地震対策の基本
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執筆者:高荷智也
地震で亡くなった方に地震対策について聞くことができたとしたら、何を教えてくれるでしょうか。水?食べ物?地震対策の基本は「死なない環境」を作ることが入り口です。
地震対策の基本は、死なない環境作りから
地震対策の基本は「死なない環境」を用意することが始まりです。自宅の耐震補強、家具の固定、ガラスの飛散防止、緊急避難への対応、これらを最初に行う必要があります。避難生活に備えた防災・地震グッズの準備、水やカンパンの備蓄はこの次の行動です。
「地震対策」「地震への備え」といえば、水や食料を備蓄することをまず想像しますし、事実お店の防災コーナーへ行けば、これらが入った銀色の非常持ち出し袋が売られています。ところが、これらのグッズが役に立つのは、「地震で死ななかった」場合だけです。
地震の際に自宅が崩壊した場合、あらゆる備蓄用品は無意味になります。地震で倒れてきたタンスにつぶされた場合、必要なのは非常持ち出し袋ではなく、タンスをどかしてくれる誰かです。死なず、重傷を負わなかった場合に初めて、「防災グッズ」が役立ちます。
この項目の詳細は『地震対策の最重要事項「死なない環境作り」』をご覧ください。
地震の体験談は、その背景を考えて理解する
地震の体験談をまとめや書籍や、震災時に放映される避難所からのレポート番組、いずれも恐怖を乗り越えてきたリアルな声が中心で、大変参考になる話ばかりです。しかし、地震対策を行う際には、この貴重な体験談をそのまま参考にしてはいけません。
なぜなら、こうした体験談を語っているのは、地震で死ななかった方々であるからです。地震で死なず、ケガもしなかった場合、体験談の中心となるのは、復興までの不便な生活と、その際に役にたった道具や経験になるでしょう。
自宅が倒壊しながらも命が助かった方は、「地震保険」の大切さを語るでしょう。自宅が無事だった方は、電気や水が復旧するまでの生活で役立ったものを教えてくれるでしょう。もちろんこれらは大切な情報で、参考にする価値があるものです。
しかし、自宅が倒壊して圧死した方に話を聞くことができれば、「水もカンパンもいらないから耐震補強をしておけばよかった」と語り、津波に巻き込まれて亡くなった子供を持つ親であれば、「貴重品を持ち出す必要はないから、一刻も早く走って逃げるべきだった」と教えてくれるはずです。
地震被害で最悪なのは「死ぬ」ことです。自宅の倒壊による「圧死・窒息死」を免れて、初めて「非常持ち出し袋」が役立ちます。津波や火災による生命の危機を乗り越えて、初めて水やカンパンが役立ちます。地震対策の基本は「死なない環境」を作ることから始めるのです。
最悪を想定して、今日から準備を始める。
地球上で発生する地震の2割が集中するという日本列島で、「巨大地震が発生するか?」を論じる人はいません。この国において地震という災害は発生して当たり前の災害だからです。
また、「地震がいつ来るか」を論じることも、個人の地震対策においては無意味です。兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や東北太平洋沖地震(東日本大震災)の前日に、「明日大地震が来て多くの人が死ぬよ」と、100%の確率で予測し、それを多くの人に伝える手段を持っている人が1人でもいたでしょうか。
関東大震災の被害はもう歴史の中です。1996年以前に、神戸という美しい町が数分で灰燼に帰すと誰が想像したでしょうか。三陸海岸は津波の「メッカ」でしたが2011年以前に、沿岸部が数時間で消滅し、おまけに原発まで爆発させる規模の津波がやってくると、だれが想像していたでしょうか。
政府や行政機関は、防災対策の予算を組む必要がありますので、その規模を予測する必要があります。しかし私たち一般市民は、自身が居住する地域における最悪を想定し、「大地の揺れ」「津波」「がけ崩れ」「火災」「原発事故」など、考えられる最悪に備えた準備を行っておくことが大切です。