食糧備蓄の目的と必要性
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執筆者:高荷智也
食糧備蓄の目的は「餓死」を防ぐことと「健康」を維持することです。長期にわたる食糧不足には餓死回避の備蓄を。短期にわたる食糧不足には健康維持の備蓄を行います。
「餓死」回避と「健康」維持
食料備蓄を行う最大の目的は、「餓死」を防ぐことです。飢え死にという最悪の死に方を回避するため、食料が手に入らなく期間に対して行う備えが、食料備蓄です。そのため食料備蓄は、数ある備蓄の中においても、水の備蓄と並んできわめて重要な備蓄行為と言えます。
食料備蓄を行うもう一つの目的は、「健康」を維持することです。短期的に食料が不足する様な事態に備えることで、救援・復興がなされた後、すぐに平時の生活を取り戻すことができる様に、非常事態となる有事を快適に過ごし、心身を健全に保つための食料を準備します。
人間、飲まず食わずでも数日間、また水さえ飲むことができれば一ヶ月程度は死にません。しかしこのような長期にわたり、食料が全く入手できなくなる様な災害は希です。そのため食料備蓄の多くは、後者である「健康」を維持するための「非常食」として準備されます。
「餓死」を防ぐための食料備蓄は、長期間を想定した備えです。この場合には「非常食」と呼ばれる食べ物ではなく、普段食べている食べ物を大量に備蓄します。防災グッズと異なり、食べ物は普段から消費できるため、計画された食料備蓄は意外と楽に行えます。
地震で餓死することは無い
あなたのご家庭では食料備蓄をしていますか?また食料備蓄と言われてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。例えばホームセンターの防災グッズ売り場では、「地震に備えて、三日分の水と食料を非常持ち出し袋に入れておきましょう」などの表記をよく見かけます。
また「防災=地震対策」と関連付けられるケースは多くあり、そのため「食料備蓄=地震対策」とされることもよくあります。しかし、大地震・大震災において、食料備蓄の有無が生死を左右するケースは希であり、地震対策における食料備蓄の優先順位は高くありません。
世界で発生する地震の2割は、この狭い日本列島で発生しています。数年おきに大地震に襲われ続けている日本では、結果として高度な地震対策及び災害救助のノウハウが蓄積され、大震災発生の当日中、遅くとも数日以内には、水や食料の配給が始まる環境が整っています。
そのため、日本で大地震の直撃を受け、着の身着のままで脱出した被災者になったとしても、食料備蓄をしていないことが原因で「餓死」することは、そう多くありません。地震対策における食料備蓄は、あくまでも数日間の「健康」を維持するための準備に過ぎないのです。
主題とはずれますが、地震対策でまず行わなければならないのは、「食料備蓄」ではなく「死なない環境作り」です。地震により死んでしまった場合、せっかく備蓄した食料は何ら役に立ちません。詳しくは「地震対策の基本」をご覧ください。
近代日本に、飢饉と飢餓は存在するか?
近代の日本で、食糧不足が原因となって多くの死者を出した災害は、第二次世界大戦(太平洋戦争)が最後です。個人レベルにおいて、戦争は大きな災害(大人災)です。空襲などの直接攻撃だけでなく、食糧不足という二次災害によって、多くの餓死者が発生しています、
戦争に起因しない飢饉としては、1930(昭和3)~1934(昭和8)年にかけて、東北地方で起こった大凶作による事例が最後です。また江戸時代以前へさかのぼれば、数十年に1度の割合で繰り返し飢饉が発生しており、いつまた日本で大飢饉が発生しないとも言い切れません。
戦後数十年、日本で飢饉が起こっていないのは、経済力により世界中から食料を買い付けることが可能となったからです。この輸入が途絶えた場合、狭い日本列島で養える人口は江戸時代並みの3~4千万人程度、残りの1億人近い日本人は餓死する運命にあるわけです。
親による子供の虐待や老人いじめなど、小集団で発生する飢餓を除き、現代日本では大飢饉が発生しない構造が出来ています。しかしこれは、世界規模における食料流通網と日本の経済力が両立することでのみ成立する、不安定で危うい構造であるとも考えられます。
いつ訪れるか分からない大飢饉、この災害による「餓死」を防ぐことが、食料備蓄の最大の目的です。短期の食糧不足に備える「健康」維持と、長期の食糧不足に備える「餓死」回避。それぞれの目的に合った食料備蓄を、正しい方法で楽に行いましょう。