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BCP策定は義務か-事業継続計画と法律・条例

最終更新日:

執筆者:高荷智也

一般企業に対してBCP策定を直接義務づける法律や条例はありませんが、コンプライアンス的には策定が望ましい状態にあります。防災対策がおろそかな場合は安全配慮義務違反などに取られる可能性もありますが、BCPを取り巻く法律と条令について解説をします。

BCP策定は義務なのか?

BCP策定を”直接”義務づける法律や条令はない

 一般の企業に対して、BCP策定を直接義務づける法律は存在しません。また東京都帰宅困難者対策条例のように、BCP策定や防災備蓄を推奨する条例を定める都道府県も存在していますが、罰則規程はなく努力義務としての存在になっています。

行政や業界団体の支援もあるが、現在の所は企業次第

国や地方自治体、商工会議所や各業界団体は、一般企業に対するBCPの普及を積極的に掲げています。そのためガイドラインや各種の支援策を用意するなどして企業のBCP策定を後押ししていますが、現在の所は企業の独自判断に委ねられている状況です。

BCPが未策定の場合、法務面で後々不利になるケースも

 しかし、BCPの策定や防災対策がおろそかな状態で大規模な災害や事故が発生し、不幸にも従業員や設備に被害を出してしまった場合、法務・コンプライアンス面でやっかいな状況になることがあり得ます。これは2011年(平成23年)の東日本大震災後にも見られた状況です。砕いて言えば「おたくの危機管理ができていなかったから被害が出た、どうしてくれるんだ!」というリスクです。

従業員に対する安全配慮義務違反について

安全配慮義務は労働災害だけでなく自然災害にも必要

労働契約法の規程、民法の解釈、過去の判例によれば、企業や事業者は従業員を使用する際に安全を確保するための安全配慮義務を負っているとされています。店舗や工場における労働災害を防止するというのは分かりやすい内容ですが、さらに就業時間中に事業所内で自然災害に遭遇した場合の対応、すなわち防災対策やBCPの策定により自然災害から従業員を守る義務があるとされています。

正社員だけでなくパートや出向者の対応も必要

 安全配慮義務は、雇用契約内容の種別によって区別されるものではありません。そのため正社員だけでなくパートやアルバイトにも適応が必要です。また実質的な指揮権・命令権を有している場合は、出向者・派遣写真・下請け労働者といった立場の方も対象になり得ます。防災対策の一環としてヘルメットや備蓄品を準備する場合、「とりあえず正社員分だけでいいか」では後々問題になる可能性が高いのです。

安全配慮義務と自然災害との関係について

 被災後に安全配慮義務違反に問われるケースとしては、次のような状況が考えられます。オフィスや工場の地震対策が不完全で、転倒した什器に従業員が押しつぶされて死傷した場合。津波や洪水、大規模な火災に対する避難計画が不十分であり、避難が間に合わずに被害を出した場合。十分な防災備蓄品がない状況で大地震が発生し、従業員に帰宅の指示を出したところ、道中で二次災害に巻き込まれてしまった場合などです。

後ほど安全配慮義務違反に問われないために

 災害や事故発生後に安全配慮義務違反に問われないためには、BCP策定や防災対策の実施が必要です。最新のハザードマップや行政被害想定にもとづいた耐震補強、転倒防止策、防災マニュアルの作成などを行い、さらに従業員に対する防災訓練や避難訓練を定期的に実施して、対策の教育や周知を徹底することが求められます。また帰宅時の二次災害に対しては、「自発的に帰宅します」との念書を取っておく方法もあります。

契約違反・債務不履行について

自然災害や大事故に対する債務不履行リスクについて

 大地震を初めとする自然災害が生じて、取引先への納品期限に製造が間に合わず契約違反となってしまった場合、事前対策の内容によっては損害賠償などのリスクが発生する可能性があります。BCPや防災対策が万全であり、自社に不可抗力がなかったと完全に証明できる場合には、自社に対する帰責事由がなくなるため問題ありませんが、明らかに対策が不足している場合には問題となります。

契約を結ぶ際に「不可抗力免責条項」を加えておく

 このような不可抗力による債務不履行リスクを回避するため、取引先と契約書を交わす際には「不可抗力免責条項」を追加しておくことが望ましいと言えます。例えば「天変地異・戦争・テロなど自社の責めに帰することができない事由による契約遅滞は責任を負わない」というニュアンスの条項です。もちろん、自社のBCP策定や防災対策が万全であることが大前提になります。

BCPが普及するほど、未策定の企業への風当たりは悪くなる

 後述するISO23001(事業継続マネジメントシステム)の発行もあり、今後BCPを導入する企業はさらに増加すると考えられます。するとBCPがどんどん当たり前の存在になっていきますが、もしこのような状況でまだBCPを策定していない企業が被災して被害を出した場合、BCPがきちんとあれば被害が生じなかった可能性がある」という具合に、BCP未策定企業に対する風当たりは強くなっていくと考えられるのです。

BCPと条例(東京都帰宅困難者対策条例)について

東京都帰宅困難者対策条例(2013年施行)

2013年に施行された東京都の条例に「東京都帰宅困難者対策条例」というものがあります。これは、2011年の東日本大震災の際に首都圏で生じた、515万人にものぼる膨大な帰宅困難者の問題に対応するために作られた条例です。企業に対しては、防災対策・防災備蓄・安否確認体制の構築を「努力義務」として求めています。

条例の目的

 この条例は「多数の帰宅困難者が生じることによる混乱及び事故の発生等を防止する」ことが目的となっています。帰宅困難状態で被害者を出さないためには、「みんなが同時に帰宅をしないこと」が何より重要ですので、そのための準備や帰宅を開始した後の支援について、各事業者に対して期待することが条例で定められています。

条例が企業に求めていること

 一般企業の責務としては「災害発生から3日間(72時間)の間、従業員を職場に止めておく」ことが求められています。そのための具体策として、「防災対策」「防災備蓄」「安否確認」の3点が示されています。要は大地震時にオフィスの安全を確保し、3日分の水・食料・トイレを準備し、また家族の安否を確認できるようにするという内容です。

条例への対応は努力義務です

 東京都帰宅困難者対策条例については、違反罰則は存在せず対応するかどうかは企業の自主判断に委ねられています。しかし前述の法律対応と同様、このような条例が存在する自治体で大きな災害が発生し、条例にしたがっていなかった企業で被害や損害が出た場合は、後日になって訴えを起こされる可能性が高いため対応することが望ましいのです。

国際規格・ISO22301への対応について

ISO22301(事業継続マネジメントシステム)について

 BCPや事業継続マネジメントの仕組みを対外的にアピールする場合、従来は英国規格協会(BSI)が発行しているBS25999を取得していました。しかし2012年に国際規格であるISO22301(事業継続マネジメントシステム)通称BCMSが発行されたことをうけ、今後はISO22301を取得することが事業継続に関する対外的なアピール手段としては最も適したものになっていきます。

ISO22301の取得を義務づけるものはない

 もちろんISO22301(事業継続マネジメントシステム)は、他のISOシリーズ、例えばISO9001(品質マネジメントシステム)や、ISO14001(環境マネジメントシステム)と同じく、法律で取得を義務づけられるものではありません。取引上の契約条件として取得をしたり、一般向けのイメージ戦略の一環として取得をしたり、あるいは自社のマネジメントシステムの徹底のために取得をするものになります。

ISO22301の普及はこれから始まる

 現在の所(2016年2月時点)、ISO22301・BCMSを取得している企業の数は大企業を中心に80社程度にとどまっており、一般的な認知度もISO9001やISO14001ほど高くはないため、取引上の理由がなければ積極的に取得をするメリットはありません。もちろん取得企業が増加すれば、取引上必須となっていくことが考えられますので、社内でBCPを策定する場合はISOを意識した項目にしておくと二度手間が減らせます。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也Tomoya Takani
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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