Voicyそなえるらじお #1189 防災標語「おはしも」は「訓練用」であって「災害用」ではない
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、10月17日(金)、本日も備えて参りましょう!
カセットこんろとボンベの日
本日のテーマは「防災の標語」です。
備える領域には色々な標語があります。
例えば「おはしも」…子ども向けの避難訓練、標語。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、消防庁が定めて普及した。
- お・押さない
- は・走らない
- し・しゃべらない
- も・戻らない(「も」は後から追加されて普及した)
- ※て・低学年優先(これも後に追加された。「おはしもて」の普及も多い)
例えば「イカのおすし」…子どもが不審者から身を守るための五つの行動をまとめた防犯標語。2004年に警視庁と東京都が考案し、全国に広まりました。
- いか・行かない
- の・乗らない
- お・大声を出す
- す・すぐにげる
- し・知らせる
例えば「さたにし」…家庭の事前防災ですべき4つのポイントの頭文字。備え・防災アドバイザー高荷智也が2023年に出版した「今日から始める家庭の防災計画」に記載されている言葉だが、本人は語呂が良く使っているだけで、普及させるつもりはない。
- 災害を…
- さ・避ける
- た・耐える
- に・逃げる
- し・しのぐ
他にも、子どもの教育現場で使われる地震発生時の行動として「おさるのポーズ」「ダンゴムシのポーズ」なども使われています。
「おはしも」は訓練標語
「おはしも」という標語は、全て否定用語だから良くない、とする意見もあります。
- お・押さない
- は・走らない
- し・しゃべらない
- も・戻らない
なぜ全て否定なのか、この用語が作られた当時の状況はわかりませんので私の推測ですが、災害時の行動として「してはならないこと」を示すのは比較的容易なのですが、「すべきこと」を示すのは難しいという面があろうかと思います。
また、「おかしも」という言葉は、あくまでも「避難訓練」時に使用する教育用の標語であり、災害発生時に直接役立てる目的では作られていないという点もあろうかと思います。指導者がいる場所において、順を追って防災訓練を行う際に、してはならないことを並べたのが「押さない・走らない・喋らない・戻らない」という言葉なのですね。
多くの避難訓練は、建物内から屋外へ移動する訓練です。途中でケガをしては困りますので、押さない・走らない、重要ですね。喋らない、先生の言葉が聞こえないのは困りますから必要ですね。戻らない、戻られたら訓練にならないので大切ですね。あくまでも訓練用の言葉なのです。
災害時にすべきこと
災害時にすべきこと、最優先事項で括れば「自分の命を守る」ことがまず重要なのですが、そのための手段は災害ごとに異なります。
例えば学校の防災訓練でも多い「建物内での火災」からの避難であれば、「1秒でも早く建物の外に逃げ出す」というのがすべきことの第一条件で、その上で「煙を吸わないように、姿勢を低くして逃げる」とか、火災を広げないように「窓やドアを閉めながら逃げる」とか、そうしたすべきことが出てきます。
あるいは火災が自宅や管理している建物であれば、「まず大声で火災を知らせて」「119番通報をして」「初期消火を行い」「ダメなら逃げる」となります。火災の状況、当事者なのか巻きこまれただけか、等によってもすべきことは変わります。
火災と同じく「1秒でも早く逃げる」が優先になっている災害としては、大地震による津波避難、至近距離での火山の噴火、Jアラートが鳴った状況でミサイル攻撃などから逃げる状況、あるいは街中にいた際に生じるテロや無差別殺人など、そこに留まると死ぬ恐れがある災害が生じた場合は、大前提として「逃げる」があり、その上で細かな注意点が続きます。
落ち着くべき災害
逆に、慌てて行動してはならないパターンとしては、大地震直後に揺れによる被害を回避する場合、つまり「おさるのポーズ」や「ダンゴムシのポーズ」が必要な状況、慌てて行動するのは危険なのでまずはその場で身の安全をとる状況があり得ます。ただ、いまいる建物が旧耐震基準かつ耐震改修をしていない木造住宅などの場合は、揺れている最中にはってでも屋外に飛び出さなければならないケースがあるため、やはりケースバイケースと言えます。
あるいは台風や大雨による水害避難についても、最もよいのは災害発生前に避難を終えることですが、すでに周囲が浸水している状況では屋外被害が逆に危ない恐れもあるため、慌てて逃げずに、建物内で安全確保をしたり、救助を待つことが必要になる場合もあります。ただ、建物が土砂災害警戒区域にあり、がけ崩れや土石流などが生じる恐れがある、あるいは生じつつある場合は、走って屋外や高台へ移動する必要もあるため、やはりケースバイケースになります。
あと、目覚めたら知らない学校の教室にいて、「今日はみんなに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」などと、突然デスゲームに巻きこまれた場合も、慌てて行動すると見せしめに処刑されるため、まずは落ち着いて周囲に溶け込むことが必要です。これは重要施設でテロリストに遭遇した場合にも同じことが言えるかもしれません。
標語は難しい
「おはしも」や「いかのおすし」は、あくまでも教育において役立てる言葉であり、災害時に活用する言葉ではないということが重要です。もちろん、防災教育は災害時に役立てることを目的にしますので、災害時に役立たないということを言う訳ではありませんが、順番が逆と言うことですね。
災害時に使うために「おはしも」や「いかのおすし」を覚えさせるのではなく、災害に備えた訓練をするために標語を活用し、結果として災害や防災への理解を深めると言うことが重要です。
ですから、ひとりでいる時に建物火災が発生し、「大変だ!火災だ!おはしもだ!、ええと、押さない…あっ、ドアは押さないと開かない、どうしよう!走らない…煙が追いついてきた、もうだめだ!しゃべらない…そこに消防士さんがいるのに助けを呼べない!どうしよう!戻らない…間違って避難扉の逆に来ちゃったけど、戻ったらだめだ、どうしよう!」などとなります。
繰り返しますが防災標語は、それ自体を役立てようとするのではなく、指導者がいる状況における、教育の一環として活用する言葉だと言うことです。災害から命を守る行動は状況により異なりますので、自分が住んでいる地域において、生じる恐れの高い災害に巻きこまれた場合に、まずすべきことをシンプルに身につけることが重要と思います。
命を守る環境を
「津波てんでんこ」などはこの目的に合致しており、津波はとにかく全員バラバラになってでも走って逃げる、という大原則を強く表した言葉ではないでしょうか。
先ほども言いましたが、地震による津波、建物火災、至近距離での火山の噴火、街中でのテロや異変、学校に不審者が包丁を振り回しながら侵入してきた、などの状況においては、「考える前に走って逃げろ、安全な場所へたどりついたら次の行動を考えろ」というような思考が重要ではないかと思います。
また、災害そのものを避ける環境を作ることは、大人の責任として特に重要で、ダンゴムシのポーズをしている子どもが建物倒壊で死なないように、とにかく学校や住宅を頑丈にする、家具を固定する、などは大人の役割ですし、そもそも津波も洪水も土砂災害も生じない場所に暮らす、という知識を身につけることも前提として重要です。
今回の訓練や防災の話は「おはしも」とはちょっと違うんだよな、という状況においては、無理にこの言葉を使う必要もありません。防災標語にこだわりすぎず、自分と家族が巻きこまれる災害やリスクは何か、それで死なないためには何をすべきか、を長期的に考え、学び続けることが重要だと思います。
はねあり
ちなみに、水害避難に関する新しい標語を考えて見ました。
「はねあり」
- は・早く行動する(Lv3高齢者等避難・Lv4避難指示で行動開始)
- ね・粘らずに逃げる(Lv5緊急安全確保まで粘らず、早めに避難を終える)
- あ・足下を確認しながら歩く(冠水道路上は足下の危険や穴に注意)
- り・両手をあけて移動(足下を探る棒などを持つため、荷物はリュック、ライトはヘッドライト、傘ではなくレインウェアを着る)
という感じでどうでしょうか。あと、アリは水害で死ぬけど、はねアリなら助かる、みんな羽を生やそう、という意味もあったり無かったりします。いや、ないです。
本日も、ご安全に!
本日は「防災標語」のお話でした。
それでは皆さま、引き続き、ご安全に!