備える.jp
サイトメニュー仕事依頼・お問合せ

Voicyそなえるらじお #1087 大真面目に生じたハレー彗星パニックから115年…現代なら?

最終更新日:

執筆者:高荷智也

Voicyそなえるらじお #1087 大真面目に生じたハレー彗星パニックから115年…現代なら?

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、5月19日(月)、本日も備えて参りましょう!

時代が変わってもデマは続く

本日は「ハレー彗星」のお話をしたいと思います。

本日2025年5月19日からちょうど115年前の本日、1910年の5月19日に、ハレー彗星が地球と太陽の間を通過し、この時ハレー彗星の尾っぽの中を地球が通過しました。ハレー彗星の尾の中を地球が通過する、という状況に対して、地球上の全ての生命が絶滅するかもしれないという科学者の主張が報じられ、パニックに陥る人も生じたそうです。今回はこのお話です。

ハレー彗星とは

ハレー彗星とは、太陽の周りを約75年周期で回りながら、地球にも接近する短周期彗星です。地球上から肉眼で簡単に観測できることもあり、もっとも有名な彗星のひとつとして知られています。

ハレー彗星は過去数万年から数十万年にわたって、現在と同じ軌道を通っていると考えられており、実際紀元前の時代から定期的に人類の記録にも登場しています。最古の確実な記録は紀元前240年ということですが、例えば中国の前漢時代の記録にハレー彗星のことが記載されているということです。

日本における最古の観測記録は、奈良時代に作成された日本最古の歴史書のひとつ「日本書紀」に登場する記述で、飛鳥時代の末期684年にハレー彗星に関する記述があるそうです。その後も世界中の様々な記録に、ハレー彗星は登場し続けています。

ハレー彗星を科学的な研究対象とする行為は、16世紀以降に活発化していますが、アイザック・ニュートンの友人、エドモンド・ハレーが1705年に出版した書籍の中で、ニュートンが導いた法則を使い、彗星の周期を計算、次の登場時期を予測しました。

書籍が出版された1705年から53年後、1758年に再び彗星が現れると予言しましたが、残念ながらハレー自身は1742年に死亡、その16年後の1758年に実際にハレー彗星が地球に接近し、この功績により彗星の名前がハレー彗星と命名されましたそうです。

その後も約75年周期でハレー彗星の観測が行われました。1835年の接近時には、初めて近代的な観測が大々的に行われ、大型の望遠鏡を用いたスケッチがたくさん残されています。そしてその次の接近、1910年を迎えます。

1910年のデマ

1910年のハレー彗星は、4月上旬頃から肉眼で見えるほどになり、初めて写真撮影がされました。さらに、彗星から発せられる光を波長毎に分解して調べる、スペクトルの分析も初めて行われ、この結果ハレー彗星にはシアン化物が含まれていることが分かりました。

シアン化物は、一般的に人体に有毒で、少量でも命を落とす物質です。そのため、フランスの天文学者カミーユ・フラマリオンは、ハレー彗星の尾っぽに地球が接近した際、地球の大気にシアン化物が充満し、全ての生命が死に絶えるかもしれないと主張しました。

この結果、一部でパニック的な行動が取られ、ガスマスクを購入したり、ビンや自転車のゴムチューブに空気を貯めて彗星が通過するまで生き延びようとしたり、ガスから逃れられるウソの薬の販売などがなされたりしたそうです。

こうしたパニックの様子は、当時の報道記録や、その後の出版物などにも多く残されているそうですが、実際にはハレー彗星の尾っぽと地球が接触した際にも、ガスは宇宙空間で拡散したため、地球上に全く影響は生じなかったそうです。

ただ、この説を主張したカミーユ・フラマリオンはデマの先導者などではなく、当時から天文学の普及に尽力した著名な学者であったことから、あの専門家が言うなら本当かもしれない。という形で、当初は大真面目に、後世の歴史からみればデマとして、こうしたパニックが生じたということが分かります。

現代にも生じるデマ

現代の基準で考えて「非科学的」なデマは、現代でも度々生じます。特に大地震にまつわるデマなどがよく生じるのは、このそなえるらじおリスナ-の皆様にはおなじみの状況だと思います。先日の放送でも、黒潮大蛇行の終息で南海トラフ地震が誘発されるですとか、2025年7月5日に大災難が生じるですとか、そういうお話は嗜みとして個人が楽しむにとどめて、周囲を巻きこむのはやめましょうというお話をしました。

しかし、ハレー彗星による騒動は、まっとうな科学者が大真面目に主張したものですから、陰謀論というよりは大真面目なパニックが生じたという点で、昨今のデマ騒動とは少し違うモノだとは思います。2020年の新型コロナウイルス2019当時、イソジンでうがいをすればコロナ感染しないですとか、あるいは飲食店についたてがたくさん置かれたりしましたが、あれらは当時の段階で効果が疑わしい行為でした。

ただ、効果はゼロではないということから、誰も止めることができず様々なウソっぽいコロナ対策が横行していましたが、1910年のハレー彗星騒動はこうした状況に近かったのではないかなと思います。科学的にはありうる、対策の仕方もある、これを過剰に捉えればパニック状態になりますし、いやいや、そうはならないでしょうと捉えれば冷静に対処できる、という状況でしょうか。

あるいは、今私達は、100年から200年周期で生じると思われている南海トラフ地震や、その他の大地震に備えています。現在の科学的な知見において、この対応は間違ってはいません。しかし、今から数百年後に、「昔は南海トラフ地震が周期的に生じるとかいうデマがあったらしいけど、笑っちゃうよね」という事実が常識になったとしても、今を生きる私たちにはそれを知るすべはありません。

明らかなデマや陰謀論は個人で楽しむにとどめる、科学的な裏付けに基づく困り事については、粛々と対応する。ただいずれの場合も、パニックを起こしても誰もしあわせにはならないため、冷静に対処する、というお作法を身につけておくことが重要なのかなと、今回のお話から感じました。

ハレー彗星の次回の接近は、36年後の2061年7月29日頃と予想されています。36年後…そなえるらじおが放送1万回を迎えることですが、フガフガいいながら今回の話題を取り上げたいものです。

本日も、ご安全に!

本日も「ハレー彗星」のお話でした。

それでは皆さま、引き続き、ご安全に!

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

新着のブログ記事

ブログカテゴリ

備える.jp 新着記事