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Voicyそなえるらじお #1032 放射線育種米…あきたこまちRの生産による大いなる可能性

最終更新日:

執筆者:高荷智也

Voicyそなえるらじお #1032 放射線育種米…あきたこまちRの生産による大いなる可能性

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、2月20日(木)、本日も備えて参りましょう!

あきたこまちR

本日のテーマは「放射線育種」のお話です。

ここ最近の放送で、「お米」に関する話題を取り上げておりますが、今回は放射線育種米と、今年度から大規模に作付けが始まるあきたこまちRのお話です。

放射線育種米とは

今回のテーマ、放射線育種とは、自然界で生じる植物の突然変異を、スピーディに行わせる手法のひとつです。放射線科学が産業に活用されるようになってきた、1950年代から活用されている品種改良の方法となっています。

私達人類は、はるか昔から作物の品種改良を行ってきました。収穫した作物の中で、他よりも美味しいものの種を掛け合わせて、より美味しい作物を作る。あるいは他の田んぼよりも病気や寒さに強い稲を掛け合わせて、より病気や寒さに耐えられるお米を作る。さらに美味しい作物と病気に強い作物を掛け合わせて、美味しくて病気にも強い作物を作る。

このような、おしべとめしべによる交配を活用した品種改良は、はるか昔から少しずつ行われて来ています。仮にタイムマシンがあり、昔に戻ることができたとして、そこでお米や野菜や果物を食べたら、今よりも余り美味しくなくて、がっかりするのではないでしょうか。現在の私達が食べている美味しい作物は、ご先祖様達からの贈り物なのですね。

ところで、この作物の交配による品種改良には長い時間がかかります。そもそも、他の作物よりも美味しかったり、病気に強かったりするものを見つけることが大変だからです。こうした、他よりもすこしよい特徴を持った作物、自然界においては突然変異でヒッソリと生まれます。これを見つけ出して、掛け合わせ続けることで品種改良が行われます。

突然変異が生じるのは、遺伝子のエラーが原因です。自然界に存在する放射線などの影響で、作物の遺伝子がエラーをおこして、それが突然変異となり、その突然変異が有益だった場合は、前よりも美味しくなったり病気に強くなったりします。放射線は自然界にたくさん存在しますので、これにより遺伝が勝手に変わり、突然変異を起こすのです。

ただ、この自然に生じる突然変異を待っていると、あまりにも長い時間がかかります。これを短時間で行う技術が、作物に人為的に放射線を当てて、ポジティブな突然変異を誘発差せるという技術、すなわち放射線育種です。そしてこの放射線育種によって生まれた、コシヒカリ環1号というすごい品種、これを親にして交配により生まれた、あきたこまちRというやはりすごい品種、これが2025年度から大規模に作付けされることになっています。

この放射線育種がなんとなく不安に思うのは、ひとつは放射線というものを使っていることによる不安。そしてもうひとつは遺伝子が変わることによる毒性などに対する不安かと思います。それぞれ解説します。

放射能と放射線

まずは放射線に関する不安です。放射線育種は、自然に生じる突然変異を素早く生じさせるための技術のひとつに過ぎません。ただ、放射線を使っているということが、なんとなく不安を生じさせる原因になっていると思います。

改めての解説ですが、放射線というものはその辺にたくさん飛び回っています。しかし放射線は無から突然生まれるのではなく、放射線を生む物質から飛び出します。この、放射線を生む物資のことを、放射性物質と呼び、放射性物質が放射線を出す能力のことを、放射能と言います。

ここで重要なことは、人体や動物、あるいは植物は、放射線をあびても、それ自体が放射能を持つようにはならないということです。放射線をあびた植物が、自分も放射線を出すようになってしまったら大変です。自然界にたくさん飛んでいる放射線で、世界は放射性物質にまみれてしまいます。

ちなみに、身近で放射線をあびる機会もあります。例えば病院のレントゲン検査は人体に放射線を浴びせています。またがん治療にも放射線が用いられています。でも、レントゲン検査を受けた人が、放射線を出す能力に目覚めるなどということは、当然ながらありません。今回の場合は、稲に放射線をあてていますが、この放射線をあびた稲も人間と同じく、放射線を出す稲にはなりません。

そもそも放射線育種は、放射線を浴びせた稲や植物をそのまま食べるわけではなく、突然変異をたくさん起こして、その中からイイ感じの特性を持った作物を掛け合わせて、よい特性を固定化させるという品種改良です。放射線をあびた作物は、何世代も前の親世代ですので、実際に今作付けをする稲や種自体には、とくに放射線を浴びせるということは行っていないのです。

今年度から大規模な作付けの始まる、秋田県のあきたこまちRは、放射線育種で生まれたコシヒカリ環1号と、既存のあきたこまちとの交配で生まれた品種ですので、あきたこまちR自体は放射線育種米ですらありません。放射線育種米を親に持つ新しい品種ということになります。

このような、放射線育種米を親や先祖に持つお米はたくさんあり、例えば青森県のブランド米、まっしぐらや、青天の霹靂(へきれき)なども、先祖はレイメイという寒さに強く改良された放射線育種米です。この技術はずいぶん昔から使われていると言うことになります。

ということで、放射線をあびた稲そのものに対する不安というものは、完全なイメージによる不安であり、何ら気にすることは無いと言うことになります。

遺伝子改良に対する不安

もうひとつの不安は、遺伝子が変わることによるなんとなくの不安です。この場合に混同されがちなのは、遺伝子組み換え作物などの存在でしょうか。遺伝子組み換えは、本来の突然変異では得るはずのない、別の作物の特性を人為的に埋め込む技術です。そのため、自然界の節理を超えたレベルで、超人的な作物が誕生し、これがなんとなくの不安となっています。

もちろん、遺伝子組み換えで作られる作物は、人間にとって有用な能力を埋め込まれることが前提ですので、本来は問題ないはずです。ただ、自然に起こらないはずの遺伝子を持つ作物が生まれることは、いわゆる遺伝子汚染などにつながる可能性があり、このデメリットが強く問題になっているのが現状です。

一方、放射線育種によって生じる遺伝子の突然変異は、長い時間があればいずれ生じる可能性がある変異です。これを待っていると品種改良に時間がかかりすぎるため、素早く行っているだけという言い方になります。もちろん、毒性を持ったり、味が落ちたりという突然変異が生じる可能性もありますが、そうしたネガティブな変異をした作物は、品種改良の過程で当然弾かれますので、私たちが触れることはありません。

自然に生じる突然変異を加速させて、よい品種改良をどんどん行う技術が放射性育種ですので、これを無理矢理行う遺伝子組み換えとは全く異なるものなのだ、と言うことになります。

なお、コシヒカリ環1号は、従来の放射線育種で主流だったガンマ線ではなく、重イオンビームという、ガンマ線よりもエネルギーの大きな放射線で作られました。放射線育種は、放射線を遺伝子に当てることでエラーを起こすものですが、エラーが小さいと遺伝子が修復されてしまうことがあり突然変異が起こりません。そのため自然界で生じる突然変異は基本的にマレな現象です。

重イオンビームは、ガンマ線よりも遺伝子に強いエラーを与えることができるため、自然界の突然変異では極めて長い時間がかかる作業を、狙って引き起こすことができます。これがなんとなく怖いという印象を与える訳ですが、可能性はひくいものの自然に生じる可能性がある突然変異を、ガンマ線よりも効率的に引き起こすための手段が、重イオンビームだということになるのです。

あきたこまちR

ということで、この放射線育種で誕生した新しい稲が、コシヒカリ環1号で、これをさらに掛け合わせて生まれた品種があきたこまちRです。

いずれも、従来のコシヒカリやあきたこまちと同じ品種ですが、唯一、人体に有害なカドミウムをほとんど吸収しないという素晴らしい特徴を持った品種になっています。日本は鉱山と水田が隣接する地域が多く、昔からカドミウムを稲に吸わせない対策に労力をかけていました。これを品種レベルでかってに行える様になったのが、コシヒカリ環1号とあきたこまちRです。

カドミウムを吸収しづらいという特徴以外は、従来の品種と同じですので、基本的にはメリットしかありません。そのため、秋田県では、今年2025年度の作付けから、あきたこまちを全てあきたこまちRに切り替えて、作付けを行うことになっています。

これは、昨日の放送でお話をした、お米の増産と、平時は海外へ輸出をして非常時には国内にお米を回す、という政策にも合致します。海外のお米は、日本よりもカドミウム含有量に対する規制が厳しいため、新しい品種でカドミウムがほぼゼロというお米を、土地の条件に関わりなく作ることができるのは、美味しいお米を海外にも販売するために有利であるからです。

ほぼすべて国内で自給されるお米を、なぜ海外向けに作り替えなければならないのか。それはお米を国内だけで消費される状況を改善して、どんどん海外へ輸出しなければ、生産量を増やすことができないからです。こうした所まで考慮してあきたこまちRを大規模に作付けするとしたら、これはよい取り組みではないかと思います。

注意点…

ただ、あきたこまちRがきぞんのあきたこまちと変わらないお米である、というのは、あくまでも検証で判明している事実にすぎません。実際に大量作付けがおこなわれてみなければ、そして実際に収穫して食べて見なければ、本当に従来通りに生産して同じ品質のお米が大量にできるかは分かりません。

そうした点においては農家の側、あるいは消費者の不安が生じるのも当然です。しかし、実際に品質が同等で、カドミウム含有量だけを抑えられるとしたら、これは本当に素晴らしいお米の誕生です。お米の増産を行うとしたら、大きく力になります。この点については期待をしつつ、まだ解決されていない問題については注意深い対応が必要になると思われます。

本日も、ご安全に!

ということで、本日は「放射線育種」でございました。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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