「非常用持ち出し袋」は命を守るための道具に厳選
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執筆者:高荷智也
非常用持ち出し袋には、避難時の安全を確保するための、命を守る道具だけを厳選して入れて、走って逃げられる重さに調整します。イザというさいに掴んで走り出せる最小限のアイテムと貴重品だけをオシャレなリュックに入れて、玄関先などで保管しましょう。
非常用持ち出し袋の管理と持ち出し
非常用持ち出し袋はすぐに取り出せる場所で保管する
非常用持ち出し袋を使うのはもちろん緊急時です。状況によっては1分1秒が生死を分けるような場合もあります。この際、押し入れや物置の奥に防災セットがおしやられていると、持ち出すような余裕はありません。何があってもすぐに持ち出せるように、玄関脇、廊下、リビング、あるいは高温になりすぎない物置の手前など、パッと掴んで持って行ける場所で保管をしてください。
画像は玄関先で保管をしたいセットの内容です。ヘルメット、靴、右下のポーチはレインウェアの上下です。リュックサックの中には避難時に用いる防災グッズを詰めています。手前上部のポケットには軍手・マスク・ライトなどが入っており、避難時に身に着けられるようにしています。手前下部のポケットは空っぽにしており、避難時に貴重品などを放りこむことができます。
非常用持ち出し袋はオシャレなリュックがおすすめ
非常用持ち出し袋が”いかにも”な外観、銀色の袋に大きく「非常用」と書かれているようなものであったり、使い古した汚れたリュックサックにグッズを押し込んでいたりすると、見映えが悪すぎて目立つところに置きたくなくなり、次第に奥へおいやられてしまいます。そのため、見映えのよいオシャレなバッグを選んだり、見た目のよいカゴや箱に入れて玄関先に置いておくという方法がおすすめです。
非常用持ち出し袋の中身について
以下より「命を守るための非常用持ち出し袋」に入れるべき防災グッズをご紹介します。津波・土砂災害・火災など1分1秒を争って避難をしなくてはならないかもしれない災害から、走って逃げるためのセットですので、量は最小限にしています。といっても写真の通り、それなりの量になっていますので必要なものに絞って入れましょう。
避難時に身につけて移動する防災グッズ
まずは避難セットで最も重要な、安全に移動をするための道具です。移動開始時に余裕があれば身につけて移動するものですので、普段は非常持ち出し袋に入れておき、避難時には取り出して身につけるとよいでしょう。
靴(踏み抜き防止インソール)
これは防災グッズなのか?と思われるかもしれませんが、避難用の防災セットで靴は重要な要素です。大地震時にはガレキを踏み抜かないために、洪水時には水中に潜む危険なものを踏まないために、また長距離を歩いて移動しなければならない状況においては、靴の善し悪しが移動速度と歩ける距離を左右します。
理想的には登山靴やハイネックのウォーキングシューズですが、そうした靴がなければスニーカーでも構いません。また鉄板の入った安全靴ははき慣れていないと歩きづらいため、踏み抜きを防止するインソール(下敷き)を入れると、どんな靴でも底面が安全になりますのでおすすめです。
ヘルメット・防災ずきん
大地震、台風による強風、噴火などによる落下物や飛来物。また火災発生時の火の粉などから頭を守るために装着します。自転車やバイク用のヘルメットを使い回しても構いませんが、フルフェイスのヘルメットは周囲の様子が確認づらくなりますので避けた方がよいでしょう。
手袋・軍手
障害物や危険物を排除する際に手を保護するために用います。また冬場や寒冷地の場合は寒さから手先を守るためにも重要です。軍手でも構いませんが、鋭利物や熱には弱いため、頑丈な作業用手袋や革手袋、また防水機能付きのアウトドア手袋を用意できればなお安心です。
マスク
大地震直後の粉塵からのどを守ったり、人が大勢集まる避難所などで感染症などの予防、逆にうつさないために使用します。寒い場所では防寒着の替わりになる他、汚れた顔が気になるというような場合にも役立ちます。優先度はそれほど高くありませんが、かさばるものでもありませんので1~2枚を入れておいてもよいでしょう。
雨具(レインコート・ポンチョ)
雨に濡れると急激に体温を奪われ、暖房などが望めない非常時においては体調を崩したり、最悪の場合は死につながる要因となりますので、雨具は最重要アイテムのひとつです。避難時には両手をあけることが望ましいため、できるだけ傘などではなく、カッパやポンチョなどのレインウェアを選びましょう。上着だけではなくレインズボンもあればベストです。
さしあたりで防災セットを作る場合には、100円ショップなどで売っているレインコートやレインポンチョで構いません。ただしこうした雨具は透湿機能がないため、長時間着ていると「ものすごく蒸されて」雨は防げても汗でびしょびしょになるため、あくまでも簡易用となります(この特性を生かして防寒着として使うこともできますが、やはり蒸れすぎますので季節によっては使えません)。
きちんとした防災セットを作りたい場合には、多少値は張りますが「防水透湿性」が高い、登山用などのレインウェアを選択してください。色々な種類のものがありますが、「ゴアテックス」などの素材を用いているものであればおおむね間違いありません。ただ、このレインウェアは値が張りますので、防災専用にするのではなく普段から活用して、非常時にも着て逃げるという方法がおすすめです。
懐中電灯(フラッシュライト)・ヘッドライト
暗闇の中を移動しなくてはならない際に用いたり、暗い避難所などで生活をする際に使います。長寿命で衝撃に強いLEDライトや、両手を空けることができるヘッドライトが用意できればベストです。電池がいらない手回し式の充電器ライトなどもありますが、避難時にグルグル回しながら移動することはできません。そうしたものが別にあってもよいですが、メインのライトは電池式のものにしましょう。
簡易にそろえる場合
ヘルメットや登山用レインウェア、ヘッドライトはそれなりの価格がしますので、さしあたりでそろえる場合には上記のようなセットでも構いません。ヘルメットの代わりに帽子、レインウェアの代わりに安いコンビニや100均のポンチョ、ヘッドライトの代わりに懐中電灯などを用意しておきましょう。
情報収集と安全確認のための防災グッズ
ハザードマップ・地図
津波や洪水からの避難時や、土砂災害、噴火災害などから避難する際にはハザードマップ(災害地図)を見て、安全な場所や避難所へ移動することが重要です。普段はスマートフォンの地図などを用いる場合も、緊急時用にはすぐ閲覧できる紙のハザードマップがあるとよいでしょう。
携帯ラジオ
災害の状況や避難所の情報を得るためにラジオが必要です。特に地域全体が長期間停電するような災害の場合、テレビはもちろんスマートフォンなどのインターネットも使用ができなくなりますので、このような場合はラジオが役立ちます。イヤホンがなくても聞けるスピーカー付のものだと複数人で利用ができてよいでしょう。
スマートフォンや携帯電話の充電器
基地局が生きていれば情報収集に絶大な効果を発揮するのが、スマートフォンなどを用いたインターネットです。しかし電池が切れてしまえば使えませんので、充電器のスペア、モバイルバッテリー、乾電池式の充電器などを用意しておきます。懐中電灯やラジオと同じサイズの乾電池(単3電池がおすすめ)にするとよいでしょう。
紙とペン
紙とペンの有無が生死を分けることは基本的にありませんので、スペースに余裕があれば便利アイテムとして追加をしてください。濡れても書ける耐水ペーパーを使ったメモ帳や、日光や雨に強いペンを選ぶとよいです。
応急手当・衛生管理の防災グッズ
救急・応急手当セット
すり傷や小さな切り傷などであれば絆創膏程度で手当ができますが、トリアージが発生するほどの規模の大きな大地震などが発生した場合、捻挫や骨折、火傷”程度”では医療機関にかかることが難しくなります。そのため、ある程度の手当ができるようなセットを用意しておくとよいでしょう。三角巾があると、止血、捻挫の固定、骨折の対応など幅広く使えますので便利です。
ウェットティッシュ
手指を綺麗にすることは非常時の衛生管理や食中毒の予防に重要です。しかし使える水の量が限られますので、小さいタイプのウェットティッシュがあると役立ちます。必須アイテムではありませんので余裕があれば追加しましょう。
ビニール袋(大・小)
防寒に使ったり、汚物処理に使ったり、火災からの避難に使ったり、あるいは避難所で水を受け取るのに使ったりと、ビニール袋は様々に活用できます。かさばる物ではありませんので数枚を入れておくとよいでしょう。
防寒対策の防災グッズ
替えの下着
雨具とセットで使用します。暖房が使えない非常時に、雨に濡れた服をそのままにしておくと体調悪化の原因となりますので、着替えを1セットだけ用意しておきましょう。使い古したものを入れておいてもよいですし、圧縮下着であればコンパクトで場所を取らずに便利です。
ただし、あくまでも避難用のグッズですので量は1セットで十分です。使い古しを入れておく場合は、旅行用の圧縮袋に入れておくとコンパクトに収納できます。なお、数日分の着替えなどは、避難用のバッグに入れるのではなく、インフラ停止に備えた備蓄用のバッグに入れましょう。
エマージェンシーブランケット・保温シート
必須ではありませんがあると便利な道具です。アルミ蒸着された薄いシートで、すっぽり覆い被さることで保温ができます。寒いときの保温に、目隠し用のシートに、雨に濡らしたくないものを包む際に、と使い回しがききます。ただし、保温性は高いのですが湿気を通さないため気をつけないと蒸れてびしょびしょになります。またガサガサと音がうるさいため、静かな場所では使いづらい面もあります。
使い捨てカイロ
これも必須ではありませんが、かさばるものではありませんので1~2枚を忍ばせてもよいアイテムです。上記のエマージェンシーシートはそれ自体が発熱することがないため、あくまでも「保温」道具ですが、使い捨てカイロは自身が発熱するので暖を取ることができます。
トイレ
携帯トイレ(非常用トイレ)
災害時に電気や上下水道が止まっている場合、避難先のトイレが使用できない恐れがあります。避難生活が長期化する場合衛生管理が重要な問題になりますので、仮設トイレを設置できるようになるまでの間は、携帯トイレを使うことが必要です。
家庭への備蓄用としては、トイレの便器に取り付けるタイプの「非常用トイレ」が適していますが、避難用のグッズとしてはどこでも使用ができる「携帯トイレ」を準備するとよいでしょう。生死を左右する道具ではありませんが、健康に影響を及ぼすグッズではありますのでぜひ数枚は入れておきましょう。
水・非常食
非常持ち出し袋に入れる水と食料の量は多くても1日分で十分です。防災セットの中で最も重量・体積を占めるのがこの水と食料で、どのくらいの量を入れるかによって全体の重さが変わってきます。非常持ち出し袋は「避難」をする際の安全確保が目的ですので、水や食糧を入れすぎて重量が増し、避難が遅れたというのでは本末転倒です。追加の水と食糧は、「インフラ代替セット」に詰め込んで、余裕があれば持ち出すようにしましょう。
飲料水
非常持ち出し袋に詰める飲料水は、500mlのペットボトルを2~3本、ウィダーインゼリーのようなゼリー飲料を1~2個程度で十分です。生活をするための水ではなく避難時の行動をサポートするための量ですので、最低限で構いません。
非常食
水と同様本格的な食事ではなく、避難行動時のエネルギー補給ができる量で構いません。チョコレートやカロリーメイトのような携行食を少々、余裕があればビスケットやカンパンのようなものを少量追加する程度で十分です。
その他「個人的に」重要な道具
メガネ・補聴器・杖・持病の薬などの「体の一部」
これがないと生活ができない、というような体の一部、メガネ・補聴器・杖・入れ歯・杖・持病の薬など、絶対になくてはならない道具であり、かつ避難所などではすぐに入手ができないものについては、必ずスペアを非常持ち出し袋に入れてください。
『最小限の防災グッズ・寝室の枕元に置くべき防災セット』でも枕元に置くべきと解説していますが、非常持ち出し袋にも入れておきましょう。あまりスペアの数がなければ、寝室に確保した予備を非常持ち出し袋に放り込んで避難できるように、スペースを空けたり小袋を用意しておきましょう。
赤ちゃん用品・女性用品など
赤ちゃんがいる家庭であればオムツと液体ミルク(入手がやや大変ですが)。女性であれば生理用品。またアレルギーを持っている方であれば専用の食事など、個人には必須だが避難所などで入手しづらい道具についても、少量を非常持ち出し袋へ入れるようにしましょう。
現金・貴重品・思い出の品
現金・貴重品
非常時の避難自体に多額の現金は不要です。ですから、自宅が燃えているとか、津波が迫っているなど1分1秒を争う事態においては、現金も貴重品も持たずに、玄関脇に置いてある非常持ち出し袋だけをパッと背負って飛び出してください。一方、大地震が収まった後の避難、気象警報発令時の避難など、余裕がある場合に持ち出す際には、一通りの貴重品を非常持ち出し袋に詰め込みます。貴重品を放り込むための袋と、それをいれるスペースを空けておくとよいでしょう。
写真は防災グッズを詰め込んだリュックサックです。下部手前のポケットを空けており、ここに貴重品などを放り込めるようにしています。パンパンにするのではなく、ある程度余裕を持たせて中身を詰め込むとよいでしょう。
免許証・健康保険証のコピー
避難時に原本を持ち出せればそれでよいのですが、その余裕がない場合もありますので免許証や健康保険証のコピーを1枚、非常用持ち出し袋の中に忍ばせておきましょう。その他、家族の電話番号などをまとめた連絡先一覧なども入れておくとよいでしょう。
思い出の品
貴重品同様、1分1秒が生死を分けるような状況においては全てを放り出して逃げてください。しかし火災が迫っているもののまだ余裕がある場合、原発事故などで避難命令が出た場合など、もしかすると自宅に戻ってこられなくなる可能性がある場合は、「思い出の品」を持ち出しても構いません。
ただし、これが重量物となって移動の妨げになってはいけませんので、バッグに入る程度のものが限度です。写真やビデオは、非常時に持ち出せるようデジタル化して、USBメモリやSDカードに定期的に保存するなどして持ち出せるようにしておくのも手です。
非常持ち出し袋には入れなくてもよいもの
1日分以上の水と非常食
非常持ち出し袋は「避難」を確実に行うためのセットですので、1日分以上の水や食糧は不要です。また水やお湯を入れなければ食べられないもの、缶切りがなければ開けられない缶詰、温めなければ美味しくない食べ物なども避けましょう。1日分以上の食料や、温めて美味しく食べられる食事は「インフラ代替セット」へ入れます。
着替え(衣類)・毛布
洋服や毛布も「避難」をするための袋には不要です。状況が落ち着いた後、避難所などで生活をしなければならない状態になった際に自宅から持ち出してください。冬場などに避難をする際には、非常持ち出し袋に着替えを入れておくのではなく、上着を羽織ってから移動してください。
ロウソクとマッチ(ライター)
古い防災マニュアルの中には、非常持ち出し袋にロウソクやマッチを入れることを推奨しているものがありますが、これはやめてください。非常持ち出し袋を使うのは「非常時」ですので、火災の原因となるような道具は絶対に使用してはいけません。ロウソクを入れるならLEDライトの予備電池を1本増やせば十分間に合います。どうしてもロウソクを使いたいのであれば、非常持ち出し袋ではなく、「インフラ代替セット」へ入れるようにしましょう。
ラップ・ガムテープ・ロープなど
いずれも防災グッズのリストなどでよく紹介されている道具ですが、これがあることで命が助かるというものではありませんので、非常持ち出し袋には入れず、「インフラ代替セット」に入れるようにしましょう。