住宅火災対策2・初期消火の方法とポイント
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執筆者:高荷智也
火災の初期消火の状況
このグラフは、火災の出火に対してどのような初期消火が行われたか(あるいは行われなかったか)の件数と内訳を表した物です。直近の合計で見れば、初期消火ありが63%、初期消火なしが37%で、最も多かった初期消火方法は「その他(水道・浴槽・汲み置き等の水または寝具・衣類等をかけた)」です。
図:初期消火における消防用設備などの使用状況
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計し、独自にグラフ化したもの。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-12 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成28年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成27年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成26年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成25年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
火災の初期消火の状況
上のグラフから初期消火の有無だけを切り出すとこのようになります。2012年から2016年の初期消化状況をまとめた円グラフです。まぁ、このグラフだけをみても、「そうか、出火時の3分の2は初期消火をしているのか!」ということしか分かりませんので、これは参考資料です。
図:初期消火の実施状況(2012年~2016年出火件数合計)
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計し、独自にグラフ化したもの。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-12 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成28年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成27年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成26年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成25年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
初期消火に使われた道具・設備
さらにこちらは、初期消火が行われていた場合に使われた道具・設備を切り出したものです。上のグラフ同様、2012年から2016年の数値を合計して円グラフにしています。
最も多いのは全体の6割を占める「その他(水道・浴槽・汲み置き等の水または寝具・衣類等をかけた)」で、まぁこれは消火設備ではなく、とにかくその辺にあった水やら布やらを火にたたきつけて消したというものになります。が、消火器などがない場合は、住宅火災で行える唯一の消火方法と言えますから、いざという時の方法を覚えておくとよいでしょう。
図:初期消火の方法・使用された道具や設備
簡易消火用具は水バケツや乾燥砂、屋内消火設備はいわゆる消火栓、固定消火設備はスプリンクラやなどの設備ですから、住宅火災というよりはその他の建物火災などで使われる手段です。
そうしますと、「その辺の水をぶっかける」以外で有効な初期消火方法と言えば、やはり消火器ということになります。住宅火災の初期消火であれば、ほとんどの場合に消火器が有効ですから、やはりこれを家庭に備えた上で、使い方を学んでおくことが重要です。
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計し、独自にグラフ化したもの。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-12 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成28年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成27年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成26年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
平成25年版 消防白書 第1-1-7表 初期消火における消防用設備等の使用状況
住宅火災における初期消火の方法・大前提
まずは119番通報
初期消火の前に、119番通報と避難のことを知っておく必要があります。まず消防への連絡ですが、現場に複数人がいるのであれば、ひとりが119番通報をする一方、残ったメンバーは初期消火に努めます。現場に自分ひとりしかいないのであれば、大声で「火事だ!119番に電話して!」と叫びながら、初期消火を実施することになります。
炎が自分の背丈を超えて天井に達したら、消火を諦めて避難開始
もうひとつは避難のタイミングです。初期消火に失敗したら炎と煙に巻き込まれて死ぬ前に逃げ出さなければなりません。逃げるタイミングとしては、炎が自分の身長を超えて天井に達した辺りです。火が自分の背丈より低ければ初期消火に努めますが、天井に達する状況になったらもう迷わず、一目散に逃げ出してください。
避難中に窓やドアを閉めて空気を遮断できればなおよい
なお可能であれば、経路状にある窓やドアを閉めて、空気を遮断しながら避難できると火の勢いを抑えるのに有効です(もちろん優先は避難、窓を閉めようとして避難が遅れるというのは本末転倒)。
コンロ火災(天ぷら油火災)の初期消火方法とポイント
建物火災の出火原因トップである「こんろ」ですが、死者が発生した火災の出火原因としては全体の5%と多くありません。つまり、出火はしたものの、初期消火が成功したり、避難成功したりして、死者が出るまでは行かなかったということです。(コンロから火が上がる場合、基本的には日中の活動時間中ですから、まぁ当然と言えば当然ですね。)
コンロ火災には消火器が有効(あれば)
消火器がある場合はこれを使うのが有効です。「対応していない消火器は使わないように」というお約束がありますが、コンロ火災(実質は天ぷら油火災)に対応していない住宅用消火器はまずありませんので、消火器があればそれをぶちまけましょう。ただ、粉末消火器は粉による二次災害(室内が大惨事に)が生じるため、できればキッチン用のエアゾールスプレー(消火スプレー)や、液体式の消火器を準備したいところです。
なお、マークで言うとこの「天ぷら油火災適応」マークが付いていれば大丈夫です。ABC表示なら「B(石油・油)」対応であれば使用できます。また消火器を使うとき、直接油の面に吹きかけると飛び散って炎が広がる恐れがあるため、鍋のフチを狙うようにしてください。
油の入った鍋に水をかけると爆発(的な状況)するので絶対NG
油の入った鍋に水をかけると、瞬間的に液体の水が気体の水蒸気になって爆発のような現象を引き起こします。結果、燃えている油を周囲にぶちまけて火災を大きくしてしまいますので、コンロ火災に水はNGなのです。
マヨネーズを入れればOKはトリビア、現実的にはやめた方がよい
コンロ火災には「マヨネーズを入れればよい」というトリビアがあります。原理としては、「マヨネーズを投入することで、油の温度が下がれば火が消える」ということです。しかし消防庁の解説によれば、『マヨネーズの主成分は油だから、水のように爆発することはない。天ぷら油を十分に冷却できる量を注ぎ込むことができ、かつ天ぷら油が鍋からあふれ出さない、という条件を満たす場合に限り、マヨネーズが有効に働く』ということです。理論的には有効な場合もあるが、現実的には逆に危ない、ということですね。
消火器がなければ空気を遮断する窒息消火が有効
消火器がない場合、水も使えませんから、方法としては空気を遮断することによる窒息消火を狙うのが有効です。燃えている鍋とジャストサイズの蓋があれば、これをゆっくりかぶせることで火を消すことができます。あるいは、濡らしたバスタオルや毛布をゆっくりかぶせることでも、空気を遮断して火を消すことができます。いずれの場合も、火を消した後に「コンロの火も消す」ことをお忘れなく。また火が消えてすぐにフタを外すとまた燃え上がりますので、十分に温度が下がるまではそのままにしておきます。
写真:天ぷら火災の初期消火体験風景1
写真:天ぷら火災の初期消火体験風景2
写真:天ぷら火災の初期消火体験風景3
濡れタオルをかぶせる方法を写真でみるとこのような長れになります。この時布を手首に巻き込んで、手が露出しないようにすると炎を遮断できて効果的です。
電気火災(家電・配線・タップ)の初期消火方法とポイント
様々な解説を見ると、「水や泡消火器を使うと感電するので、プラグを抜き、ブレーカーを落としてから、粉末消火器をつかって消すこと」とあります。が、粉末消火器がなければどうにもならないのか?となりますがそんなコトはありません。「正しい手順」を踏めば電気火災に安全な対応ができますので、この流れを紹介します。
電気火災対応「消火器」があれば、これを使う
住宅用消火器の場合はこのようなマークが付いていれば「電気火災」に使うことができます。ABC表示の場合は「C」が電気火災なので、「C火災」に対応している消火器であれば大丈夫です。電気火災に対応した消火器がない場合は、次のステップへ進みます。
燃えている電気器具のプラグをコンセントから抜く
電気火災対応の消火器がなければ、感電対策が必要になります。燃えている家電やテーブルタップなどのプラグをコンセントから引き抜けそうであれば、引っこ抜きます。こうすればもう感電の恐れはありませんので、電気火災に対応していない消火器や、バケツの水などを使って消火をしても大丈夫です。ただし、屋内の他の電気器具やコンセントに水がかかると感電の恐れがあるので注意が必要です(実際には、漏電ブレーカーが落ちて電気が止まるので大丈夫ですが)。
夜間の電気火災でブレーカーを落とす場合は照明を準備
プラグをコンセントから引き抜けない場合、壁の中の配線から出火してそもそもプラグが抜けない場合、あるいは念のためにブレーカーを落とす場合は、照明に注意してください。火災が夜間だったり、窓のない部屋だったりする場合、いきなりブレーカーを落とすと部屋の照明がなくなり、身動きが取れなくなる可能性があります(派手に燃えていればそれが明かりになりますが、消火するにしたがって見えなくなるので……)。
ブレーカーを落とす場合は、家全体ではなくその部屋のブレーカーだけにする。あるいは懐中電灯やヘッドライトを準備してからブレーカーを落とすといった対応が必要です。地震対策を兼ねて、すぐ取り出せる場所にLEDライト(両手をふさがないヘッドライトタイプがおすすめ)を準備しておくとよいでしょう。
電源を遮断したら、水をかけるか濡らした布をかぶせて消火
電源プラグを抜くかブレーカーを落とすかすれば、水をかけても感電の心配はなくなりますので、風呂の水を洗面器でかけたり、浴槽で濡らした毛布を上からかぶせたりといった方法で消火することができます。布などをかぶせた場合、その上からさらに水をかけるなどして温度を下げて、完全に消火するまではめくったりしないようにしましょう。
電気こたつが出火した場合、布団をめくらずに消火する
電気式のコタツが火を噴いた場合も、手順は前述の流れと同様です。この時、中が気になって布団をめくると、空気(酸素)が一気に入って燃え上がる恐れがありますので、プラグを抜くかブレーカーを落とすかしたらコタツ布団の上から水を大量にかけて完全に消化するようにしてください。
その他の火災の初期消火方法とポイント
ストーブ火災(石油ストーブ火災)
消火器があればこれが最も有効です。家庭用の場合はこのような「ストーブ火災対応」のマークがあるものを、ABC表示の場合は「B」が石油・その他の油に対応しています。消火器がない場合、ストーブが電気を使うファンヒーターであれば、電気火災と同じように、電源遮断→消火の順に対応します。電気を使わないストーブの場合は、水をかけたり、濡らした毛布やバスタオルをかぶせて窒息消火をさせてください。
カーテン・ふすま・障子など
火が天井へ達すると初期消火をやめて避難するタイミングとなりますが、カーテン・ふすま・障子などは炎にとって天井への通り道となってしまいます。すぐに消火器や水をかけられればそうしますが、一瞬でそうしたものが取り出せない場合は、カーテンなら引きちぎって床に落とす、ふすまや障子であれば足下を蹴り倒して床に倒す、などを行って高さを低くしてから、水をかけたり、濡らしたタオルをかぶせたりして消火します。
衣類に着火(着衣着火)した場合
特に高齢者が調理中に、コンロの火が袖口に燃え移るなど、着衣着火する場合があります。この場合、消火方法もなにもあったものではありませんが、脱げるなら燃えている服を脱ぐ、水をかぶれるならかぶる、風呂に飛び込めるなら飛び込むなどして、とにかく着衣の火を消し、その後部屋に燃え移っているならば初期消火、119番通報、火傷をしているのならば応急手当なり110番通報、ということになります。が、今上げたような行動は、高齢者には難しいことが多いため重症化したり死亡したりすることもよくあります。これについは「気をつけよう」と言うしかありません。