避難所(指定避難所)について
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執筆者:高荷智也
避難所(指定避難所)は、台風などの災害をしのぐために一時滞在したり、自宅を失った被災者が短期生活をしたりする場所です。しかし全住民を収容する準備はないため、自宅を強化して「在宅避難」ができるようにするための準備が重要になります。
できるだけ避難所へ行かない、在宅避難の準備をする
災害が発生したら必ず避難所へ行かなければならない、あるいは避難所へ入らないと支援物資がもらえない、と思っていませんか。自宅が無事であれば避難所へ行く必要はなく、むしろ不便な避難所へ行かないための準備が重要なのです。
避難所へ入らなくても支援物資は受け取れる
避難所(指定避難所)の準備は、災害対策基本法という法律により、市町村の役目として定められています。またこの法律及び避難所に関するガイドラインでは、避難所の環境を改善することとあわせて、避難所以外で被災生活をする方についても、物資の提供などを行うように努めることを指示しています。
もちろん現実的には、避難所にいる方に対する支援が優先されますが、そもそも自宅が無事であれば、家が巨大な防災倉庫になっています。少なくとも着の身着のままで避難所へ入った方と比較すれば、家の中の物が全て使える分、なんとか生活はできるはずです。自宅にある物と、最低限の支援物資で、災害直後を乗り切れるようにしましょう。
家族に災害弱者がいる場合、避難所へは行かない方がよい
そもそも避難所の収容人数は、全住民を対象としていません。あらかじめ想定される災害が発生した際、自宅にいられなくなる人数を推定して、それを収容できる人数分の避難所が準備されるからです(物理的に全住民を収容するスペースは、人口が少ない割に箱物がしっかりしている田舎くらいにしかありません)。そのため避難所へ入れるのは、自宅を失った方、ライフラインが停止して生活できない方、支援が必要な方が優先されることになります。
しかし避難所の生活はお世辞にも快適とは言えず、特に乳幼児や妊婦、障害者や要支援者、高齢者や要介護者など、いわゆる災害弱者になりうる方は、避難所の生活で命を落とす(災害関連死)こともあります。ですから、避難所へ優先的に入れる方ほど、むしろ避難所ではなく自宅で在宅避難をすることを考えるべきなのです。
遠方に親戚や知人がいる場合、一時的に被災地を出て生活をした方がよいです。日本人的な感覚として「自分達だけ被災地を捨てて快適な生活をするのは申し訳ない」と考える方も多いでしょう。しかし、被災者がひとり減れば、それだけ他の方への支援が厚くなります。被災地の外へ出られるのであれば、胸をはって外部へ避難をし、ライフラインが復旧してきたら堂々と戻ってくる、これが自分とご近所のための優れた手段です。
避難所での過ごし方・避難者はお客さまではなく運営者
避難所を運営するのは住民自身
避難所(指定避難所)を指定するのは市町村です。また災害発生直後には、避難所の立上げ要因として、役場の職員が各避難所へ派遣されることになっています。が、大規模災害の場合、職員自身も被災者となるため、すぐに避難所へたどり着けないことが考えられます。またたどり着けたとしても、数十名~数百名の避難者の面倒を、数名の職員がみることは物理的に困難というより不可能です。
そのため、各避難所の運営については、町内会などが主体となる自主防災組織が中心となり行うことになります。平時から行う避難所の運営計画においても、避難所の責任者は行政の職員ではなく、自主防災組織の長、町内会長、自治会の防災担当者の名前が入ることになるのです。自主防災組織を構成するのも、行政や消防の職員ではなく、そこに住んでいる私たち自身ですから、避難所の運営者は「自分自身である」という意識が必要です。
避難所はホテルではなく共同生活の場
避難所の食事の支度やトイレの清掃の準備はもちろん、支援物資の受け取りや配布の計画、避難スペースの割り当てプラン、避難所におけるそもそものルール作りなどは、平時からその避難所を利用することになる住民によって決めることになります。避難所を運営するのも、利用するのも、共にご近所さんたちになるわけですから、ホテルのお客さま間隔ではなく、全員が従業員という状態になるわけです。
もちろん小さな子供、妊婦さんや要支援者、障害者や要介護者など、災害弱者となる方々については周囲のフォローが必要です。しかし災害前に自立した生活を行っていた多くの方については、積極的に避難所の運営に参加しなければなりません。集団生活の場となりますので、ルールを守り、生活の場を維持することを意識しましょう。もちろん状況が落ち着くまでは、禁酒禁煙が大原則です。
避難所ではまずトイレ問題に取り組む
過去の大規模災害時、避難所の運営においてつねに困り毎ナンバーワンとなるのが、トイレに関する問題です。まる一日程度飲まず食わずになることはあり得ますが、まる一日トイレを使わないと言うことはあり得ないからです。大規模災害でトイレが使用不能になった場合であっても、早ければ災害数分後にトイレの需要が出て来ます。
避難所にトイレが準備されるまでは、携帯トイレを使用する
水が流れない状態のトイレでひとりでも無理矢理用を足すと(つまり流れないトイレにウンチをしてしまうと)、もうそこからトイレは制御不能になります。過去の災害時においても、便器が大便で埋め尽くされるだけではすまず、床から洗面台から、排泄物まみれになってしまう事例は珍しくないのです。
そのため、避難所にトイレが準備されるまでは、無理矢理トイレを使うことは絶対に避けなければなりません。トイレの個室が被害を免れているのであれば、トイレの中で携帯トイレや非常用トイレをつかって、水の流れない便器をつかわないようにしなければなりません。
初動対応でまずトイレの確保をする
そのため、避難所を開設する際には、建物内への受け入れ準備と平行して、トイレの確保を最優先で行わなければなりません。防災備蓄品として、仮設トイレやマンホールトイレの準備がある場合は、避難所開設のもっとも初期対応として、まずトイレの設置から着手する必要があります。
こうした設備がない場合は、無事だった建物のトイレの個室に、非常用トイレを設置し、非常用トイレが使えないブースは閉鎖してしまうなどの対応が必要です。避難所運営の組織としても、トイレを中心とした衛生管理班は重要な役割を負うことになります。
トイレ問題は生死に関わることもある
トイレの数が足りない、あるいは不衛生で使いづらい、障害者や高齢者に使いづらい作りになっている、といった状況は避けなくてはなりません。トイレが使えないと水や食事の量を減らすことになり、いわゆるエコノミークラス症候群などを引き起こし健康を害したり、最悪の場合は死んでしまったりすることもあります。
水と食料を1週間分準備するのであればトイレも同量を準備する。防災備蓄を行う際には、トイレを最優先のアイテムとして準備するようにしてください。
避難所では感染症や食中毒に注意する
避難所の生活は集団生活です。またお世辞にも快適な環境とは言えない場所で生活することになるため、抵抗力も平時より低下します。こうした状況では、感染症や食中毒が大変発生しやすくなりますので、徹底した衛生管理が必要になります。
避難所へ持ち込む道具に、マスクとウェットテッシュを準備
感染症や食中毒をもたらすウィルスや細菌は、経口感染するケースが多くあります。マスクを着けてウィルスの飛散(マスクは感染防止ではなく、拡大防止の方に効果があります)と、手が口に触れることを防止します。さらにトイレの後、食事の前にはウェットティッシュを使い、手指をキレイにすることで感染防止に努めることが重要です。
調理前には徹底して消毒、食事の前には手指洗浄
災害直後の食事は、カンパンやパンの缶詰、簡易食料が中心となりますので、むしろ食中毒の可能性は低いと言えます。しかしおにぎりなどの配給がはじまったり、避難所での炊き出しがはじまると、衛生管理状況に拠っては食中毒の恐れが出てきます。調理器具の消毒、手指の洗浄、またゴミの分別や集積場所での管理などに注意をして、感染症を徹底的に防止することが重要です。