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浸水開始後にできる事後対策・洪水時の避難のポイント

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最終更新日:

執筆者:高荷智也

河川洪水など大規模な氾濫がはじまってからできることはあまりありませんが、小規模浸水時であれば排水溝の閉鎖などが有効です。また周囲が水没してから徒歩で避難することは困難であるため、浸水がはじまる前に避難行動を開始することが重要です。

浸水がはじまった直後にできること

トイレ・風呂場・台所・洗面所などの排水溝を閉鎖する

 標高が相対的に低い地域の場合、大雨が降ると下水道が溢れ、自宅の排水ができなくなります。さらに水位が上がると、汚水が排水溝から逆流してくることもあります。配水管は下水からの臭気の逆流を防ぐため「S字」のトラップに水がたまっていますが、周囲が浸水して下水の水位が上昇すると、下水管の中の空気が押されて自宅の排水溝からまず空気が逆流してきます。

 大雨のときに自宅のトイレなどが「ゴポォ!ゴポゴポォッ!」と音を立て始めたら、水が逆流してくる予兆である可能性があります。汚水が溢れてくる場合は、ゴミ袋を使った「水のう」などを用いて排水溝をふさぎます。ゴミ袋に水を入れて口をしばり、トイレの便器の中、風呂場の排水トラップの中、台所や洗面所の洗面台、洗濯機の排水溝などの真上に置きます。床上浸水するほどの洪水時には意味が無くなりますが、小規模な浸水時には効果があります。

家具や家電、荷物などの家財を2階などへ移動させる

 自宅の1階(あるいは地下室やガレージ)の浸水が免れない状況になったら、水につかる恐れがある場所にある家財を、2階など高い場所へ移動させます。浸水に気づいてから対応をはじめたのでは時間がほとんどないため、濡れては困る物(といっても、濡れて良い物などほとんどないと思いますが…)、重要な物から待避させます

 家具・家電・生活用品、また畳なども外して移動ができるのであれば待避させます。畳などの重量物で2階などへの移動が困難な場合は、テーブルの上に重ねておくだけでも、軽微な浸水であれば濡れを防止することができます。万が一の避難に備えて、非常持出袋、雨具、靴、レジャー用の浮具なども集めておくとよいでしょう。

電気周りの対策をする

 コンセントや電気周りが水没すると漏電ブレーカーが作動して家中の電気が使えなくなります。戸建てなどで、部屋別のブレーカーがついている場合は、1Fの部屋や外回り(外構)のブレーカーだけ落としておき、2Fでは電気が使える様に維持してください。また浄化槽がある場合で、ポンプ(ブロア)が沈みそうな場合は、これの電源も落とします。(ただしこの状態が数日続くと微生物が死んで浄化槽が使えなくなるため、浸水回避後は速やかに電源を回復してください)。

避難をする

 すでに浸水がはじまっている場合、屋外の避難場所へ徒歩で移動することは困難です。後述しますが、水深がひざ上になっている場合はまともに歩くことはできません。このような場合は、戸建てならば自宅の2階、マンションならば上層階などへ「垂直避難」を行い、水が引くのを待つか救助を求めることになります。

浸水時に避難をする際の注意点とポイント

水深が50センチを超えると移動困難、できるだけ早目の避難を

 浸水被害時に避難をする際には、とにかく「早く行動を開始」することが何よりも重要です。浸水害が発生すると時間がたつほどに水かさが増し、移動が困難になります。成人男性であっても、水深が50センチ(ひざ丈程度)を超えると歩行が困難になります(流速が2m/sの場合)。高齢女性であればせいぜい30センチです。この水深を超えるとまともに移動することが難しくなるため、徒歩での避難は不可能となります。

 また浸水災害時には下水道から汚水があふれてくるため、水につかることは感染症のリスクを高めることになります。さらに冬場に水濡れしてしまうと、低体温症のリスク…と言いますか、単純に真冬にびしょ濡れになると凍死する可能性が高まるため、できるだけ水に濡れないように移動することが重要です。

 水に濡れないためにはひざ丈の長靴を履く必要がありますが(釣りの際に着用する「ウェーダー」などの防水スーツとライフジャケットがあれば有効ですが、家族全員分がそろっている家庭は極少数ですよね…)、ひざ丈の長靴が浸水する水深になっている場合は、そもそも歩行が困難ですので、徒歩での避難はやはり難しいと言えます。

『参考サイト:NHKそなえる防災』

屋外への避難が間に合わない場合は自宅の2階などへ「垂直避難」する

 すでに屋外の浸水がはじまっており、さらに水かさが増しているような状況では、徒歩での避難はほとんど手遅れであると言えます。特に子供や高齢者、ペットなどがいる家庭の場合は、無理に徒歩避難をすることでかえって危険な状況になりかねませんので、避難所への「水平避難」ではなく建物の上の階への「垂直避難」を行います。

 なお戸建てかつ平屋の場合は屋根に上がるしかありませんが、移動困難な高齢者が屋根に上がれるのか?という疑問が湧きますよね。当然無理です。ですから、そもそも歩くのが困難な家族(要援護者)がいる場合は、浸水開始前、さらに言えば大雨が降り始める前に避難場所へ移動しなければならないのです。

どうしても水中を移動する場合は、足下に細心の注意を払う

 浸水した道路を移動しなくてはならない場合は、足下に注意しながら避難をします。浸水時は水が濁っているため地面が見えず、さらに周囲から様々な「もの」が流れてきているため、足下にどんな危険物が転がっているか分かりません。鋭利な物を踏み抜いて足の裏をケガしないように、頑丈な靴を履くか、踏み抜き防止インソールなどを入れておく必要があります。

 また下水道のマンホールや側溝のフタが外れている場合があり、ここに転落(水没というべきでしょうか)すると溺死する恐れがあります。杖や登山用のステッキ、長い棒をつかって足下を確認しながら進む必要があります。また下水道(特に合流式)から水があふれてくると汚水が街中に広がることになりますので、感染症対策も必要になります。足に傷口がある状態で水に入ることを避けなければなりません。

荷物は最小限にして両手を開ける

 水没した道路を移動する場合、荷物が多いとバランスを崩して転倒します。また両手をあけておかなければやはりバランスを崩しやすくなるため、荷物は手提げカバンではなくリュックなどに入れて避難します。

 また大雨が続いている場合は傘ではなくレインコートを上下着用。リュックにはレインカバーやゴミ袋をかぶせるか、中の荷物をビニール袋に入れて防水対策。夜間であれば手に持つLEDライトではなくヘッドライトを着用します…が、浸水した街中を夜間に移動することは、そもそも自殺行為ですので、「今移動しなければ死ぬ」という状況以外では絶対に止めてください(というか無理です)。

移動時は防水を徹底、移動後に備えた着替えと防寒用品も必須

 水に濡れると感染症のリスクが高まるほか、急激に体温が低下するため冬場などは最悪の場合命に関わります。安全な避難場所へたどり着いたら、すぐに身体を拭いて暖かい格好をしなければなりません。リュックの中には、身体を拭くためのタオル、着替え、替えの靴やスリッパ、暖を取るための使い捨てカイロ、身体に巻くための毛布やブランケットを入れておきます。

 が、徒歩移動で大型の毛布を背負っていくことは現実的ではありません。薄い膝掛け、アルミブランケット、バスタオル程度が現実的には限界でしょうか。またリュックの中に入れる物は個別にパッキングして、水濡れ対策も厳重に行ってください。

浸水避難時にはひざ丈のロング長靴がよい

 靴は何を選べば良いでしょうか。「洪水避難時には長靴ではなくスニーカーを履くべき」という指摘もありますが、これは相当な極限状況に限ってのアドバイスです。「長靴が水没するほどに浸水した中を、徒歩で避難する際は脱げづらい靴を履くべき」ということですから、長靴が水没しない水深であればやはり長靴が最適です。

 自宅に複数の長靴があれば(一般家庭にはあまりないと思いますが)、できるだけ丈の長い物を選びます。また危険物の踏み抜きを防ぐため、靴底やつま先が強化された作業用・ボランティア用の安全長靴があればベストです。「普通の長靴」しかなければ、踏み抜き防止インソールなどを入れることでも対策ができます。

長靴が水没する(またはない)場合は一番靴底が丈夫そうな紐靴を選ぶ

 一方、長靴が水没するほどの水深になっている場合は、すでに歩行することが困難な状況ですから、そもそも徒歩避難を諦めるべきと言えます。しかし状況によっては、長靴が沈む深さでの避難が必要であったり、そもそも長靴がない場合もあり得ます。

 この場合は、水中で靴が脱げることを防ぐため、キツく締め上げることができる紐靴を選び、さらに転倒を防ぐために靴底の溝が深い、ブロックパターンが刻まれた靴を選びます。登山用のトレッキングブーツなどがあれば良いですが、なければ、「一番靴底が丈夫そうな紐靴」を選んでください。

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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