死都日本
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概要・あらすじ
国家や文明を滅ぼすほどの大災害、「破局噴火(VEI・火山爆発指数7以上のウルトラプリニー式噴火)」が現代の九州で発生したと仮定した世界で繰り広げられる、詳細な噴火災害シミュレーション小説です。主人公である火山学者と友人の新聞記者による、噴火の爆心地からの避難紀行を中心に、未曾有の大災害に立ち向かう日本国政府や、各種の登場人物達によるグランドホテル(群衆劇)形式で描かれた作品です。
この作品のテーマである「破局噴火」は、著者の石黒燿氏の造語ですが、当作品におけるあまりにも緻密な科学的考察と精密なシミュレーションが評価され、現在では現実の火山学者が使う用語としても定着しています。この破局噴火の規模を砕いて説明すれば、「ものすごく規模が大きく、近隣の都市は瞬時に消滅し、地球規模の気候変動すら引き起こすほどの、むちゃくちゃな規模のウルトラ大噴火」という表現になります。
破局噴火は、噴火の規模を示すVEI(火山爆発指数)と呼ばれる数値で7以上(最大は8)の、大規模噴火を指しています。この規模の噴火が実際に生じた場合、まず火口の全方位に向かって生じた大規模な火砕流が周囲数十キロ~数百キロを焼き払い、さらに成層圏にまで達する大量の火山灰が日光を遮り、いわゆる「火山の冬」と呼ばれる地球規模の寒冷化現象が生じ、全世界で食料生産が大打撃を受けると指摘しています。
現実においてもこの規模の噴火は度々発生しており、最近の事例では1815年にインドネシアのタンボラ山で生じた噴火がVEI7の規模と考えられており、翌年に渡って地球規模の寒冷化現象を引き起こしています。日本においては7,300年前に鹿児島県の南方沖の海底火山(鬼海カルデラ)で起こった破局噴火が、海を越えて半径100キロの範囲を火砕流で焼き払っており、南九州の縄文文明を壊滅させたと考えられています。
このように、いつ発生してもおかしくない「破局噴火」が実際に今発生したらどうなるのか?を描いたのが当作品「死都日本」です。日本を舞台とした大規模な災害パニック小説としては小松左京氏の日本沈没などが有名ですが、これが完全なフィクションであるのに対し、死都日本の世界はいつか必ず生じるものであり、この辺りの現実性が大変なリアリティをもたらしており、良作品とする材料になっていると考えられます。
感想・思ったこと
初めてこの作品を読んだ際、過去に受けたことのない衝撃をうけました。災害パニック小説には様々な良作品がありますが、現実に発生したことがあり、さらに将来いつ生じてもおかしくない自然災害をテーマに、ここまで日本を破壊し尽くした作品はこの「死都日本」が随一であったことが理由と考えられます。これは災害パニック小説ですが、読み手が理系の場合、科学ホラー小説とでも呼べそうな作品でもあります。
この作品を読む前まで、正直なところ火山の噴火という自然災害については見くびっている点がありました。身近な噴火事例としては、桜島の噴火、雲仙普賢岳の大火砕流、また今後想定されている富士山の噴火などがありましたが、いずれも「近隣の住民は大変だよねぇ」とう程度の認識でしかなく、まさか「日本が滅びる」規模の噴火が現実に、しかもいつ生じてもおかしくないということを知ったことは衝撃でした。
また、緻密に計算された災害シミュレーション小説という側面とあわせて、日本を初めとする各国の神話と関連づけた、歴史的な考察に多くのページが割かれているところもおもしろい点です。世界の古代神話の表現には火山の噴火に通じる点が多いというのが理由だそうですが、目の前で生じている破局噴火の状況に照らしあわせて解説をされると、なるほど合点がいく所も多くうならされます。
防災や危機管理について学んでいる方、ハリウッドのパニック映画やそう言ったたぐいの小説が好きな方には間違いなくオススメできる一冊です。私自身、初回の読了で衝撃を受けて以来、常に本棚の一等地にこの本が置かれるようになり、繰り返し読み返していますが毎回ドキドキワクワク(というと不謹慎ですが)しながら読み続けられています。Kindle版などの電子書籍も用意されていますので、ぜひご一読いただきたい作品です。
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書籍の情報
著書名…死都日本
著者…石黒耀
出版社…講談社
初版発行日…2002/9/1
紹介文…「BOOK」データベース
西暦二〇XX年、有史以来初めての、しかし地球誕生以降、幾たびも繰り返されてきた“破局噴火”が日本に襲いかかる。噴火は霧島火山帯で始まり、南九州は壊滅、さらに噴煙は国境を越え北半球を覆う。日本は死の都となってしまうのか?火山学者をも震撼、熱狂させたメフィスト賞、宮沢賢治賞奨励賞受賞作。