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新型コロナウイルス感染症、企業を取り巻く今後の状況

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最終更新日:

執筆者:高荷智也

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

当サイトの「新型肺炎・COVID-19」特集ページはこちらです。

今後どのような対応を迫られるのか

 新型コロナウイルスの感染者増加ペースが、世界・日本国内共に収まりません。2020年1月31日にはWHO(世界保健機関)から「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言が発表。2月1日には日本政府も今回の新型コロナウイルスによる新型肺炎を「指定感染症」「検疫感染症」にする政令が施行されました。

またこれらに先立つ1月26日には、GMOインターネットグループが在宅勤務態勢へ移行する旨のプレスリリースを(※1)出すなど、今回の事態を「BCPが必要な非常時」と捉え始める企業も出はじめています。(※26日(月)に発表したということは、直前の週末に意思決定者が判断を下したということでしょうが、この時点(1/25)では中国の感染者が2千人を超えたところで、国内での発生はまだ3件目、人人感染はなしという状況。よくぞ休日に関係者が連絡・共有を行い経営判断が下せたなと、率直に感嘆の極みですね…)

さて、GMOがすごいと話はともかく、今後企業を取り巻く新型コロナウイルス感染症の状況、事前に行うべき準備、下さなければならない判断などについて考えてみましょう。

今後想定される感染シナリオ

 詳細は「」の記事をご覧ください。この新型コロナウイルス感染症が今後どのように推移するのか、考えられるパターンは3つあります。

  • 楽観的シナリオ1SARSやMERSの様に、局所的なアウトブレイク(集団感染)を生じさせるものの、その後終息する。
  • 楽観的シナリオ22009年の新型インフルエンザのように、感染がさらに続き全世界に広がり、WHOからパンデミック宣言が発表されるが、致死率が低くなり死者はそれほど増加せず、沈静化する。
  • 悲観的シナリオ:1918~1919年の新型インフルエンザ(スペイン風邪)のようにパンデミック状態となり、かつ致死率「数%」と極めて高い状態が維持され、全世界で数千万人が死亡する。

楽観的シナリオ1:今後終息する

まず最も楽観的なシナリオとしては、2003年のSARSや2012年のMERSの時と同じく、一部地域(今回でいうと中国の武漢ですね)でアウトブレイクには到るが、その後は封じ込めに成功して終息するパターンです。この場合は中国事業が主力である企業以外は、BCPを発動して非常時体制に移行することなく、平時体制のまま状況を終えることができるでしょう。

楽観的シナリオ2:パンデミックに到るが死者は頭打ちになる

 しかし、現状すでにSARSやMERS以上の感染者が発生しており、中国以外での感染者増加も頭打ちとなる気配がありません。記事執筆時点(2/1)では国内の感染者も20名を超えました。このまま状況が推移した場合、2009年の新型インフルエンザパンデミック同様、全世界的な大流行に到る可能性もあります。この場合はWHOからパンデミック宣言が出され、企業に対しては社内での感染防止策の徹底、時差出勤や在宅ワークの推奨といった対応が取られることになります。

 しかし、ウイルスの毒性が低く変異し「致死率」が低い状態でのパンデミックとなれば、いわゆる季節性のインフルエンザの大流行と同じような状況となります。一時的に事業への制約、欠勤者が増える・会議や出張が行いづらくなる、などの影響は生じますが、BCPを発動して非常時体制に移行することはなく、事態を終えることになるでしょう。2009年同様、よい予行演習・問題点の洗い出しが出来た、という状況です。

悲観的シナリオ:致死率の高いウイルスがパンデミックを引き起こす

問題となるのは、「致死率の高い新型コロナウイルス」が「パンデミック」を引き起こした場合です。現在伝えられている「致死率」は「3%程度」で、SARSの9.6%、MERSの35%、エボラ出血熱の80~90%に比べれば「低い」値ですが、毎年1千万人程度が感染し、うち1万人が死亡していると推計されている「普通のインフルエンザ」の致死率0.1%に比べると、極めて高い値です。(※なお「致死率」は感染者を母数にした値で、「死亡率」は人口を母数にした値です。)

 悲観シナリオに近い状況、過去の事例としては1918~19年の新型インフルエンザパンデミック、通称スペイン風邪(※2)が当てはまり、今後の想定としてはいつ発生してもおかしくない「強毒性の新型インフルエンザパンデミック」(※3)が該当します。いずれも国内の感染者が数千万人、死亡者が数十万人という大規模災害で、死者数だけでいえば首都直下地震や南海トラフ巨大地震の想定を遙かに上回る被害想定となります。

 この場合、従業員やその家族に感染者および死者が発生する他、感染防止対策として従業員の出勤が著しく制限されたり、事業所の閉鎖が必要となったり、また社会機能の停滞により必要な経営資源が入手出来なくなるという問題に発展します。こうなると「平時の延長」で事業を継続することが困難となりますので、BCP(事業継続計画)に基づく「非常時体制で最低限の業務を維持する」体制へ移行しなくてはなりません。

 ちなみに、「うちの会社にはまだBCPがないよ」「あるけどパンデミックには対応できないよ」という企業も多くあるでしょう。しかしBCPというのはあくまでも計画書、「あればよいが、ないからといって行動ができなくなる訳ではない」ものです。次の項目をご覧いただき、いまできる準備をご検討ください。

悲観的シナリオに推移した場合、想定される状況

 では前述の悲観シナリオ、「致死率の高い新型コロナウイルス」による「パンデミック」が生じた場合、事業活動に対してどのような影響が生じるのでしょうか。BCP(事業継続計画)は「事業」を守る計画です。事業を守るためには、非常時に維持しなければならない「業務」に必要な、社内外の「経営資源」を守るための計画を立てて実施します。この「経営資源」という視点でコロナウイルスの影響を考えると次のようになります。

「人」という経営資源に対する影響…出勤できなくなる

 感染症によるパンデミックの影響を最も受けるのが「人」です。最悪なのは従業員自身が感染して死亡するケースです。新型コロナウイルスに有効なワクチンや、抗ウイルス薬がまだ存在しない現状においては、とにかく感染をさせないための対策が必要になります。

あるいは従業員が出勤できなくなるケースです。本人が重症化して入院した場合、従業員の家族が感染して看護が必要になった場合、学校や保育所が閉鎖されて子どもの世話が必要になった場合など、新型肺炎そのものの影響で出勤できなくなる状況が考えられます。また流行のピーク期間(新型インフルエンザの場合は2ヶ月程度と想定)については、公共交通機関なども間引き運転などが行われるため、健康な従業員の出勤も難しくなっていく可能性があります。

「拠点・建物」という経営資源に対する影響…利用できなくなる(特措法)

 ウイルスは「モノ」に対して作用しませんので、大地震や風水害とことなり、モノに対する影響は最小限になります。しかし現状、ウイルス感染を防止するには「他者との接触を最小限にする」ことしか手段がありませんので、感染防止対策の一環として「事業所を閉鎖」しなければならない状況に発展する可能性があります。物理的な被害が生じる訳ではないが、従業員の生命を守るために「拠点・建物」が利用できなくなるのです。

 また、新型インフルエンザパンデミックの行動計画では、致死率の高いウイルスによるパンデミックにいたった場合は、政府対策本部から「緊急事態宣言」が出されます。そして「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」(※6)に基づき、学校・保育所・福祉施設の閉鎖要請や、興行施設(劇場・ホール・映画館・運動施設などの集客施設)、大規模商業施設、宿泊施設、そのた規模の大きな集客施設に対して、営業停止や催事の中止要請が出されます。

 今回の新型コロナウイルスは「指定感染症」になりましたが、この「特措法」が発動される感染症ではありませんので、「現時点」でこうした要請は「まだ」出ません。しかしウイルスの致死率が高い状況でパンデミックになった場合は、「特措法」の対象となる可能性がありますので、上記の様な要請が出される状況もあり得ます。「2ヶ月間程度事業所が使えなくなったらどうするか」という想定、また学校や集客施設の運営が主力事業である場合は、事業停止に備えた資金繰り計画などを見直す必要があります。

「設備・機材」という経営資源に対する影響…出勤できないので使えなくなる

 建物同様、設備や機材についても新型コロナウイルスの影響は受けません。しかし事業所への出勤が出来なくなると、据え置き型の設備は利用が出来なくなりますので、建物とあわせて「出勤出来ない状況で、どう業務を維持するか」を検討しなければなりません。

 なお、自動車に必要な「ガソリン」、設備のメンテナンスを依頼している外部業者など、「社内」に存在する「設備・機材」を利用するために、「外部から調達」しているものについては、後述の通り入手が難しくなる恐れがあるため、必要な在庫を積みましておいたり、一時的に社内で対応するための準備をしておいたり、といった対応が必要になります。

「情報」という経営資源に対する影響…出勤できないので社内アクセス不能に

 「情報」という経営資源に対する影響は、情報を「社内」「社外」どちらに置いているか、で変わってきます。業務に必要な情報やシステムが、外部アクセス可能なクラウドサーバーやクラウドサービスに集約されている場合は、事業所を閉鎖することになっても大きな影響は出ません。ただしIPアドレスによるアクセス制限などを設けている場合は、外部利用可能なVPN環境などの構築が必要です。

 一方、ファイルサーバーやアプリケーションサーバーが社内のサーバールームなどに設置されている場合は、出勤できない状況になった場合のメンテナンス、または社外からのアクセス手段をどうするかを検討・準備しておく必要があります。

「仕入・外注」という経営資源に対する影響…全国同時に利用できなくなる

 事業継続は「社内」のリソースだけでは成立しません。各種の仕入や、外注・パートナーへのアウトソーシングが必要な業務が様々にあります。しかし新型コロナウイルス感染症は、局地的な災害となる大地震や風水害とことなり、「全国同時(あるいは全世界同時)」に影響が生じるため、自社が苦境のタイミングは他社も同様の事態に陥っています。

 そのため、大地震や風水害をリスクケースにしたBCPでは、一時的に外部へ業務を出すことで業務維持を図る場合がありますが、パンデミックBCPではこの方法が使えません。自社内のリソースのみでどのように業務を維持するかを検討しなければならないのです。

「ライフライン」という経営資源に対する影響…電力や水道はOK・流通がNGに

仕入・外注と同じく重要な外部経営資源であるライフライン。感染症によるパンデミックの場合、大地震や風水害とことなり、電気・ガス・上下水道・通信といったインフラの寸断は考慮しません。ウイルスはモノを物理破壊しませんし、これらのライフラインが停止した場合、重要な感染防止対策である「自宅への引きこもり」が不可能となるため、新型インフルエンザの行動計画においても、ライフラインの維持が最重要事項のひとつとして計画されているためです。

 また、道路・鉄道・空港・港湾といった交通機関も、大地震などとことなり被害を受けることはありませんが、「人が集まる場所に行かないようにするという感染対策」と、「物流事業者も人員が確保できなくなり、運行を維持できなくなる」という2つの理由により、交通・流通は大きな影響を受けます。これが間接的に、従業員の出勤影響、仕入影響などにつながってくることになるのです。

「顧客・取引先」という経営資源に対する影響…お客さんが来られなくなる

最後に「顧客・取引先」ですが、自社の従業員が出勤できなくなるのと同じ理由で、顧客も来られなくなってしまいます。サービス業であればそもそも営業が成立しなくなりますので、休業するための資金確認、あるいは「対面」以外で提供できるサービスの検討などが必要です。

 同様に取引先と対面で接することも難しくなるため、対面営業や打合せなどは、電話・メール・オンラインで行えるような環境が必要になります。社内・社外問わず、「人」と対面で接することなく、どうすれば業務を維持することができるか、の検討が必要です。

続きは後編で↓

ではこれらの影響に対してどのような対策を講じるべきでしょうか、長くなりましたので後編に分割します。

「新型コロナウイルス感染症、企業が今行うべき準備と対策」

出典・参考資料

※1)GMOインターネット株式会社・ニュース
https://www.gmo.jp/news/article/6641/

※2)インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A(国立感染症情報センター)
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/pandemic/QA02.html

※3)新型インフルエンザ等対策政府行動計画(内閣府)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/keikaku.html

※4)新型インフルエンザにおける被害想定(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000136961.pdf

※5)新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定(一つの例)(新型インフルエンザ専門家会議資料)
https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/pressrelease/m49508011002.pdf

※6)新型インフルエンザ等対策特別措置法
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

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サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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