住宅用消火器の種類・選び方・使い方
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執筆者:高荷智也
消火器の種類と選び方1・住宅用と業務用
消火器は「住宅用消火器」と「業務用消火器」に分けられます。住宅用は「安い・軽い・かわいい」という特徴が、業務用は「高い・でかい・すごい」という特徴がありますが、私たちが自宅用に買うべきは迷わず「住宅用消火器」です。
住宅用消火器について
住宅用消火器は、住宅火災の初期消火に最適化された消火器で、自宅用に買うならばこの中から商品を選ぶべきものになります。業務用に比べると安価なものが多く、小型軽量で女性や高齢者にも使いやすいのが特徴です。また消火器のデザインについても規制がないため、例えばこの「ハローキティ消火器」のようなかわいいデザインのものも多くあります(業務用消火器は「赤色」が全体の「25%」以上などの規制がある)。
住宅用消火器が対応する火災は次の4種類です。その消火器が対応している火災に対して、以下のマークが消火器本体に付けられています。台所専用に買うのであれば「普通火災」と「天ぷら油火災」に対応した消火器を。自宅用に1本だけ買うのであれば4種類全てに対応した消火器を購入するようにしましょう。
業務用消火器について
業務用消火器は、法律で消火器の設置が義務づけられている場所に設置することができる消火器です。消火器の設置義務がある場所に住宅用消火器を設置しても、それは消火器と見なされませんので、業務用消火器を設置しなければなりません。屋外で利用することもあるため、家庭用消火器と比べて大型で重く頑丈に作られています。
業務用消火器が対応する火災は、「普通火災(A火災)」「油火災(B火災)」「電気火災(C火災)」の3種類で、その消火器が対応する火災のマークが大きく記されています。従来はABCが文字で記載されていましたが、2011年(平成23年)1月1日の法改正により対応する火災の表示は全てイラストに改められました。
消火器の種類と選び方2・薬剤の種類について
住宅用消火器の種類としては、中に入っている消火薬剤の種類によって、大きく「粉末タイプ」「液体(強化液)タイプ」「エアゾールタイプ」に分けられます。エアゾールタイプのものは「消火スプレー」などと呼ばれ、厳密に言うと消火器ではありませんが、用途や使い方は消火器に準じますので、ここでは消火器の一種として紹介しています。
粉末タイプの住宅用消火器について
粉末消火器は、広範囲の消火に威力を発揮するタイプです。もっとも普及しているABC粉末タイプはあらゆる種類の火災に対応しており、迷わず使用できます。石油ストーブから出火し床にこぼれた灯油に引火して広範囲が燃えているような場合や、初期消火の後半で炎が大きくなっているような状況に対して有効です。また強化液タイプの消火器と比較して重量が軽く、取り回しがしやすいというメリットもあります。
半面、粉末が広範囲に「ブシューッ!!」と広がるため、特に室内で使用すると視界を遮り、消火活動が困難になったり、避難に影響をもたらす場合があります。また初期消火に成功した場合、室内が文字通り真っ白になるため、ある意味二次災害を生じさせる原因にもなり得ます(むろん火災を消し止めるためにはやむを得ない犠牲ですが)。
粉末消火器は、漫画やテレビで目隠し代わりにぶちまけるタイプの消火器…と言えばイメージできるでしょうか。写真で見るとこんな感じです。これは業務用の粉末消火器ですが、ストーブが丸々燃えている「程度」の火災であれば数秒で消火可能です。が、周囲は粉でお祭り騒ぎになりますので後片付けが必須です。
液体(強化液)タイプの住宅用消火器について
冷却効果と浸透効果に優れた液体消火器は、天ぷら油火災の初期消火や、布団やカーテンなど布類の初期消火に効果を発揮します。粉末タイプの消火器と異なり室内で使用しても視界を遮ることがなく、また液体消火器は粉末タイプにはない「冷却」による鎮火効果があり再出火の恐れも小さいと言えます。後片付けが比較的楽であることもメリットです。
「液体」であるため同体積の「粉」と比較すると重量があるのが欠点ですが、それでも重量が2倍になるような増え方はしませんし、家庭用であれば数キロ程度ですので、どうしても持ち上げることが難しい場合を除き、自宅用に1本購入するのであれば、この強化液タイプの消火器がベストです。
エアゾール式簡易消火器具について
「消火スプレー」などと呼ばれるエアゾール式の消火器は、厳密に言うと法律で定められた「消火器」ではなく、「エアゾール式簡易消火具」と定められています。殺虫スプレーやヘアスプレーなどと同じような大きさ・使い方で、火災のごく初期消火に対して手軽に使えるという利点があります。また一般的に安価で、amazonや楽天などでは千円前後で販売されており、手軽に準備できることもメリットです。
多くの商品は電気火災に対応していないため、電気ストーブや配線から火を噴いた場合は、まず電源プラグをコンセントから抜き、感電しないようにしてから使用する必要があります。また「粉末」「液体」タイプの住宅用消火器の使用期限は一般的に5年ですが、エアゾール式の消火器具の使用期限は3年程度のものが多いです。
豆知識:「エアゾール」とは
「エアゾール」というのはなにかスゴイ物質などではなく、「容器の中に「噴射したい物(消火液とか)」と「噴射するためのガス(LPGや窒素が多い)」を詰め込み、ボタンを押すことで中身が「プシューッ!」っと出てくる製品」のことです。スプレー缶とも呼ばれますね。消火器具以外にも、制汗剤とか、ヘアスプレーとか、殺虫剤とかでおなじみのアレのことを「エアゾール」と呼ぶのです。
住宅用消火器の選び方と購入方法
では自宅に設置する消火器としては、どのようなものを選ぶのが良いでしょうか。私見ですが、「外見」と「価格」だけで決めてしまって差し支えありません。
住宅用消火器の外見・デザインについて
消火器が必要になる状況は火災の初期消火のときですが、そもそも自宅の火災で消火器を使う経験というものは、生涯にいちどあるかどうかです。またどのような状況で出火し、どんな火災に対応しなければならないのかを事前に予測することは困難です。そのため消火器は、自宅の中でも使い勝手がよく目立つ一等地に常設することが重要なのです。
このとき、真っ赤で巨大な、いかにも「オッス、オラ消火器!いっちょ消してみっか!」的なものを目立つ場所に置きたいでしょうか。これは防災用の非常持出袋にも同じことが言えますが、日頃からすぐ取り出せる場所に設置しなければならないからこそ、見た目やデザインにこだわらなくてはならないのです。せっかく消火器を購入しても、物入れの奥にしまわれてしまえば意味がありません、だからこそ「外見」が第一要素になるわけです。
認定マーク
とはいえ、見たことのない国の言葉で書かれた怪しげな消火器を、激安だからといって路地裏で買ってくるのはやめましょう。消火器・消火スプレーの性能については、日本消防検定協会が検査と認証を行っています。消火器の場合は左側にある「検定」マークが、エアゾール式の消火スプレーについては右側にある「NSマーク(合格表示)」が付けられていますので、このマークがついている器材を購入すれば安心です。
住宅用消火器の購入と価格について
住宅用消火器は、amazonや楽天などのECサイトや、全国のホームセンターで購入することができます。粉末タイプ・液体タイプのものは数千円から高くても1万円未満程度で。エアゾール式の消火スプレーは千円前後で購入することが可能です。気に入ったデザインのもので、予算に収まる物を選べばよいでしょう。なお、消火器にカバーを掛けておいておくとか、すぐに開ける戸棚の手前において置くなど、デザインを気にせずすむ環境であるなら、もう「値段」のみで決めてしまって構いません。
住宅用消火器を何本買ってどこに置くか
消火器はできれば2本買うべきです。例えば台所火災用に消火スプレーを購入し、それをコンロの脇に置いておいたが、そこから出火してしまって取り出すことができない、という状況が発生する可能性があります。メインとなる粉末タイプか液体タイプの消火器を1本、これは廊下や玄関など、どの部屋にも駆けつけやすい場所に設置します。
そしてキッチンが古いガスコンロである場合は台所に、リビングでストーブをつかっている場合はリビングに、という具合に、エアゾール式の安価な消火スプレーを、出火元になり得る設備がある部屋の、出火元と反対側の辺りに設置します。という具合にメインとサブの2本を備えておけば、大抵の初期消火には対応できますし、ご近所で火災が生じた場合の初期消火の応援に持ち出すこともできるでしょう。
住宅用消火器の使い方
消火器の使用方法は簡単ですが、とはいえ一度もつかったことがない道具をぶっつけ本番、ましてや「自宅が燃えている」状況で正しく使えるかどうかは「微妙」です。市町村や自治会が防災訓練で消火器体験を実施していますので、こうした機会があれば積極的に消火器に触れてみましょう。
粉末式・液体式の住宅用消火器の使い方
- まずは、家族や周囲に大声で火災の発生を知らせ、119番通報を依頼する。同時に消火器を火元に持ってきて、初期消火をはじめる。
※初期消火に失敗することもあり得るので、必ず出口(避難経路)を背中にして火元に対峙してください。これが逆になると煙と炎にまかれて死ぬ可能性があります。 - 消火器の安全ピンを強く引き抜きいます。するとレバーが握れるようになります。
※ピンを抜くだけで消火剤が「ブシュー!」となることはありません。 - ホースが付いている場合は先端をしっかり握って、火元に向けます。ホースがないタイプであれば、消火器を構えて噴射口を火元に向けます。
- レバーを強く握ると、消火剤の噴射がはじまります。消火器が重たい場合は、消火器を床に置いて、ホースだけを火元に向けて、体重をかけてレバーを押せばOKです。
- 消火剤は、炎の先端や煙ではなく、燃えている火元そのものに向けて噴射します。そうしなければいつまでも火が消えません。また「手前からほうきで掃くように」というアドバイスも多いですが、粉末タイプの消火器は15秒程度で噴出が止まりますので、悠長にやり過ぎると消火剤が足りなくなります。あまり遠くから近づけるのではなく、確実に火元を狙う用にしてください。またコンロ火災など、火元がそもそも床ではない場合は最初から火元を狙っていくことになります。
- 火が弱まってきたら、少しずつ近づきながら火元に消火剤を集中させます。火が見えなくなってもそこで噴射をやめず、確実に消火を確認するまでは噴射を続けてください。消火器は使い方が分かっていれば小学1年生にも使えます(写真)、ぜひ訓練などで体験をしてみましょう。
エアゾール式簡易消火具の使い方
- 消火スプレーには消火栓で言うところの安全ピンはありませんので、キャップを開けてボタンを押せば消火剤の噴出がはじまります。
- あとは消火器と同じく、火元に向けて消火剤をスプレーしてください。天ぷら火災のときなど、鍋に近づき過ぎてスプレーをすると、燃えている物(油など)が噴射の勢いで飛び散りますので、1.5~3メートルほど離れて(人の身長1~2名分の距離)噴射しましょう。