食料備蓄が必要な災害
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執筆者:高荷智也
「食料備蓄がないために餓死」するケースは、現代の日本においても存在します。食料備蓄が役立つ事態が、どのような災害によって引き起こされるのかをご案内します。
地震で餓死することはない
食料備蓄をしていますか?また食料備蓄と言われてどのようなイメージを抱かれるでしょうか。例えばホームセンターなどに出かけると、防災グッズ売り場に食料備蓄のコーナーなどがあり、「地震に備えて3日分の水と食料を、非常持ち出し袋に入れておきましょう」などの記述をよく見かけます。
実際、「防災=地震対策」と関連付けられるケースは多く、そのため「食料備蓄=地震対策」とされることもよくあります。しかし、地震で大きな被害が出た際、食料備蓄の有無が生死を左右するケースというのは希であり、本来地震対策における食料備蓄の優先順位は高くありません。
世界で発生する地震の2割は日本で発生しており、結果的に日本には高度な地震対策と災害救助のノウハウが蓄積されています。特に阪神・淡路大震災以降は、民間のボランティアによる救助活動が一般的になり、早ければ地震の当日中、遅くとも数日以内には水や食料の配給が始まる様な体制が整っています。
そのため現在の日本においては、食料備蓄をしていないことが原因で、地震の際に被災者が餓死すると言うことはきわめて希となっています。地震対策における食料備蓄は、あくまでも数日間を比較的快適に過ごすための準備に過ぎません。
近代日本に飢饉と飢餓は存在するのか
食糧不足を原因として多くの死者を出した災害といえば、近年の日本においては太平洋戦争が最後となります。個人レベルにおいて、戦争は大きな「災害」です。空襲などによっても多くの人命が失われていますが、特に戦争末期から終戦直後に関しては、食糧不足によっても多くの餓死者が発生しています。
また日本においても、飢饉がなくなったのはここ数十年のことで、それまでは繰り返し飢饉に襲われてきました。近年でも、1930(昭和3)~1934(昭和8)年にかけて、東北地方で大凶作による飢饉が発生しており、また江戸時代までさかのぼれば数十年に1度の割合で、繰り返し飢饉に襲われ続けています。
近年、日本において飢饉が起こらなくなったのは、世界第2位の経済力により世界中から食糧を買い付けることが可能となったからです。海外からの食糧輸入が途絶えれば、この狭い島国で養える人口は江戸時代並みの3~4千万人程度で、残りの1億人近い日本人は餓死する運命にあるわけです。
子供の虐待や老人いじめ、そうした小集団における飢餓を除いて、現代日本では大規模な飢饉は発生しない構造ができあがりました。しかしそれは世界規模における流通網と、それを活用できる経済力があってのみ成立する、実は不安定で危うい構造であるとも考えられます。
食料備蓄が必要な災害とは
日本の食料輸入は、食料の輸送が不可能となるか、経済力の低下で購買力が失われると停止します。これらの事態を発生させる災害が大規模に発生すると、現代日本においても飢饉が発生する恐れがあります。
また、何らかの原因で外出が不可能となり、家庭内の在庫が唯一の食料となってしまった場合にも、それが長期に及べば飢餓状態に陥る可能性があります。この様な事例は、全国一斉でなく局所的にも発生する恐れがあります。
このような事態に襲われて、はじめて「食料備蓄で命が助かる」事態が生じることになりますが、ではこのような事態を生じさせる災害にはどのようなものがあるのでしょうか。いくつかの例を取り上げると次の様になります。
新型インフルエンザ(いわゆる強毒性のもの)
2009年にパンデミックとなった豚由来の新型インフルエンザは、幸い季節性のインフルエンザとさほど変わらぬ被害でした。しかし、近年発生が恐れられていた、鳥由来のh4N1新型インフルエンザが流行を始めると、比較にならない被害が出る恐れがあります。
仮にこのウイルスの致死率が高かった場合、ワクチン製造が行われるまでの自衛策としては、「自宅に引きこもって感染を避ける」というものが唯一となります。この場合、家庭内の食料在庫が引きこもれる期間を決めることになり、また労働力の一時的な低下により国内流通にも大きな影響を与えます。
また国家間の交通網にも大きな制限がかかるため、食料の輸入がしばらくの間途絶える恐れもあります。事実新型インフルエンザ対策のガイドラインとして、農林水産省が2週間分の食料備蓄を呼びかけるなど、食料危機が具体的な危険として指摘をされています。
日本国債のデフォルトとハイパーインフレ。
ニュースなどで度々話題にされる「日本の借金」ですが、かりにこの元凶となっている日本国債のデフォルト(債務不履行)が発生した場合、これをきっかけとしたハイパーインフレーションが発生する恐れがあります。物価上昇に賃金上昇が追いつかなくなり、あらゆる物資が購入できなくなる状態です。
日本では終戦直後にハイパーインフレが発生しました。また直近では、アフリカのジンバブエでハイパーインフレが発生しており、「パン1つを購入するのに両手いっぱいの札束が必要、それでも購入するパンが店頭にあればましな方。」という事態が生じています。
このようなことが発生し、日本円が文字通り紙くずとなれば、海外からの食料輸入が不可能となり、また一般市民が限られた国内の食料在庫を購入することも難しくなります。物理的な被害は何一つ生じていませんが、経済の大災害によっても、食糧危機が発生する可能性があるわけです。
東海・東南海・南海連動地震
近い将来の発生が指摘される想定東海地震、仮にこの地震が単発で発生すれば、日本が得意とする震災救助のノウハウが大いに発揮され、大きな被害は出たとしても「餓死」する被災者は希になると考えられます。
しかし、歴史的に見れば東海地震が単発で発生したことはなく、必ず三重県沖を震源とする「東南海地震」と、和歌山・高知件おきを震源とする「南海地震」がセットで発生しています。静岡~愛知~三重~和歌山~高知~宮崎までの太平洋沿岸地域が、同時に壊滅状態に陥る可能性があると言うことになります。
この場合、震災救助活動の範囲がきわめて広範囲に渡るため、通常の震災よりも救助までの時間が長くなり、食料の備蓄が適切に成されていない地域や家庭においては、局地的な飢餓に陥る可能性があります。日本全国同時ではありませんが、これも食料危機の1つと言えます。
テロ・戦争
また、前述の太平洋戦争(第2次世界大戦)がそうであった様に、現代においても大規模なテロや戦争が発生すれば、同様の食糧危機に襲われる可能性は大いにあります。戦争当時よりも人口が5割ほど増加している現代において、この危機はより大きなものになっているとも考えられます。
頻度は低くなりますが、「食料備蓄がないために餓死する」災害は現代の日本においても発生する可能性があります。地震対策などの身近な防災においては、食料備蓄の優先順位はそれほど高くありません。しかし万が一に備える気概をお持ちの方においては、かなり気合いを入れた食料備蓄が必要となります。