまっていました。
しかし1999年の広島における土砂災害では、こうした危険とされる場所が住宅地として開発され、住宅のすぐ裏に崖や斜面が存在する場所が多くありました。こうした山沿いの新しい住宅地は広島だけでなく、日本全国に広がっていたため、災害の翌年、2000年に土砂災害防止法が制定されることになりました。
2014年の広島土砂災害
土砂災害防止法で指定される、土砂災害特別警戒区域に指定されている土地では、例えばがけ崩れが起こらないように斜面に対策を施さなければ、土地の開発が行えないように義務づけたり、土砂災害が発生しても破壊されないようにした建物でなければ、建築できないような義務づけがされています。
また土砂災害警戒区域では、災害が生じそうな場合に避難を呼びかけるなど、ハード面・ソフト面の両面において、土砂災害から建物や命を守るための対策が行われるようになりました。
しかし、土砂災害による被害を軽減するために生まれた、土砂災害防止法でしたが、制定からしばらくの間、なかなか土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定は進みませんでした。単純に予算やマンパワーが不足していたことや、指定されると不動産や土地の価格に影響が生じる恐れがあるため、住民から反対が生じることなどが理由でした。
そのような状況で、再び広島において大規模な土砂災害が発生します。今年で10年目となる広島市の土砂災害です。2014年(平成26年)8月20日、広島市で線状降水帯を伴う強烈な集中豪雨が発生しました。記録的な大雨により、広島市内で土石流が107箇所、がけ崩れが59箇所発生し、77名の死者と、133棟の家屋全壊被害をもたらす大惨事となりました。
これは土砂災害防止法を生むきっかけとなった、1999年の広島土砂災害を上回る被害となり、しかも被害の多かった場所が再び山沿いの新しい住宅地だったということで、15年前の災害の教訓を生かし切れずに、同じような災害を生じさせてしまったという苦い経験になってしまったのです。
そのため、この2回目の広島土砂災害受け、土砂災害防止法が改正されました。これにより、土砂災害ハザードマップを徹底的に住民に周知させたり、土砂災害警戒区域・特別警戒区域の設定を早く行う様にしたり、また避難に関する体制の強化などを行わせたりする対応が取られました。
その後、土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定箇所は増え続け、冒頭でお話した通り、2024年現在では69万箇所が指定され、これを重ねるハザードマップなどで手軽に見られるようになっています。
土砂災害は浸水以上に、発生する場所が事前にわかる災害です。また避難をすれば助かります。すでに危険な場所にお住まいの方が、これから引越をするのは難しいかもしれませんが、せめてこれから家を購入する際には、土砂災害警戒区域・特別警戒区域を避ける、これを100年ほど続ければ、多くの方が安全な場所に暮らせるようになります。
本日も、ご安全に!
本日は「土砂災害ハザードマップ」のお話でした。
それでは皆さま、引き続き、ご安全に!