備える.jp
サイトメニュー仕事依頼・お問合せ

企業の新型肺炎対策、開始目安と解除基準の考え方

最終更新日:

執筆者:高荷智也

新型コロナウイルス感染症に対し、企業が感染防止対策や事業所閉鎖を行おうとする際の、実施トリガーや判断基準をご紹介します。

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

当サイトの「新型肺炎・COVID-19」特集ページはこちらです。

社内の感染防止対策を実行する際のトリガー・基準について

 新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの流行時、社内の感染防止対策はどのような状況をきっかけに、何を基準として進めて行くべきでしょうか。原則としては企業が独自に定めることになりますが、目安となる基準をいくつかご紹介します。

政府から発表される「緊急事態宣言」を参考にする

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、高い致死率(2%程度)を保ったまま国内で大流行となった場合、感染者の人数によっては膨大な死者と、社会への大きな影響を生じさせます。

 このような場合、新型コロナウイルス感染症は「新感染症」に指定され、「新型インフル特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)」などに基づき、広い感染防止対策が行われます。

 さらに、流行中の感染症が特に甚大な影響をもたらすと想定される場合は、特措法に定められている「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発表され、より強力な感染防止対策や、感染者・死亡者への対応が行われることになっています。

 この場合は、外出自粛要請や興行場・催物等の制限等の要請・指示が出される計画になっているため、企業内の各種対策を講じる際のトリガーとして、この「緊急事態宣言」の発表が活用できます。

国内での「人・人」感染者の増加状況を参考にする

 一時的な営業停止・事業所閉鎖などの大がかりな対策は、前述の「緊急事態宣言」などをトリガーとして実行することが想定されます。一方、より手前で各種対策を行いたい場合は、次のような流行度合いを基準にすることが考えられます。

  • Lv 1)国内で1人目の感染者が発表された
    ※COVID-19の場合は、2020年1月16日に発表された武漢帰りの男性
  • Lv 2)国内で「人・人」感染による1人目の感染者が発表された
    ※COVID-19の場合は、2020年1月28日に発表されたバス運転手の男性
  • Lv 3)事業所のある都道府県で「人・人」感染による1人目の感染者が発表された
  • Lv 4)事業所のある都道府県で「人・人」感染による複数の感染者が発表された
  • Lv 5)事業所が入居する建物およびその近辺(市区町村)で感染者が発表された
  • Lv 6)社内で感染者が発生した

 これらの状況を対策開始のトリガーとして、「社内の感染防止対策」「会議や出張の抑制」「在宅勤務の実施」「事業所の一時閉鎖」などを行っていくことになります。どの基準をどの対策に用いるかは企業判断によりますが、以下に考え方の例を紹介します。(※上記のLvは当記事の独自記述であり、なにかしらの法的基準があるものではありません。)

「致死率」の高い・低い、の考え方について

 なお、流行中の感染症が、2009年の新型インフルエンザパンデミックのように、「致死率が低く、感染しても死傷する危険が小さい」場合は、極端な感染防止対策を行う必要はありません。この「致死率の高低・重症になった場合の影響」などを、まず見極める必要があります。

 目下流行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の致死率(記事更新時点)は、世界で発表されている「死亡者÷感染者」の値と、2020年2月18日のWHOによる発表によると「2%」程度とされています。

 この値は、2002のSARSの致死率9.6%、2012年のMERSの致死率35%と比較すれば低い値です。しかし、国内で死者数十万人が発生すると想定され、政府行動計画や各種法律が整備されている「新型インフルエンザ」で想定されている最悪の致死率「2%」と同じ値ですので、決して「低い」値とは言えず、重大な脅威になる可能性があると言えます。

 パンデミックシナリオについては、こちらの記事も参照ください→「新型コロナウイルス3つの流行シナリオと注意すべき情報

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、現在の致死率2%程度を維持したまま、国内で大流行を生じさせた場合は、死者数万~数十万という被害が生じてもおかしくありません。こうした感染症が大流行している・しはじめている場合に行う、社内対策の実行基準の考え方を紹介します。

「手洗い」や「咳エチケット」の呼びかけ・啓蒙活動

実行すべき対策とその理由

  • 全従業員に対するマスク着用の呼びかけ、啓蒙活動
  • 社内における「手洗い」や「咳エチケット」の実施呼びかけ、啓蒙活動

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染ルートである「飛沫感染」と「接触感染」を防ぎ、社内での「人・人感染」の確率を少しでも下げるために実施します。

 ドラッグストアなどで売っている、いわゆる「普通のマスク(サージカルマスク)」は、自分に対するウイルス感染を完全に防ぐことはできませんが、「感染者による飛沫のばらまき」を防止する効果がありますので、咳エチケットの一環として行えば、社内の着用率が高くなるほど感染防止効果が高まります。

 手洗いや咳エチケットも、これだけで完全に感染を防止することはできませんが、社内感染の確率を下げる効果はあります。またこれらの目に見える対策は、「新型コロナウイルス感染症を脅威と捉え、従業員の安全を守ることを考えていますよ」というメッセージにもなるため、社内外へのイメージ戦略としても有効です。

対策を開始するトリガー・実行の目安例

  • Lv 1)国内で1人目の感染者が発表されたとき
  • Lv 2)または、国内で「人・人」感染による1人目の感染者が発表されたとき
  • 政府や関係省庁から「手洗い・咳エチケット」に関する協力要請が出たとき

 毎年流行する「季節性インフルエンザ」への対策としても有効ですので、冬場は毎シーズン実施してもよいのですが、新感染症や新型インフルエンザの流行時においては、国内感染者が出たタイミングも分かりやすいきっかけとなります。

対策を解除するタイミング

  • 国内の新規感染者が、基準期間(COVID-19の場合は12.5日)の間発生しなかったとき
  • 政府や関係省庁から、流行中の感染症に対する終息・安全宣言が出たとき

 マスク着用の呼びかけや、出入り口などへの消毒用エタノール設置をやめるタイミングとしては、流行中の感染症の終息が明らかになったタイミングです。消毒剤など邪魔にならないものであれば、使い切って無くなった所で撤去という方法も考えられます。

使える資料や情報源

各種啓発に使えるチラシ・ポスター素材があります。以下、内閣官房・首相官邸・厚生労働省のWEBサイトからダウンロードできます(※内容は同じです、リンク切れ対策として全て記載します。)

「会議・出張抑制」「時差出勤」「満員電車回避」

実行すべき対策とその理由

  • 不要不急な会議・出張等の抑制
  • 不要不急な社内イベント・飲み会等の抑制
  • 時差出勤による満員電車の回避
  • 徒歩・自転車・自動車通勤の推奨

 マスク着用や咳エチケットの徹底と同じく、社内における感染確率を下げるために実施します。しかし前述の対応と異なり業務に影響が生じる恐れがあるため、実施をする範囲や開始のタイミングをよく考える必要があります。

対策を開始するトリガー・実行の目安例

  • Lv 3)事業所のある都道府県で「人・人」感染による1人目の感染者が発表されたとき
  • Lv 4)または、事業所のある都道府県で「人・人」感染による複数の感染者が発表されたとき
  • 流行中の感染症が「新感染症」に指定されて「新型インフル特措法」の対象となったとき

 特に都市部の場合は、通勤に用いる満員電車が感染拡大の大きな要員になります。事業所周辺での感染が確認されたタイミング、あるいは政府が流行中の感染症を脅威と認定したタイミングが、実行の分かりやすい目安となります。

 また出張抑制については、拠点周辺で感染者が発生していない場合でも、出張先の国・都道府県で感染者が出ている場合は出張を取りやめる、などの対応も考えられます。

対策を解除するタイミング

  • 事業所のある都道府県内の新規感染者が、基準期間(COVID-19の場合は12.5日)の間発生しなかった場合
  • 政府や関係省庁から、流行中の感染症に対する終息・安全宣言が出たとき
  • 感染症の致死率が低い(季節性インフルエンザ並・0.1%代)ことが明らかになったとき

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、症状が出る前にも感染力をもつという特長があるため、厳密に言えば国内感染者がいなくなるまで、これらの対策を解除すべきではないかもしれません。しかし、会議・出張・通勤に関する抑制を永遠と続けることは難しいため、最寄りの安全が確保された段階での解除するのが現実的です。

使える資料や情報源

 このページの中程に「報道発表資料」のコーナーがあり、「発生状況」が日別にまとめられています。この『新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について○月○日版』を見ると、国内での感染者一覧表が載っていますので、これで都道府県別の最新発生状況が確認できます。

リモートワークによる在宅勤務について

実行すべき対策とその理由

  • 在宅勤務の実施

 感染リスクが高い都市部の満員電車内での感染、またオフィス・店舗・工場内での感染を完全に避ける方法としては、リモートワークによる在宅勤務が適しています。

 しかし在宅勤務と言っても、もともと制度や環境が整っていない企業において、すぐに実施をすることは困難です。人事制度や労働条件の見直し、勤怠管理方法の検討、PCやVPN環境などITシステム面の整備など、多方面での準備が必要となります。

 一方、リモートワークは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に限らず、大地震や大規模水害、気象災害による交通障害、他の感染症によるパンデミックなどへの対策、また平時の経営改善にも有効です。

 新型コロナウイルス感染症が、どの程度の広まりを見せ、どこまで被害が拡大するかはまだ分かりません。事業所の閉鎖を伴う「本当にマズイ状況」に対応できるようにするため、実行が可能な職種・従業員に対する在宅勤務制度の検討を、早めに進めるとよいでしょう。

対策を開始するトリガー・実行の目安例

  • Lv 4)事業所のある都道府県で「人・人」感染による複数の感染者が発表されたとき
  • Lv 5)または、事業所が入居する建物およびその近辺(市区町村)で感染者が発表されたとき
  • 政府から「新型インフル特措法」における「緊急事態宣言」が発表されたとき

 リモートワークによる在宅勤務は、企業の業種・業態・規模により実施内容に大きな差が生じます。平時からそうした制度があり、実施を行いやすい状況であれば、より早期から在宅勤務の推奨を開始することもできるでしょう。

 平時における在宅勤務の回数や頻度に制限を設けているような場合は、この制限を一時的に撤廃する制度を定め、これを実施するタイミングを定めることになります。拠点が存在する都道府県において、「人・人」感染による感染者が追加で発生するような場合は、分かりやすい目安となります。

 また、流行中の感染症が、「感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)」に規定される、「新感染症」に定められた上で、「新型インフル特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)」に規定される「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発表された場合は、企業に対してもさらなる感染防止対策を取る要請が出されるため、在宅勤務の開始などが必要になる可能性があります。

対策を解除するタイミング

  • 事業所のある都道府県内の新規感染者が、基準期間(COVID-19の場合は12.5日)の間発生しなかった場合
  • 政府から「新型インフル特措法」における「新型インフルエンザ等緊急事態解除宣言」が発表された場合
  • 感染症の致死率が低い(季節性インフルエンザ並・0.1%代)ことが明らかになったとき

「○○だけ在宅勤務なんて不公平だ」への対応について

 リモートワークを実施する際、職種や業務内容によって在宅勤務を行うことができない従業員が発生します。この場合「全員に適用できないなら、不公平感をなくすために全員行うべきでない」という考え方が生じることがあります。

 しかし、感染症対策における在宅勤務とは、「安全性を付与する優先順位付け」ではなく、「在宅勤務者を増やすことによる出勤者の感染リスク低下策」なのです。在宅勤務をする対象者がズルイ、のではなく、在宅勤務者が増えるほど、在宅勤務ができない従業員の安全性が高まるのだという考え方が必要になります。

 なお、出勤者を減らしてオフィスや事業所内の空間に余裕が生まれる場合は、できるだけ座席の間隔を広く取るなどすることで、出勤者の感染リスクをさらに低下させることができます。

出勤禁止・事業所閉鎖・臨時休業について

実行すべき対策とその理由

  • 基礎疾患をもつ従業員や、高齢(企業の場合は少ないと思われますが)または妊娠中の従業員に対する出勤禁止措置
  • 乳幼児がいる家庭の従業員に対する出勤禁止措置
  • 最低限の業務維持要員を除く、全従業員の出勤停止措置

 社内で感染者が発生した場合、あるいは今後その可能性が高いと想定される場合は、社内における感染爆発を防止することで、連鎖的な感染を防止するための措置が必要です。感染者の発生を完全に防げないとしても、発症するペースを平準化し、業務維持要員を確保するための措置となります。

対策を開始するトリガー・実行の目安例

  • Lv 6)社内で感染者が発生したとき
  • 政府から「新型インフル特措法」における「緊急事態宣言」が発表されたとき

 基本的には在宅ワークを開始するタイミングに近しいものとなります。

対策を解除するタイミング

  • 社内の新規感染者が、基準期間(COVID-19の場合は12.5日)の間発生しなかった場合
  • 政府から「新型インフル特措法」における「新型インフルエンザ等緊急事態解除宣言」が発表された場合
  • 感染症の致死率が低い(季節性インフルエンザ並・0.1%代)ことが明らかになったとき

※2020年・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は日ごとに変化しています。当記事は執筆時の状況を元に作成したものですので、さらなる最新情報が出ている場合はそちらを優先してください。

当サイトの「新型肺炎・COVID-19」特集ページはこちらです。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

関連テーマ一覧

  1. 災害とリスク- 危機の対象を知る
  2. 感染症・パンデミック対策
  3. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック対策

備える.jp 新着記事