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新型コロナウイルス3つの流行シナリオと注意すべき情報

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最終更新日:

執筆者:高荷智也

新感染症や新型インフルエンザが流行した際に、考えられる流行シナリオのパターン、注意すべき情報や取るべき対策を整理します。

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

当サイトの「新型肺炎・COVID-19」特集ページはこちらです。

新しい感染症が登場した際、どのような流行パターンがあるのか

 2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめ、新しい感染症による流行が突発的に始まった場合、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。

 新型肺炎・COVID-19に限らず、家庭や企業で流行の推移を見守る際には、「感染力(感染者数)」と「致死率(死亡者数)」を掛け合わせて確認することが重要です。

感染症の流行パターン4分類(感染力×致死率)

感染症によるパンデミックシナリオの分類表

 この図は、横軸に「世界レベルでの流行度合い」の高低を、縦軸に「致死率・影響度」の高低を表して、新感染症や新型インフルエンザの流行パターンを分類したものです。厳密な数値を表したグラフではないので、イメージをするための図としてご覧ください。

 新しい感染症による流行が始まった当初は、その性質がよく分かりません。新たな感染者が報告された、重傷者が出た、はじめて死者が出た、日本国内でも感染者が出た、二次感染、三次感染が止まらない…もうだめだ…と、「なんとなく不安」になりがちです

 新型肺炎・COVID-19が、「もうだめだ」に該当するパンデミックに発展する可能性は、あるかもしれませんし、ないかもしれません。しかし、発表されている致死率(死亡者数)と感染力(感染者数)を落ち着いて確認すれば、現在どのような状況にあって、今後どうなったら慌てるべきなのかが分かります。以下、詳細を説明します。

「Aゾーン」…人類の危機!

感染症によるパンデミックシナリオの分類表

致死率の高い感染症が世界的な流行(パンデミック)となる場合

 最悪な流行シナリオは、右上の「A」ゾーンに当てはまる場合です。例えば中世ヨーロッパを壊滅の危機に陥れたとするペスト・黒死病や、世界で2~5千万人の死亡者を出したとされる1918年の新型インフルエンザ(通称スペインかぜ)などの流行がここに該当します。

 ペストに関しては治療法があるため、過去と同じようなパンデミックが生じることは考えづらいですが、“毒性”の強い未知のウイルスや細菌が登場した場合、あるいは“毒性”の強い、高病原性鳥インフルエンザによる新型インフルエンザが「人・人」感染をするような場合は、同じような状況にならないとは言い切れません。

 ちなみに、ペストの原因となるペスト菌や、インフルエンザウイルス、コロナウイルスはいずれも「微生物」ですが、ペスト菌は「細菌」、インフルエンザやコロナは「ウイルス」であり、種類としては全く異なりますのでご注意ください。この辺りを詳しく学びたい場合は、もやしもんの石川先生の挿絵が素敵すぎる「絵でわかる感染症」がおすすめです。

徹底した感染防止対策、外出の自粛、防災備蓄品の準備が必要

 さて、新しく登場した感染症の「致死率」が高く、かつ世界的な流行に発展してパンデミック状態となる場合、これは紛れもなく人類の危機です。中世ペストのように致死率が数十%になるという場合は、地球文明を維持できるのかが怪しくなるレベルですし、1918年の新型インフルエンザのように、致死率が数%のレベルであっても、何しろ感染者が膨大な数になるため、死亡者は数千万~数億人となります。

 登場したばかりの感染症は、有効な抗体を作り出すワクチン、いわゆる特効薬・治療薬の類いがありません。また開発をするのにも、数ヶ月~数年の期間がかかることが一般的です。そのため、この感染症による直接被害を避けるためには、そもそも「感染しない」ことが唯一の対策となるのです。

 このような感染症が国内でも大流行をする場合、国民の多くが感染して免疫を身につけるか、有効なワクチン・治療薬が開発されるまで流行は終息しません。この状況で行える治療は対症療法のみですので、医療機関をマヒさせないために、感染者の増加ペースをできるだけ低くする必要があり、そのために「手洗い」「咳エチケット」「外出自粛」などの対応が重要となります。

 もし、目下流行中の感染症が、この「A」ゾーンに該当する場合は、感染者の増加ペースをノロノロ状態にし、医療機関がパンクして重傷者すら入院できなくなるような事態を回避しなければなりません。企業においては事業所の閉鎖や非対面営業などによる社内感染防止、家庭においては外出をできるだけ控えるなどの対応が必要です。

 なお、この状況に対して準備を行いたいという場合は、こちらの記事をご覧ください→「新型コロナウイルス、最悪に備えたい方向けの対応内容」

「Bゾーン」…大騒ぎになるが影響は小さい

感染症によるパンデミックシナリオの分類表

致死率の低い感染症が世界的な流行(パンデミック)となる場合

 致死率と感染力の掛け合わせが、右下の「B」ゾーンに当てはまる場合は、大きな心配をする必要はありません。パンデミック状態となった場合、全世界で数千万~数億人以上の感染者が発生するため、一時的にはパニック状態になる可能性があります。しかし、「致死率が低く、感染しても命を落とす可能性は低い」ことが分かるとすぐに沈静化します。

 2009年に発生した新型インフルエンザパンデミックがこのパターンで、当初は2020年と同じく店頭からマスクがなくなるなどの影響もありましたが、季節性のインフルエンザと同じかそれ以下の致死率であることが知れ渡るにつれて、状況は落ち着きました。

 2020の新型コロナウイルス感染症による新型肺炎、または今後発生する新たなる感染症が、「感染者は多いが致死率は低い」パターンになる場合は、大騒ぎをする必要はなく、毎年のインフルエンザ対策と同じような対応をすれば十分であると言えます。

 「Cゾーン」…国内発生時は厳重に、海外発生時は冷静に準備

感染症によるパンデミックシナリオの分類表

致死率の高い感染症が、局地的な流行(エピデミック)となる場合

 致死率と感染力の掛け合わせが、左上の「C」ゾーンに当てはまる場合は、流行している地域が自国なのか海外なのかで対応が大きく変わります。流行箇所が日本国内である場合は、「A」ゾーンに準ずる対応が必要です。ちょうど、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における、中国国内の都市封鎖を含む対応のようなイメージとなります。

 一方、流行箇所が海外であり、国内流行が生じづらいことが明らかである場合、特別な対応は不要となります。例えばアフリカ諸国で流行をしているエボラ出血熱に対する対応のようなイメージです。しかし、2020の新型コロナウイルス感染症のように、「まだ日本で大流行していないが、そうならない保障はない」感染症の場合は、万が一国内流行をしたらどうするか、の準備が必要です。

 企業においては、社内の感染防止対策の準備、会議や出張抑制などのルール作り、在宅勤務を行うためのリモート環境の構築などを、少しずつでも進めることになります。家庭の場合は、他の防災対策をかねて、食料品や日用品などの補充をしつつ、次のシーズンで使う分のマスクなどを先に購入しておくなどの対策が考えられます。

2020の新型コロナウイルス感染症は現在「C」ゾーン

今後どのようなシナリオを辿るかは、まだ分からない

 目下流行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在(記事修正時・2/19)この「C」ゾーンに当てはまります。中国国内で流行が収まればこのまま終息し、2002年のSARSや2012年のMERSのような扱いとして、今後記録されることになるでしょう。

 一方、現在の致死率「数%」を維持したまま、中国以外の国々でも流行が広がる場合は、最悪の「A」ゾーンへ推移する可能性もあります。致死率数%という数字は、SARSの9.6%、MERSの35%という数字と比較すれば低い値ですが、1918年の新型インフルエンザパンデミックの2~3%と同じ値ですので、これは十分人類の危機と言える脅威になります。

 今後ニュース報道をチェックする際には、国内で重傷者が!死者が!という言葉でいちいち不安になるのではなく、日本国内における「致死率」と国内でパンデミックになるのか・なりそうなのかを確認し、「A」ゾーンへ推移するのかどうかをチェックするとよいでしょう。

感染者の情報が適切に発表されている間は、まだ大丈夫

 感染者数が正しく発表されている間は、まだ感染ルートの特定などが行われている、コントロールされた状態にあるため大きな心配はいりません。しかし二次感染、三次感染と続き、感染ルートが終えなくなると、国内流行をとどめる手段が無くなりますので、この状況では感染防止対策の徹底が必要になります。

 この「感染ルートを追う」という疫学的な行為については、川端裕人先生の「エピデミック」という小説を読むと分かりやすく理解できます。パンデミックを引き起こさないために、感染者を封じ込めてウイルスの原因を特定し流行を潰す、という流れを楽しく学びたい場合におすすめです。

 また致死率は当初高い数字となりますが、検査キットなどが出回り、母数となる「感染者数」が増加すれば一般的に低下します。情報に一喜一憂せず、冷静な判断をしましょう。

今後はどうなる?東京オリンピックはできるのか?

SARSは終息までに8ヶ月、2009の新型インフルは10ヶ月要した

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、今後どのシナリオを辿るかは分かりません。2002年11月に中国広東省で流行が始まったSARSは、翌年7月にWHOから終息宣言が出るまで8ヶ月かかりました。

 2009年4月にメキシコで流行が始まった新型インフルエンザは、5月に国内で人人感染をはじめ、最終的には1千万人以上が感染しました。幸い致死率が低かったため大きな問題にはなりませんでしたが、厚生労働省が第一波の終息宣言を出したのは翌年3月末、終息まで10ヶ月かかっています。

 では新型肺炎・COVID-19はどうなるでしょうか。2019年12月にはじまった流行がいつまで続くのか、過去2例を見る限り、楽観的に見ても夏頃までは影響が生じそうですし、さらに流行が拡大してもおかしくはありません。この予測は、現在の所だれにも行えないのが問題なのです。

「安全宣言」をするためには「致死率」を下げることが重要

 感染者数の増加は、「実際の増加」状況とあわせて、「何人検査したか」に影響を受けます。いわゆる「隠れ感染者」は、なにも好き好んで隠れているのではなく、「検査をしてもらえなかった」ために、統計から漏れているためです。

 感染症対策の「踏み込み具合」を定めるのは、致死率・重症化率、「感染するとヤバイのか、問題ないのか」の状況です。世界的大流行(パンデミック)となっても、致死率が低いのであれば、一般個人や企業は特別な対応が不要となります。

 致死率を下げるためには、「感染者数」を増やすことが重要です。とにかく大量の検索を行い、隠れ感染者を全て「感染者」としてカウントすることができれば、「致死率=死亡者÷感染者」の、母数を増やすことができ、致死率は下がります。

 感染の流行を止めることはできませんが、統計上の致死率を下げることはできます。国は、ひたすら検査能力を強化し、感染者をあぶり出し、「流行はしていますが、感染しても、基礎疾患がなければ死ぬ確率は低いので、そこまで怖がらなくても大丈夫!」という宣言を、数字で出さなければなりません。

「感染者」の増加に伴い「死亡者」も増加する場合は…厳戒態勢

 大量の検査で感染者が増加し、一方死亡者の増加数がそれほど増えなければ、季節性のインフルエンザと同じような状況となります。直近の混乱も終息しますし、東京オリンピックも無事開催…できると…思います。

 ところが問題なのは、感染者の増加グラフと同じ角度で、死亡者が増加する場合です。新型肺炎・COVID-19の致死率は現在2%、この状況のまま大流行を引き起こす場合は教科書に載るレベルの危機、あらゆる手段を投じて感染増加のペースを抑える必要があります。

 致死率の高い感染症のパンデミックで問題となるのは、医療機関がマヒして、重症化しても入院できなくなり、結果死亡者が増えることです。そのため、有効なワクチンなり治療法が確立されるまで、なんとか感染ペースをコントロールして抑え、国内医療が破綻することを回避しなければなりません。

 ただこの状況になる場合でも、個人ができる対策は相変わらず「手洗い・咳エチケット・人混みを避ける」しかありません。政府がどうこうではなく、現実としてこのくらいしか出来ることがないのです。

 あとはこの基本を個人がどこまで丁寧に行えるか。また「人混み」を回避するため、多くの企業が時差出勤や在宅勤務、あるいは営業停止状態となり、社会サービスが低下した状況を容認できるか。最後は個々人の意識次第で流行ペースが定まります。

 ※この辺りの詳しい状況は「新型コロナウイルス、最悪に備えたい方向けの対応内容」をご覧ください。

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

当サイトの「新型肺炎・COVID-19」特集ページはこちらです。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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