住宅火災対策3・逃げ遅れ対策の方法とポイント
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執筆者:高荷智也
火災で死亡をする最大の理由は「逃げ遅れ」
このグラフは、火災で死亡した人の「死にいたった経緯」を年齢別にまとめたグラフです。割合として最多なのが「逃げ遅れ」、高齢者になると増加するのが「着衣発火」、そして中高年で多い「自殺・巻き添え」です。なお「その他・不明」については、9割以上が「不明・調査中」ですので、死にいたる経緯としては「逃げ遅れ」「着衣発火」「自殺」の3つが主要であること言うことになります。
図:年齢別・火災で死にいたった経緯(2012年~2016年合計)
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計し、独自にグラフ化したもの。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-19 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成28年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成27年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成26年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成25年版 消防白書 附属資料Ⅱ− 12 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
適切な避難ができれば火災では死なないが、高齢者は避難が遅れがち
火災による死者を年齢別にすると、そもそも若い世代の死者は少なく、年齢が上がるほどに死者が増えることが分かります。むろん人口比そのものが高齢者になるほど大きくなるのですが、それを考慮しても55歳以下の層では、人口比率よりも火災による死者の割合の方が低いのです。(人口10万人あたりの年間死者数で言うと、35歳以下は0.1人、40代で0.3~0.4人、56歳以上で1人を超え、81歳以上では3.6人になります。)
自殺による死者はどうにもならないため除外すると、大部分は「逃げ遅れ」が。75歳以上の後期高齢者になると「逃げ遅れ+着衣着火」が、火災で死亡する主要な経緯となります。必ず不意打ちで生じる大地震などとことなり、ガス爆発にでも巻き込まれない限り、火災の場合は発生から避難までに時間的な余地が与えられます。素早く火災の発生を知り、適切に逃げ出すことができれば、火災から命を守ることができるのです。
逃げ遅れには「住宅用火災警報器」が有効
このグラフは火災発生時に「逃げ遅れ」で死亡した方が、なぜ逃げ遅れたのかの内訳を示した物です。全年代の合計ですので高齢者の逃げ遅れ理由が多いのですが、「熟睡しており気づかず」「身体が動かせず」「延焼が早くて間に合わず」「初期消火をしていて」などの理由が多くを占めています。このうち、「消火・救助・通報」などを除けば、「早く気づいて行動をはじめれば間に合ったかもしれない」ということですから、真っ先に火災を知らせてくれる「住宅用火災警報器」が有効であることが分かります。
図:火災で逃げ遅れが原因で死亡した際の経緯について
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計したうえで「逃げ遅れ」に関する項目のみを抜き出し、独自にグルーピングし直してグラフ化したもの。なお年代を合計する際に「不明」の年代は省いている。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-19 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成28年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成27年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成26年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成25年版 消防白書 附属資料Ⅱ− 12 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
年代別に見る、火災の逃げ遅れ対策
このグラフは火災発生時に「逃げ遅れ」で死亡した方が、なぜ逃げ遅れたのかの内訳を示した物です。前のグラフは全年代の合計でしたが、こちらは年代別の詳細となっています。年齢の右側にある括弧内の人数は、2012年~2016年に火災で亡くなった方の合計人数です。このように年齢別に並べてみると、各年代毎にどのような逃げ遅れ対策を優先すべきかが見えてきます。
図:年齢別・火災で逃げ遅れた原因
グラフの出典について
以下の表の各項目を単純合計したうえで「逃げ遅れ」に関する項目のみを抜き出し、独自にグルーピングし直してグラフ化したもの。
平成29年版 消防白書 附属資料 1-1-19 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成28年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成27年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成26年版 消防白書 附属資料15 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
平成25年版 消防白書 附属資料Ⅱ− 12 死に至った経過と年齢別の死者発生状況
乳幼児(0~5歳)の火災対策は、大人が守るしかない
乳幼児が逃げ遅れる理由の大部分は「乳幼児だから」という、なんとも痛ましい理由となっています。消防白書による詳細を引用すると『乳幼児であるため、判断力に欠け、あるいは、体力的条件が悪く、ほとんど避難できなかったと思われるもの』と解説されています。乳幼児を火災から守るためには、とにかく大人が守るしかない、という常識的な対応を取るしかないのです。
子供(6歳~15歳)の火災対策は、就寝時に火災を知らせること
小中学生になると、「火災に気づくのが遅れた(熟睡・泥酔など)」「避難が間に合わなかった(延焼早い・間に合わずなど)」の2点が逃げ遅れの理由となります。そもそも小中学生の火災による死亡率は、全年代において最も低いのですが、特徴としては「熟睡のため気がつかなかった」割合が最も高いことが上げられます。火の周りが早すぎる場合はどうにもなりませんが、寝ている時に火災に気づけば命を守ることができるのが、小中学生のポイントと言えます。
若い世代(16歳~40歳)の火災対策は、早い避難の決断をすること
高校生からアラフォー世代までの若い世代は、全年代の中でも「間に合わず(延焼が早くて避難が間に合わなかった・避難をしたが間に合わなかった)」の割合が高いことが特徴です。また「26~30歳」に関しては、「服装・持ち物に気を取られ」の割合が全世代で最も高くなっています。火災発生の直後、「どうしよう…」「多分大丈夫…」「みんなが逃げたら逃げよう…」「何を持って逃げよう…」などと考えず、とにかく素早く避難を開始することが、若い世代の命を火災から守ることにつながります。
中高年(41歳~55歳)の火災対策は、自分を見つめること
さて、見出しが占いのようになって来ましたが、中高年世代の「逃げ遅れ」特徴を見ると、あらゆる要素がバランス良く存在することが分かります。まだ体力があり素早く避難できる人、身体を悪くして自由が利かなくなっている人、守る物が多く消火活動や救助に一生懸命になってしまう人、様々です。しかし火災に対しては、「とにかく速く逃げる」ことが何よりも重要であるため、自分の体力や判断を過信せず、火災に気づいた段階でまず避難を最優先することが命を守るポイントになります。
なお余談ですが、41~46歳の特徴として「泥酔」の割合が全世代中最大であることがあげられます。もちろんこれは割合ですので、絶対数で言えば高齢世代の方が泥酔による逃げ遅れ死亡者は多いのですが、逆に言えば「泥酔していなければ40代前半の火災死亡率は低下する。」ということになりますから、哀愁と言うべきか、もの悲しさを感じてしまうのです。
高齢者(56歳以上)の火災対策は、健康管理と住居のバリアフリー化
56歳以上になると、人口比率に比べて、火災で亡くなる方の割合が多の世代よりも高くなり、年齢が上がるほどに死亡率も上昇します。高齢世代の特徴は、「身体が思うように動かせない(乳幼児・病気など)」「自分の意思で避難が遅れた(消火・持ち物)」の2つの割合が高いことです。火災に気づいても身体が動かなければ避難ができません。身も蓋もありませんが、普段から健康に気を使うこと、そして自宅のバリアフリー化を行い、できるだけ素早く避難できる環境を作ることです。
これは火災対策だけでなく、避難が必要なあらゆる災害に対して共通することですので、足腰を維持することと、避難経路を確保することが重要になります。また「消火しようとして避難が遅れた」割合が高いことも高齢世代の特徴です。「ご近所に迷惑をかけられない」と強く考える世代でもありますが、火災が自分の背丈を超えたり、天井に達しったりすると、もう初期消火は難しくなります。この場合はとにかく避難と通報を優先して、自分の命を守ることを考えなくてはなりません。