新型コロナウイルス感染症、企業が今行うべき準備と対策
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執筆者:高荷智也
新型コロナウイルス感染症に対して、いま企業が行っておくべきこと。「致死率の高いウイルスによるパンデミック発生」という最悪の状況に対して、今のうちにやっておくべきことや、パンデミックBCP策定のポイントについて紹介します。
※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。
社内の感染対策を行う(流行初期段階~最後まで継続)
2009年の新型インフルエンザパンデミック時にも同様の光景が見られましたが、まずは徹底した社内の感染対策が必要です。これは「感染させない」という直接的な目的もありますが、社内の士気を維持する、外向けに「ちゃんと危機意識を持ってやっていますよ」アピールをする、といった意味でも重要です。流行の初期段階、楽観シナリオ・悲観シナリオのどちらへ推移するか分からない現状でも、すぐに始めて頂きたい項目は次の通りです。
全従業員へのマスク着用の徹底
新型コロナウイルスの感染方法は2つあり、ひとつは「飛沫感染」、つまり咳やくしゃみです。「飛沫」とは、咳やくしゃみで飛び出した、「水分を含む直径5マイクロメートル以上の粒子」のことで、新型コロナウイルスを含んでいます。これが呼吸を通じて鼻や口から体内に侵入することを防ぐのが、マスクの役割です。いわゆる「その辺で手に入る“普通の”高機能マスク(サージカルマスク)」は、フィルターの目が5マイクロメートル程度ですので、この飛沫であればある程度ブロックできます。
しかし、やや小さい飛沫(医学的には「飛沫核」)はフィルターを素通りしますし、またマスクと顔の間にいくらでも隙間が空きますので、完全に飛沫の進入をブロックすることはできません。一方、感染者の咳やくしゃみは、マスクを着用していれば大幅に拡散を防止することができます。マスクだけで「自分への感染」を完全に防ぐことはできませんが、「他人に感染させない」ための対策としては、効果を発揮するため、職場での感染防止策として、「全員(特に感染者)」にマスクをつけさせることが有効です。
なお、接客業の場合はマスクの着用に対して独自のルールがあると思います。しかし新型コロナウイルスの場合は、「従業員への感染を防ぐ」意味合いもありますが、「従業員が感染者だった場合に、お客様への二次感染を防ぐ」ためのマスク効果が高くあります。「顧客の安全のため、むしろマスクをつけた方がよい」という理由で、どうかマスクをつけての接客をおこなうようにしてください。
手洗い・アルコール消毒の徹底
もうひとつの感染方法が手指を通じた「接触感染」です。感染者の飛沫が、ドアノブ、スイッチ、ボタン、手すりなどを経由して手に付着し、口・鼻・目を触った際に感染、といった具合です。そのためこまめな手洗いを行い、手を通じた感染ルートを潰すことが大変有効です。またコロナウイルスはアルコール、または次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水で破壊することができます。そこで人体用に、事業所の出入り口、オフィスのエントランス、トイレや給湯室などに消毒用アルコール消毒薬を設置し、これの利用促進を図ることも効果があります。
また、ドアノブ、スイッチ、ボタン、手すり、複合機やPC周りなどの「モノ」に対する消毒は、前述のアルコール除菌剤の他、次亜塩素酸ナトリウム(濃度100ppm:0.1%)や、次亜塩素酸水も有効です。希釈したものをスプレーボトルなどに入れておき、モノの消毒ができるようにしておくとよいでしょう。次亜塩素酸ナトリウム・次亜塩素酸水についてはこちらでもまとめています→「衛生管理(殺菌消毒・除菌消臭)グッズ」
うがいは…?
風邪防止にはうがい…と昔からよく言われますが、実はうがいによる感染防止効果は、エビデンス(科学的根拠)がなく、厚生労働省や政府の「コロナウイルス感染予防」としても、紹介されていません。しかし、トイレなどにうがい薬を設置するといった対応は、従業員に対する「新型コロナウイルス感染症ヤバイよ!」という啓蒙活動には効果がありますので、そうした意味で設置することは有効です。
社内の感染対策を行う(流行初期段階~最後まで継続)
感染が本格化し、記事前編で紹介した「楽観的シナリオ2 or 悲観的シナリオ」で想定される「パンデミック(全世界的流行)」状態へ推移する場合は、さらなる感染防止対策が必要になります。
社内で行う会議・出張の制限
新型コロナウイルスで最も有効な感染防止策は、「他人と接触しない」ことです。そのため、「密室で」「他人と」「会話をしながら濃密に空間を共有する」頻度をできるだけ下げる必要があります。今回のコロナウイルスは感染から発症までの潜伏期間が長く、また「非発症感染」の報告も上がっており、健康な従業員が感染していないとは限りません。これは本当に凶悪な特徴で、感染爆発をさせる気満々というところです。
そのため、まずは「会議」を減らす・禁止する必要があります。密室で数十分から数時間、濃厚接触をする会議。ガンガン喋っているあの元気な人は、じつは感染者かもしれません。喋らなければ成立しない会議、喋るたびにマスクをつけていてもまき散らされるウイルス、感染部屋、になります。
次に「出張」の抑制、新幹線や航空機は、長時間不特定多数の人と空間を共にするため、感染させたいウイルス達にはぴったりの環境になります。社内以上に、隣に座っている人の素性が分からない乗り物は、極力乗車をさせないようにする必要があります。不要な(必要でも)会議を行わないこと、特に長距離移動を伴う出張をさせないこと、こうした対応と準備・ルール作りを行っておく必要があります。
時差出勤の実施、徒歩・自転車・自動車通勤の奨励
「満員電車」は、「密室」「他人」「適度な揺れ」という、濃厚接触による飛沫・接触感染に最適な環境です。新型コロナウイルス感染症に限らず、毎年のイベント「普通のインフルエンザ」が流行するための装置のひとつにもなっています。そのため、自社の従業員をできるだけ「満員電車」に乗せないための対策が必要になります。
ひとつは時差出勤、ピーク時間を少しずらすだけでも混雑はグッと緩和されます。早朝出勤&早く帰っていいよ制度、もしくは遅い出勤OK制度、などを検討してルール作りをしておくとよいでしょう。時差出勤は感染症対策に限らず、大地震や水害などで交通機関に制限が生じる場合も有効ですので、BCPの一環として平時から運用できるように整備すると役立ちます。
また、徒歩出勤や自転車出勤は、他人との接触機会を大きく低下させられますので、環境が許せばこうした対応を推奨することもおすすめです。また自動車通勤が主である場合は、普段のエコ活動とは逆に、極力相乗りをさせず、ひとりで乗車するようにさせると感染防止に役立ちます。
出勤できない状況に対応するための準備を行う
新型コロナウイルスの感染が広がりパンデミック状態となり、さらに致死率が高い(数%以上)状態となると、いよいよ従業員の出勤が難しくなります。新型インフルエンザの被害想定(※1)では、8週間程度のピーク期間の間、最大で従業員の40%が出勤不能になる、という想定もあります。会社機能が正常なうちに、将来の新型インフルエンザ対策もかねて、「もし出勤者が半数以下になったら、どの業務をどうやって維持するか」を検討しておきましょう。
テレワークによる在宅勤務の実施
感染防止対策もかねたもっともよい手段は、出勤をさせずに業務を行うことです。リモートワーク環境を構築し、自宅での在宅勤務を行うことができれば、感染機会を大きく減らすことができます。店舗業や製造業をはじめ、出勤しなければ成立しない業務では難しいですが、オフィス職についてはできるだけ在宅勤務を行うようにすることが有効です。ひとり出勤者を減らすことができれば、それだけ社内での感染リスクを減らすことにもつながります。
- 会社のPCを持ち帰らせるルールや規則を整備する
- 自宅のPCを利用する際のレギュレーション制定やウイルスソフトの手配を行う
- 社内サーバーにアクセスするためのVPN環境を構築する
- 部署内のコミュニケーションを取るためのグループウェアを導入しておく
具体的にはこれらの準備が必要になります。すでに利用されている会社については問題ありませんが、こうした仕組み・環境がない企業については、他の災害に対しても有効な策ですので、これをきっかけに導入してしまうのもよいでしょう。
出勤者をできるだけ減らす準備
リモートワークによる在宅勤務が難しい業務、事業については、それでも出勤者をできるだけ減らす準備が必要になります。感染のピーク時に最低現維持しなければならない業務はどれか、その業務を行う為に最小限必要な人員は何名か、などを確認しておき、最低限の人数で回せるようにするための準備です。出勤者を減らすことができれば、社内感染の可能性を低下させることもできます。
絞った人数については、自宅待機(教育や学習の機会にあてる)、有休消化推奨、ピーク時の最悪期間については会社休業、などの対応を行って行くことになります。今のうちに、自宅待機中にやらせたいことなどを検討しておくのもよいでしょう。
そもそもパンデミックのピーク時に継続する事業・業務を確認しておく
BCP(事業継続計画)は、「平時の体制ではどうにもならない非常時」に、最低限の業務を維持するために策定します。そのため、まず全社共通で前述の「社内感染防止対策」や「出勤させない準備」を行いつつ、同時に「新型コロナウイルスパンデミックのピーク期間に、そもそも維持しなければならない事業はなにか?」という検討と絞り込みをしなくてはなりません。考え方としては次の通りです(これをBIA・事業影響度分析と呼びます)。
パンデミックのピーク期間に、維持すべき事業を定める
まず検討するのは、「平時の事業のなかで、パンデミック中にも維持しなければならないものはどれか、逆に止めてもよい、あるいは継続できない業務はどれか。」です。インフラ事業者の供給業、流通自動車の物流業務、IT事業者のサーバー・システム維持、金融業の入出金や保険業のコールセンター、また今回のケースですと「マスク」「消毒薬」「医薬品」などの製造など、挙げると切りがありませんが、とにかくそれがなければ社会が成立しない事業が全般的に対象となります。
逆に、サービス業や娯楽産業、また政府対策本部から緊急事態宣言が出された際に、活動自粛要請の対象となる施設業全般は、そもそも営業を続けてもお客様がこられなくなりますので、営業停止の計画が必要になります。休業期間中に行いたいこと、また固定費をまかなうための資金繰り計画などが必要です。
また、「普段は行っていないが非常時に発生する、あるいは需要が生じる事業」がある場合は、その内容を確認しておきます。例えば飲食店や小売店は、店舗を開けての営業は難しくなりますが、デリバリーや配達という手段を用いれば、小規模な営業が行えます。普段そうしたサービスを行っていなくても、一時的にそうした対応ができないかを検討することは有効です。
維持すべき事業をどの程度のレベルで行いたいかを検討する
新型コロナウイルス感染症のピーク期間に維持したい事業を定めたら、次にその事業を「どのくらいの水準で提供したいか」を検討します。出勤できる従業員、使えるリソースが限られる状況ですので、普段どおり100%水準のサービスを提供する、ということは難しい状況になります。また新型インフルエンザの行動計画(※2)でも、毒性の強いウイルスによるパンデミックが発生した際には、政府から国民に対して、「事業者のサービス水準が低下するけど、我慢しようね」とアナウンスが出される想定です。
営業時間や営業地域の短縮、サービス内容の省略、対応する取引先の絞り込みなど、最低現維持したい業務水準を検討し、それを目標として設定します。
定めたギリギリ水準の事業を行うために、最低現必要な「業務」を洗いだす
パンデミックのピーク時に提供する業務水準を定めたら、そのギリギリ水準の事業を提供するために、最低現どの業務(仕事)を行わなければならないかを確認します。新規営業活動は止めてよい、機械の定期点検は1ヶ月ならスキップしてよい、対面の顧客サポートは中断する、包装と梱包は簡易とさせてもらう、など考え方は様々ですが、できるだけ「その業務はなくても死なない」ものをやめる決断が必要です。
最低限の業務を行うために必要な「経営資源」をリストアップする
これで、「1)致死率の高いパンデミックのピーク時に行いたい事業」「2)その事業のサービス水準」「3)その水準のサービスを提供するために最低現必要な業務」が定まりました。最後に、この最低現の業務を行うために、何が必要か?を検討してリストアップします。
具体的には、その業務に必要な「人」「拠点・建物」「モノ(車両・設備・機材・原材料)」「情報・アプリケーション」などの社内資源と、「ライフライン」「仕入先・外注先・取引先」などの外部資源についての検討となります。これらをリストアップしたら、「この経営資源は、パンデミックのピーク地に使えるか?」を検討し、使えないと判断されるものについて、ではどうするかの代替策を検討しておきます。これがBCPです。
BCP発動、あるいは非常時体制をいつから行うか
では、これらの事前準備を本番化するタイミングはどのように考えるべきでしょうか。前述の通り、今回の新型コロナウイルス感染症は、「感染から発症までの期間が長い」「発症しなくても感染力を持つ」という凶悪なステルス機能を持っていますので、実はすでに、身近な…あるいは社内に、感染者が発生していないとも限りません。
状況が許せば、すでに在宅ワークへ移行すべき時期になっている
そのため、テレワーク環境が整っている企業や部門については、すぐにでも在宅ワークに切り替え、感染者の増加が頭打ちになるか、致死率が季節性のインフルエンザ並の0.1%程度まで下がるか、有効なワクチンを従業員全員が接種できる状態になるまで、これを継続すべきです。
難しい場合は、社内の感染対策の徹底をすぐに開始する
在宅ワークなどができない、すぐに始められない場合は、少なくとも社内の感染防止策、「全員マスク着用」「手洗い・消毒の徹底」はすぐに開始し、また不要な会議や出張の縮小→必要であっても会議や出張を禁止する準備、などに着手するとよいでしょう。
最悪ケースに進んだ場合の対応を、今のうちに検討する
この状態で業務を行い、「致死率の高い新型コロナウイルスによるパンデミック」という悲観ケースに進んだ場合に、どの事業を維持するか、そのためにどんな準備をするか、という検討を進めます。また従業員を安心させるため、すくなくとも「今回の状況を把握し、新型コロナウイルス感染症に対して危機意識を持ち、必要な対策を行う準備をしている」というアナウンスを社内に出し、「マスクと手洗い」をする旨の協力を要請します。
幸い、このまま新型コロナウイルス感染症が終息し、これらの対策や準備が空振りに終わったとしても、少なくとも「普通の季節性インフルエンザ」感染防止には役立ちますし、今後いつ生じてもおかしくない「新型インフルエンザパンデミック」に対する準備・予行演習として活用できますので、無駄にはなりません。また世間がこれだけ騒ぎ始めている現状、「何もしない」というスタンスは、従業員や取引先に対する印象としてもよくありませんので、「最悪を想定した準備」を、ぜひ始めてください。
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当記事の前提となっている「今後のシナリオ」については以下の記事をご覧ください。
出典・参考資料
※1)新型インフルエンザにおける被害想定(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000136961.pdf
※2)新型インフルエンザ等対策政府行動計画(内閣府)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/keikaku.html
※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。