無酸素保存によるお米の長期備蓄方法
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執筆者:高荷智也
脱酸素剤と酸素遮断袋(ガスバリア袋)を用いて無酸素状態による保存を行えば、大量のお米を長期間保存することが可能です。正しい方法と手順をご案内いたします。
無酸素保存による効果
無酸素保存をオススメする最大の理由は、お米を劣化させる要因のほとんどを取り除いてくれ、しかも安価で簡易にそれを行うことができるからです。生鮮食品であるお米は傷みやすく、長期保存にはしっかりとした方法をとることが重要となります。
またお米は日本人の主食、消費する速度が速いため頻繁に購入と保存を繰り返さなくてはなりません。お米を大量に保存する際には「買う→保存する→古い物から食べる→食べたら買う→保存する」を永遠繰り返すため、保存方法が面倒であったりコストがかさむ様であれば、絶対に長続きしないのです。
- お米(白米・玄米)が劣化する原因と、無酸素保存の効果
- 呼吸… 酸素が無くなるので、呼吸が止まる。
- 酸化… 酸素が無くなるので、酸化が止まる。
- 虫… 無酸素状態を14日間維持すると、虫が死滅する。
- カビ… 酸素濃度0.01%以下では、カビの発生が抑制される。
- 乾燥… 通気を遮断するので、乾燥がある程度防げる。
- 臭い… 通気を遮断するので、臭い移りが起こらない。
このように無酸素保存はお米の保存という点においてきわめて優れた性能を発揮します(その他の食品保存にも同様です)。しかも低コストで、簡単で、常温で保存できるのも良い点です。ここから具体的にご案内いたします。
無酸素保存の行い方
食品を大量に保存する際には、「先に買った物から食べて、食べたら同じ量を補充する」ことを繰り返すのが基本です。無酸素保存の場合は、食品を補充する際に「無酸素処理」を行ってから保存することで、長期の保管を可能にしています。
この「無酸素処理」は簡単に行えます。まず最初に下記の道具を用意します。
- 保存するお米(玄米か無洗米が良いです)
- ガスバリア袋(酸素が遮断できる袋)
- 脱酸素剤(エージレス、使い捨てカイロなど)
手順は簡単、3ステップです。
- 用意したお米を、お米を密封する「ガスバリア袋」に入れます。
- 「ガスバリア袋」の中に「脱酸素剤」を入れます。
- 「ガスバリア袋」の口を閉じます。
これで完了、あとは中に入れたお米を食べるまで放置してOKです。きちんとした道具と手順で保存すれば、半年から1年以上の長期にわたり、お米をおいしい状態で保管できます。
無酸素保存の仕組みについて
上記の手順による無酸素保存は、どのような原理で行われているのでしょうか。
まず、酸素を取り除いて無酸素状態を作ってくれるのは「脱酸素剤」です。脱酸素剤は空気中の酸素を吸収してくれます。密封された空間に脱酸素剤を入れると、周囲の酸素が無くなるまで酸素を吸収し続け、酸素が無くなると吸収をやめます。
このとき重要なのは密封するための袋の性能です。レジ袋やジップロック(R)は、実は目に見えないレベルで空気(酸素)を通してしまいますので、これらの袋に脱酸素剤を入れても、最初は袋の中の空気をすべて吸収して無酸素状態を作りますが、次第に袋の外から酸素が進入してきてしまいます。
それでも脱酸素剤の能力一杯までは、外から進入してきた酸素を吸収し続けますので無酸素状態が維持されますが、限界まで酸素を吸収するとそれ以上は対処できなくなり、次第に袋の中は外と同じように酸素で満たされていきます。
そのためお米と脱酸素剤を入れる袋は、酸素を遮断することができる性能を持った「ガスバリア袋」にする必要があります。ガスバリア袋は空気(酸素)をほとんど通しませんので、口をきちんと閉めておけば長期間袋の中を無酸素状態にしておくことができるのです。
脱酸素剤(エージレス、使い捨てカイロなど)について
無酸素状態を作り出すアイテム、脱酸素剤で有名な商品といえばエージレス(R)がまずあげられます。お土産のお菓子や高級な食品の中に、つるつるとした紙に包まれた、乾燥剤のようなものが入っているのを見たことがあると思います。あれが脱酸素剤です。
※エージレス(R)は、三菱ガス化学社が商品化に成功した初めての脱酸素剤です。
身近なところでは使い捨てカイロが脱酸素剤として利用できます。カイロが発熱するのは、カイロの中に入っている鉄粉が酸素と結合して酸化する際に、熱を放出するからです。つまり密封空間にカイロを入れると、周囲の酸素を消費しながら発熱し、消費し尽くして空間が無酸素状態になれば酸化が止まり冷たくなります。なお密封空間からカイロを取り出せば、また発熱を始めます。
エージレスの原理もカイロと同じです。本来カイロは熱を得るための道具ですから、食品保存に最適ではありません。しかしガスバリア袋の中に入れてしまえば、高温になる前に発熱が止まりますので問題にはなりません。本格的に保存したい場合にはエージレスなどの脱酸素剤、コストを抑えたい場合にはカイロなど、使い分けると良いでしょう。
ガスバリア袋(酸素が遮断できる袋)について
脱酸素剤を用意しても、ガスバリア袋がなければ長期間の無酸素保存はできません。前述の通り、ガスバリア性能が無い袋は空気(酸素)を透過させます。たとえばふくらませたゴム風船、しっかり口を縛ったとしても次第に小さくなりますが、あれはゴム風船の表面から空気が抜けていくためです。無酸素保存の際にはそれと逆のことが生じます。
袋の中に酸素が外から入ってきたとしても、脱酸素剤が容量一杯になるまでは酸素を吸収し続けますので、大量の脱酸素剤やカイロを袋の中に放り込めばある程度の時間を稼ぐことができます。が、これではコストがかかりすぎます。
そのため無酸素保存を行う際には、酸素を遮断できるガスバリア袋が必要になります。ガスバリア性能が高ければ外から進入する空気(酸素)の量が少なくなりますので、脱酸素剤の容量がそれほど大きくなくても大丈夫です。もちろん性能の良いガスバリア袋と大容量の脱酸素剤を併用すれば、かなりの長期間(数年以上)無酸素状態を維持できます。
お米の保存に適したガスバリア袋は少なく、理想的な袋に出会う(?)までに私自身3年の歳月がかかりました。が、ようやく見つけた、一番オススメできる袋は本当に素晴らしく、素晴らし過ぎて、思わず私自身が販売を始めてしまった経緯があります。よろしければぜひどうぞ→
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袋の材質によるガスバリア性能の違いについて
お米が入っている袋やレジ袋、また旭化成のジップロック(R)袋などは、ポリエチレンという素材でできています。いわゆるポリ袋と呼ばれるのがこれらの袋ですが、このポリエチレンはガスバリア性能が低く空気(酸素)を透過させやすい素材で、無酸素保存には向きません。
入手が容易な袋の中でガスバリア性能が高い素材としてはナイロンがあげられます。ポリエチレンとナイロンを重ね合わせたポリナイロン袋は空気(酸素)を通しにくく、例えば料理用の真空パック機用の袋として採用されています。口をきちんと閉じることができれば、それなりの期間無酸素状態を維持できます。
完全なガスバリア性能を求めるのであれば、アルミ蒸着の袋を選択します。レトルトカレー、お茶やコーヒーなどが入っているあの銀色の袋です。これはほぼ100%に近いガスバリア性能を示しますが、一つ欠点があります。それは口を完全に閉じることが難しいことと、コストがかかることです。一般家庭ではなかなか使えません。
ガスバリア袋の口を閉じる方法について
脱酸素剤とガスバリア袋を用意しても、口をしっかりと閉じることができなければ意味がありません。袋の本体から空気(酸素)が進入することはありませんが、封が完全でなければそこからいくらでも進入してきてしまいます。実質、袋の口を閉じる方法が無酸素保存の鍵を握っているのです。
一番確実なのは、家庭用のヒートシーラーを用いて熱で口を圧着させる方法です。真空パック機やヒートシールクリップなどを用いて、袋の口を熱で溶かして止めることができます。きちんと閉じることができれば、そこから空気(酸素)が進入することはまずありません。
ただし問題があります。ヒートシーラーは熱で圧着するため、お米を取り出す際には袋をハサミで切る必要があるため、袋の再利用ができずにコストがかかります。そして何より面倒です。コストがかかり面倒であるというのは、お米の保存においては致命的です。覚悟を持って望む必要があります。
その他の方法としては、専用のクリップを用いて口を閉じたり、酸素遮断性能を持つチャックがついた、ガスバリアチャック袋を用いる方法があります。クリップを用いる際は止めるのにコツや力が必要でやや面倒です。チャック袋はツーッと袋を閉じるだけですので簡単ですし、反復利用もしやすくオススメです。