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家庭防災4a:短期(数日~半月)備蓄が必要な災害

最終更新日:

執筆者:高荷智也

短期備蓄が必要な状況は、首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模震災や、強毒性の新型インフルエンザパンデミック時です。ライフラインや流通網が寸断されて食料品などが短期的に入手できなくなるような場合や、外出が危険な状況に対して備蓄をします。

大地震や自然災害で短期備蓄が必要な理由

 短期備蓄は、首都直下地震や南海トラフ巨大地震、また大規模な水害や火山の噴火などにより特定の地域が壊滅状態に陥り、外部からの救援を待つまでの1~2週間を過ごすための準備。また新型インフルエンザをはじめとする感染症や局地的なテロ・暴動などで、騒動のピーク時に1~2週間程度外出ができなくなるような状況を過ごすための準備として行います。

従来の推奨備蓄が「3日分」といわれていた理由

 例えば巨大地震の場合、従来は「3日分の水と食糧を備蓄しましょう」という言葉がよく使われていました。これは、災害発生から72時間(3日間)は、行政(消防・自衛隊)の活動のほとんどが、倒壊した住宅に閉じ込められた人の救助活動に向けられ、生き延びた方々への支援はこの救助活動後、72時間後から本格化することが理由です。

今後発生する巨大地震では「1週間分」の備蓄が必要と方針転換

 一方、2013年(平成25年)5月28日に、南海トラフ巨大地震で想定される人的・物的・経済的被害の推計や、東日本大震災の教訓をふまえた巨大地震対策の方向性について、内閣府の中央防災会議(国の防災基本計画の作成や、防災に関する重要事項の審議をする防災対策の中枢です)が検討を重ねた最終報告書が発表され、備蓄について下記の様な報告がされました。

被災地域では、発災直後は特に行政からの支援の手が行き届かないことから、まず地域で自活するという備えが必要であり、食料や飲料水、乾電池、携帯電話の電池充電器、カセットコンロ、簡易トイレ等の家庭備蓄を 1週間分以上確保するなどの細かい具体的な対応を推進する必要がある。さらに、災害時要援護者の対応も避難者同士で助け合うなど、地域で自ら対応することへの理解が必要である。

出典:「南海トラフ巨大地震対策」の最終報告(内閣府)

 つまり、今後の発生が想定されている首都直下地震や南海トラフ巨大地震においては、被災地域や被災者の数が従来の大地震と比べ桁違いとなるため、「とても3日では助けに行けないから、最低1週間は自分たちでなんとかしてね」と、方針を切り替えたのです。そのため現在では、「地震には3日分ではなく1週間分の生活物資を備蓄」といわれるようになりました。

 また近年では、ダムや護岸工事などの治水工事が長年続けられてきたおかげもあり、多少の大雨ではなかなか洪水が発生しなくなっています。その反面、一度洪水が生じるとその被害が大規模化する傾向にあり、これに土石流などの土砂災害が組み合わさった場合、大地震同様72時間程度では支援が開始されない地域が生まれる可能性もあります。

 そのため、大規模な自然災害で生き延びた後の対策として、1~2週間程度を自活するための備蓄が求められているのです。

新型インフルエンザパンデミックにも短期備蓄が必要

厚生労働省の新型インフルエンザ対策ガイドライン

 巨大地震や自然災害だけでなく、新型インフルエンザ対策などにも短期備蓄が必要になります。これもまず国の見解をご紹介しますと、2009年(平成21年)の2月17日に厚生労働省が発表した、『新型インフルエンザ対策ガイドライン』にまとめられている「個人、家庭及び地域におけるガイドライン」に、備蓄に関する次の記述があります。

新型インフルエンザが海外で大流行した場合、様々な物資の輸入の減少、停止が予想され、新型インフルエンザが国内で発生した場合、食料品・生活必需品等の流通、物流に影響が出ることも予想される。また、感染を防ぐためには不要不急の外出をしないことが原則である。このため、災害時のように最低限(2週間程度)の食料品・生活必需品等を備畜しておくことが推奨される。

出典:新型インフルエンザ対策ガイドライン(厚生労働省)

2009年の新型インフルエンザパンデミック

 奇しくもこのガイドラインが発表された翌々月、2009年の4月にメキシコで新型インフルエンザ(H1N1:豚インフルエンザ)の流行が始まり、同年2009年の6月12日に、世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザパンデミック(世界的大流行)を宣言し、警戒水準を大祭のフェーズ6に引き上げるという事態が生じました。

 この新型インフルエンザは日本国内でも流行し、本来の流行時期を外れた真夏であるにも関わらず、同年の11月中順までに1千万人程が感染したとまとめられています。しかし幸いにも致死率が通常の季節性インフルエンザより低いものであったことから、死者・重傷者は少数に抑えられており、結果的には大山鳴動して鼠一匹というような状況で事態は収束しました。

 この豚インフルエンザパンデミックのような状況であれば、1~2週間の防災備蓄は不要です。しかしこれは今だから言えることであり、ウィルスの毒性が未知であった流行初期においては過剰な警戒がされ、ドラッグストアなどから瞬く間にマスクや消毒剤が姿を消したことを記憶している方も多いのではないでしょうか。

本当に恐ろしいパンデミックはこれから生じる

 短期備蓄が本当に必要になるのは、今後いつ発生してもおかしくないと想定されている、いわゆる「強毒性の鳥インフルエンザ」やその他の感染症がパンデミック(世界的大流行)をおこした場合です。この場合は前述のガイドラインで示されている通り、生活物資が手に入らなくなったり、感染防止のために外出自粛が必要になると考えられています。

 実際過去には、1918年(大正7年)から1919年にかけて新型インフルエンザパンデミック、通称スペイン風邪が発生しており、世界の人口が20億に満たなかった当時で、4~5千万人の死者を出すという大災害が生じております。そして今後発生すると想定される新型インフルエンザは、このスペイン風邪よりも強い毒性を持っている可能性があるとも想定されています。

 このように致死率が高い感染症がパンデミックを起こすと、全世界の輸出入や国内の流通網がマヒをして、流行のピークが過ぎるまで生活物資が入手できなくなると考えられています。また感染を避けるためには基本的に「人に会わない」という策が最良であるため、自宅に籠城する必要があり、このための備蓄が必要であるとされているのです。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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